第28話 国王の側近
日が暮れる少し前に、国王の側近が乗る馬車と修道院を束ねるお偉方の馬車が到着した。
その規模に、修道士、衛兵、町中が困惑していた。
しかも、ほとんどの護衛が町の外れの領主の館に置いてきたというのに、この大人数。
驚いていなかったのは、修道院長、ブラザーヨハンソン、ブラザーデレクぐらいかも知れない。
「おや、戦いかお祭りでもあるのかね。凄い馬の数と人だね、人の足音と蹄の音ばかりだ。」
ブラザーヨハンソンが、いつもと同じおっとりした口調で呟く。
「私は、お祭りがいいね。」
ブラザーデレクの言葉に、ブラザーカーチスがお静かにと釘を刺す。
2人とも、先の戦いで、兵が大勢、町になだれ込み拠点にされそうになった時、この修道院に居たので、さほど驚かなかった。
その時、修道院どころか、町から兵を追い出したのは、今の修道院長だ。
中立の立ち場を貫き、町の外に拠点を作らせ、兵の暴挙を許さなかった。
修道院長のもと、町の者も強固に抗った。
その時、兵を率いていたのが、今は国王の側近となったヘルツォーク卿だ。
「また、押し入ろうと言うのかね、ヘルツォーク卿。」
修道院長が、手を広げる。
「まさか、貴方には勝てませんよ。」
馬車から降りたヘルツォーク卿が、院長を抱きしめる。
お互いに笑みを浮かべて。
衛兵の兵舎の後ろに、貴賓が来た際の館がある。
ヘルツォーク卿は、この館に泊まる。
国王が泊まれる豪勢な館だ。
ヘルツォーク卿の護衛である兵のほとんどが、衛兵の兵舎に吸い込まれていく。
今日も、ケイシーが門番をしており、いつもより顔が緊張しているように見えた。
「お馬さんに乗りたい!」
マックスが、他の修道士達をかき分け前に出る。
「さぞや、良い馬ばかりだろうね。」
ブラザーヨハンソンが呟く。
「ええ、良い馬ですね。」
ブラザーキンブルは、懐かしそうな顔で兵や馬を見た。
ヘルツォーク卿、修道士のお偉方を院長が修道院の中へと案内する。
その後ろを副院長とブラザーカーチスが続く。
先ずは、礼拝堂で神へ祈りを捧げ、ささやかだが修道院の夕食が、来客をもてなす予定だ。
他の修道士達が、それぞれの持ち場に戻って行く。
ほとんどの修道士達は、何でこんなに大勢なのか、戦いでもあるのかとコソコソ話している。
ブラザーキンブルも、怪訝な顔をしながら、薬草園に戻る為、歩き出した。
「お腹空いたね。」
「空いたね。」
ソニーとマックスは、お互いにお腹を擦りながら、ブラザーキンブルの後ろを歩き出した。
「後、ちょっとだ、さっさと片付けるぞ。」
ブラザーキンブルは、ソニーとマックスを見て微笑んだ。
食堂では、ブラザーアンセムがため息を吐いた。
「……多い、人参が。こんなにいらない……。」
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