5層のボスと異変
フレスガドル中央のダンジョンでの演習が始まり、アルノアたちは順調に進んでいた。初めてのチームながら、ロイドの堅実な盾役、セリアの正確な射撃魔法、ガイルのサポート能力が見事に噛み合っており、アルノアも自分の役割を意識しながら、全員の連携を心地よく感じていた。
そして、いよいよ5層に到着した。
「ここから先は各層にボスがいるんだよね?」
セリアが少し緊張した声で確認する。
「その通りだ。5層のボスはミノタウロス。力が強いし、動きも意外と俊敏だ。油断するなよ。」
ロイドが盾を握り直しながら答える。
アルノアは一歩前に出ながら周囲を見回した。どこか引っかかるような感覚が胸にあった。
「……なんか嫌な感じがするな。」
「どうしたの?」
ガイルが眉をひそめてアルノアを見た。
アルノアはしばらく黙った後、重い口調で答えた。
「この空気……ランドレウスの学園での襲撃の時と似ている。微かだけど、あの時感じた黒い魔力を感じるんだ。」
セリアが目を見開き、ロイドも険しい表情になる。
「黒い魔力……?」
「わからない。ただの気のせいかもしれない。でも……」
アルノアはさらに前進し、剣を構えた。
「警戒しておいた方がいい。もし普通のミノタウロスじゃなかったら、俺が前に出る。」
「頼もしいこと言うね。」
セリアはそう言いながらも、軽口で緊張を隠しているのがわかった。
しばらく歩くと、巨大な石造りの扉が現れた。ボスのいる部屋の入り口だ。
ロイドが扉の前で振り返り、全員に視線を送った。
「準備はいいか?」
全員が頷く中、アルノアだけは扉の向こうに意識を集中させていた。その先から確かに感じる、あの禍々しい気配。
「行こう。」
ロイドが扉を押し開けた瞬間、冷たい風が全員を包んだ。そしてその中央に立つのは、異様な雰囲気をまとったミノタウロス。
黒い筋がその体に浮き出ており、両目には赤黒い光が宿っている。その様子を見た瞬間、アルノアは確信した。
「やっぱり……あれは普通のミノタウロスじゃない!」
アルノアたちは戦闘態勢を取ると同時に、緊張感が一気に高まった。この異常な気配の正体が何なのかを確かめる戦いが、今始まろうとしていた。
誰かの視線――――
遠く離れた影の中で、黒いマントを羽織った人物が静かに呟いていた。
「さて……低階層の魔物は実験するには都合が良い。制御も比較的簡単だしね。」
その声は冷たく響き、意図的な残酷さを孕んでいた。黒いマントの人物は首元に十字架のネックレスを光らせながら、遠くを見据える。
「それにしても、あの子ら……特に白髪の少年はどうするだろうか。」
彼はふと口元に微かな笑みを浮かべた。
「破壊神の力が微かに動き始めている。魔物たちがどう反応するか、じっくり観察させてもらおう。」
その場に漂う薄暗い空気が、彼のただならぬ存在感を物語っていた。ミノタウロスに宿っていた黒い魔力――それを操った者の正体が、この黒いマントの人物であることは明らかだった。
彼の目には、アルノアたちの動向を見守る冷徹な光が宿っていた。
「さあ、楽しませてくれ……」
黒いマントの人物は闇の中へと姿を消し、ただ冷たい笑みだけがその場に残った。
戦闘開始――――――――
ミノタウロスとの戦闘が始まり、緊張感が一気に高まる中、パーティーは果敢に攻撃を仕掛けた。
「セリア!援護を頼む!」
ロイドが前衛でミノタウロスの攻撃を防ぎながら叫ぶ。セリアは即座に炎の矢を放つが、ミノタウロスを包む黒い魔力がそれを遮るように弾いてしまう。
「全然効いてない!?なんなの、この黒いもや……」
セリアが焦りの声を漏らす。
一方、ガイルは風属性の魔法でミノタウロスの足元を狙い、その動きを制限しようとするが、ミノタウロスの暴れ方はさらに激しさを増していった。
「力が強すぎる……ロイド、一度下がれ!」
ガイルがロイドに呼びかけるが、その瞬間、ミノタウロスが口を大きく開け、燃え盛る火の球を吐き出す。
「危ない!」
ロイドは咄嗟に盾を構え、火球を受け止めるが、衝撃で大きく吹き飛ばされてしまう。
「ロイド!」
セリアとガイルが声を上げるが、ロイドはなんとか体勢を立て直し、戦闘に戻ろうとする。
一方で、アルノアはミノタウロスの動きを冷静に観察していた。黒い魔力に守られた異常な存在であること、そしてその動きがどこか不自然でただ暴れているだけのようにも見えることに気づく。
その時、アルノアの中でエーミラティスの声が響いた。
「アルノア、奴の黒い魔力はおそらく封じられた破壊神の力の一端じゃ。儂が魔力を解放してやるから、短期決戦で決めるぞ。」
アルノアは一瞬考え、すぐにパーティーメンバーに向けて叫んだ。
「全員、ミノタウロスから離れて!ここからは俺がやる!」
「何を言ってるの!?一人でなんて無茶だ!」
セリアが驚きの声を上げるが、アルノアの真剣な目を見て、全員は一旦後退する。
アルノアは大鎌を握りしめ、静かに呼吸を整える。エーミラティスの力が解放されると、彼の目は銀色に輝き、白いオーラが体を包み込んだ。その姿にパーティーメンバーは思わず息を呑む。
「白雷氷刃〈はくらいひょうじん〉発動……!」
アルノアの声が響くと同時に、雷と氷の魔力が混じり合い、その身体にまとわりつく。雷の力が彼の動きを加速させ、氷の力がミノタウロスの動きを一瞬にして留める。
「行くぞ!」
アルノアは疾風のような速さでミノタウロスの懐に飛び込むと、一気に魔力を高めた。氷と雷が絡み合った大鎌を振り上げ、切り上げる。
「氷牙雷閃!〈ひょうがらいせん〉」
叫びと共に放たれた一撃が、ミノタウロスを貫き、その黒い魔力ごと引き裂いた。
轟音とともにミノタウロスは崩れ落ち、その場に静寂が戻る。パーティーメンバーが駆け寄る中、アルノアは深く息をつき、手にした大鎌を見下ろした。
「終わった……。」
その一言に全員が安堵しながら、同時にアルノアの力に驚きと畏敬の念を抱いていた。戦いの終わりと共に、黒い魔力が放つ不穏な気配も消え去っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます