準決勝の裏での暗躍
試合後の違和感――消えた一人
準決勝はアルノアとアリシアの勝利で幕を閉じた。敵チームの大精霊召喚やリューナの圧倒的な攻撃を退けた彼らは、観客席からの大歓声に包まれる中、肩で息をしながら戦場を後にした。
「なんとか勝てたな……」
アルノアは汗を拭いながらアリシアに話しかけた。
「ええ、本当にギリギリだったけれど、あなたの戦い方には驚かされたわ。」
アリシアが微笑みかける一方で、アルノアの顔にはわずかな曇りがあった。
残る違和感
控室に戻り、二人は試合を振り返る。ヴァリスの指揮力、大精霊召喚による圧倒的な力、そしてリューナの最終的な猛攻――全てが記憶に鮮明に残っていた。
だが、アルノアはどこか釈然としない。
「なあ、アリシア。敵チームの支援役って……3人いたよな?」
その問いかけに、アリシアも一瞬戸惑った表情を浮かべる。
「そうね。ヴァリスが指示を出していた時、確かにバフをかけていたのは3人だった。」
「だよな。でも、最後にもう一度バフをかける時ヴァリスが“2人”に指示を出したんだ。あの時、俺もおかしいと思ったんだけど、戦いに集中してて深く考えなかった……。」
二人は記憶を辿ろうとするが、どうしても消えた一人の顔や行動が浮かんでこない。
敵チームの様子
勝利を収めたアルノアたちが控室に戻る一方で、敗北した敵チームも静かに戦場を去っていた。
「……負けたな。」
ヴァリスは深いため息をつきながら呟いた。
「悪い、リューナ。君をここまで追い詰めてしまった。」
彼の声にはリーダーとしての責任感が滲んでいた。
「仕方ないわ、アルノアとアリシアは本当に強かった。」
リューナは疲れ切った様子で答えるが、その言葉にはどこか諦めの色も混じっていた。
しかし、彼らの中でふと湧き上がる違和感。
「……そういえば、カイラはどこに行った?」
リューナの一言に、ヴァリスの顔色が変わる。
「カイラ……?」
その名を口にした瞬間、彼の頭にある種の空白が広がる。カイラという名前は確かに覚えている。だが、彼女が試合中に何をしていたのか、どこにいたのか――全く思い出せないのだ。
アルノアたちと同様に、ヴァリスたちもカイラの存在が頭から抜け落ちていることに気づき始める。
「おかしい……カイラは確かに支援役としていたはずだ。でも、彼女が試合中何をしていたのか思い出せない。」
ヴァリスの声に、リューナも困惑した表情を浮かべる。
「確かに……でも、なんで私たちはそのことに気づかなかったの?」
一同がその謎に頭を抱えている間、カイラ自身は既に姿を消していた。
控室を出たアルノアは、廊下で偶然ヴァリスとすれ違った。敗北したばかりの彼に声をかけるべきか迷ったが、ふと頭に浮かんだ疑問をそのままぶつける。
「ヴァリス、お前のチームに支援役は3人いたよな。でも最後、2人にしか指示を出してなかったのはどうしてだ?」
その問いにヴァリスは一瞬言葉を詰まらせた。
「……お前も気づいたのか。俺たちの支援役……いや、カイラのことを、だ。」
ヴァリスは深い苦悩を滲ませながら言葉を続ける。
「カイラは珍しい個性闇魔法を持っていて“存在を隠す”能力を持っていた。俺たちの中にいながら、意識から外れて振る舞うことができるんだ。だが、なぜ彼女がそうしていたのか……俺にも分からない。」
「存在を隠す……?」
アルノアは眉をひそめる。
「試合中、何か妙なことが起こっていた気がする。宝具を召喚する時には彼女は消えていた。宝具を召喚するための次元の扉……そこにカイラが何かしていた可能性は?」
ヴァリスの表情がさらに険しくなる。
「……まさか、あの扉を?」
「いや召喚はできてもこちらからあの扉に入ることなんて出来ないはずだか……」
その頃、カイラは学園の喧騒から離れた場所に立っていた。彼女の手には黒く輝く石が握られている。それは次元の扉の中から持ち出した、破壊の神の復活に必要な手がかりだった。
「これを得るまでヴァリスと共に行動するようにしてたけど、なかなか切り札の宝具の扉を開けてくれなくて困ってたのよね〜」
「あの編入生くんとアリシア様には感謝だわ〜」
彼女の口元には薄い笑みが浮かぶ。アルノアたちがその存在に気づく頃には、既にカイラの目的は達成されていたのだ――。
アルノアは試合後、控室や観客席を回り、カイラについての情報を集めようとした。
「なあ、準決勝で戦った敵チームの中に、カイラって名前の奴がいたよな?」
彼はチームの戦いを見ていた他の生徒たちに聞いて回った。だが、返ってくるのはどれも曖昧な返答ばかりだった。
「ああ、そんな名前の子……いたような気もするけど、よく覚えてないな。」
「確か3人で支援してたんだっけ? でも、顔までは……」
「いや、リューナとヴァリスは覚えてるけど、もう一人の支援役って誰だったっけ?」
聞けば聞くほど、カイラの存在は霧の中に消えていくかのように曖昧になっていった。彼女の姿や行動を鮮明に覚えている者は一人もおらず、試合後の記録にも彼女の名は残されていなかった。
「これって……どういうことだ?」
アルノアは困惑を深める。
その夜、宿舎に戻ったアルノアはベッドに横たわりながら考え込んでいた。エーミラティスの声がふと脳内に響く。
「アルノア、お主も気づいているな。あの消えた娘、カイラの目的は――我々の戦いとは別の場所にあった。」
「そうだ。試合中、彼女は目立たないように動いてた。でも……最後の次元の扉で何かしてたんだろう?」
エーミラティスは一瞬黙り、まるで記憶の奥深くを探るような声で話し始めた。
「儂の知る限り、“存在を消す”魔法の系統は極めて特殊だ。その力を持つ者が、ただ支援役として戦いに参加していたとは思えぬ。おそらく、彼女の本当の目的は試合そのものではなかった。」
「本当の目的……」
アルノアは拳を握りしめる。
「エーミラティス、次元の扉の中に何があったのか分かるか?」
「次元の扉――それは召喚術の核とも言える存在。だが、扉は開けた者が鍵を持つ。儂がその中身を知ることはできぬ。しかし……」
「しかし?」
「宝具の次元召喚の先は誰がその召喚魔法を使っても同じ場所へ繋がる。呼び出せる宝具は召喚者の実力次第だがの。」
「儂の長い記憶では、次元召喚の空間にはいくつもの禁忌の品が封印されていた記憶がある。そして、その中には“破壊の神”と呼ばれる者の力を復活させるための手がかりも含まれていた。」
その言葉に、アルノアの胸がざわめく。
「破壊の神……まさか、それが彼女の狙いだっていうのか?」
「確証はない。だが、この胸騒ぎを無視するのはまずい」
カイラについての情報を得られぬまま、アルノアは不吉な予感を抱えながら眠れぬ夜を過ごした。
「破壊の神……そんなものが復活したら、どうなる?」
アルノアの問いかけにエーミラティスが応える。
「破壊の神が復活すれば、この世界は理そのものが狂うだろう。だが、現時点ではそれが実現したわけではない。お主はまだ気を張りすぎるな。しかし、奴らの真の狙いを突き止める必要がある。」
「分かった。今は準決勝に勝てたことを喜ぶべきだ。でも、絶対にあのカイラって奴を追い詰める。」
アルノアは拳を握り、決意を新たにする。だが、その胸の奥には、これから訪れる大きな戦いへの不安が静かに広がっていくのだった。
「とりあえず決勝戦に勝たなきゃな。」
冒険者になって手がかりを探すんだ。
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