顔合わせ
試合前、会場は異様な熱気に包まれていた。アリシアの存在感とアルノアとの2人チームという特異性が、大会を観戦する者たちの関心を一手に集めている。観客席からは「聖天アリシアの本気が見られるのか?」という声や、「2人だけで本当に勝てるのか?」という疑問が飛び交う。
実況アナウンサーの声が響く。
「注目の第3試合、ついにフレスガドル代表Aチームが登場です! 言わずと知れた『聖天』アリシア・グラントと、彼女と共に戦う謎多き若き冒険者アルノア・グレイ! 対するは連携力に定評のあるアグアメリア代表Bチーム。バランスの取れた布陣で毎回大会を賑わせているチームです!」
その言葉に呼応するように、観客からは一層大きな歓声と期待の声が上がる。
先に入場したのはアグアメリアBチームだ。水を基調とした色彩の衣装を纏い、全員が堂々とした足取りでフィールド中央に立つ。
チーム全員が戦闘態勢を取り、鋭い目線を向ける。
続いて入場したアルノアとアリシア。2人きりの異質なチーム構成にも関わらず、その堂々とした佇まいに観客席がどよめく。特にアリシアの気品ある姿には、歓声が一段と高まる。
実況アナウンサーの声が重なる。
「さあ、登場しました! フレスガドル代表、アリシア・グラントとアルノア・グレイ! この2人チームが一体どんな戦いを見せるのか、注目が集まっています!」
アルノアはアリシアの隣に立ちながら、静かにフィールドを見渡した。対するアリシアはそのまま穏やかな微笑みを浮かべながら、相手チームを見据えている。その姿に観客から「アリシア様だけでも圧倒的に強そうだ」という声が漏れる。
フィールド中央で両チームが向き合うと、ダリオが再び口を開いた。
「君たちは2人で代表になってきたんだ強いのはわかっている。だが、俺たちだってこの大会で名を上げるつもりだ。本気で行かせてもらう。」
アルノアは静かに頷きながら言葉を返す。
「それでいい。手加減される方が、こっちもやりづらいからな。」
アリシアも微笑を浮かべたまま口を開く。
「互いに全力を尽くして、良い戦いをしましょう。」
その瞬間、観客席から歓声が巻き起こり、試合開始の合図が待ち遠しい雰囲気が漂う。
「この試合、注目すべきポイントはズバリ2つ! フレスガドル代表チームの『少数精鋭』がどこまでアグアメリアの『変幻自在の連携』に対応できるか、そしてアリシア・グラントの真の実力がどこまで見られるかです!」
アリシアが大会に出ることも初めてのため、アルノアへの注目は薄れているが、アルノアはそんなこと気にも止めていなかった。
「果たして、勝利を掴むのはどちらのチームか! それでは試合開始です!」
合図の鐘が鳴り響き、いよいよ試合がスタートする。
実況が興奮気味に声を張り上げた。
「さあ、いよいよフレスガドルとアグアメリアの戦いが始まりました!初手はどう出るか、お互いの実力を探る展開になるでしょう!」
ダリオが初手を指示する。
「レイラ、牽制の水球を頼む!セス、俺のカバーをしながら正面から様子を見ていけ!」
アグアメリアBチームのサポート役であるレイラが指先を軽く振り、空中に小型の水球を複数浮かび上がらせる。それは静かに回転しながら相手チームに向けて放たれた。
実況が説明を加える。
「アグアメリアの特徴的な連携が早くも発揮されています!レイラ選手の精密な牽制攻撃で相手の動きを封じながら、ダリオ選手とセス選手が間合いを詰めていく構えです!」
アリシアが水球を一瞥し、軽く手を振る。するとその動きに合わせて足元の地面がわずかに隆起し、迫ってくる水球を破壊していく。
「こんなの、いちいち避ける必要もないわ。」
アリシアの落ち着いた声が響く。
その様子を見たダリオが即座に新たな指示を出す。
「セス、前進を抑えろ!近距離はまだ無理だ!」
だが、その瞬間にアルノアが動いた。
「様子見とはいえ、このままでは面白くないよな。」
アルノアは軽く地を蹴り、素早く間合いを詰めながら手元に炎と氷の小さな魔法陣を同時に展開する。彼が放ったのは大小の火炎弾と氷柱。
「へえ……攻撃魔法の二重発動か?」
セスが驚きながらも、間合いを維持しようと身構える。
セスが武器を構えて前に出ると、ダリオが動き出した。
「俺が相手を引きつける、タイミングを見て合わせろ!」
ダリオの指先が光り輝き、地面から激しい水流が吹き上がる。それはアルノアの攻撃を遮る盾となった。
「思った以上に器用だな。なら……!」
アルノアは一瞬で炎の軌道を変え、水流の脇をすり抜けるように放つ。
実況が叫ぶ。
「これはすごい!アルノア選手、器用に攻撃の方向を切り替えました!完全に無駄のない動きです!」
しかし、炎はセスの手元で展開された小型の水障壁に阻まれる。
「思ったより速いが、読みやすい動きだ。」
セスが冷静に対応してみせた。
ダリオとアルノアが睨み合い、両者の間に張り詰めた緊張感が漂う。その隙を突くように、アリシアが小声でアルノアに言う。
「遊びすぎよ。そろそろ本気を出してもらえるかしら?」
アルノアは苦笑しながら肩をすくめた。
「はいはい、わかったよ。」
次の一手で、戦いがさらに加速することを予感させる緊迫した空気の中、試合は序盤から目を離せない展開を見せ始めるのだった。
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