第16話 週末は、もっと忙しい

 日曜日には、町の人達が大勢お祈りにやってくる。もちろん、平日もお祈りはできるが、働く者達のほとんどが、日曜日に家族揃ってやってくる。


 ソニーとマックスのいる修道院は、とても大きくて由緒ある修道院なので、近隣に屋敷を持つ貴族や、遠くの町からもお祈りに訪れていた。

 そのため、週末はさらに忙しい。

 修道院に隣接している宿泊施設も満杯になるので掃除やら洗濯、食事に使用する食器やら食材やらの準備、当然、礼拝堂はいつでも綺麗にしているが、更に綺麗にし、飾り付けも更に豪華になる。


 金曜日の午後、ソニーとマックスは、写本室に来るよう、ブラザーファースに呼ばれた。


「ソニー、マックス、重くて悪いが頑張って運んでおくれ。」

 ブラザーファースは、笑顔を見せつつも、かなり慌てながら、ソニーとマックスに斜めがけの鞄をかけてあげる。

 中には、ブラザーファースが写本した美しい教典が入っていた。

 ソニーの鞄には2冊、マックスの鞄には1冊が入れられている。


「青い鳥亭だよ。一番大きな宿だから分かるね。」

 ブラザーファースは、優しくソニーとマックスの頭を撫でた。

「私が行ければ良いのだが、まだ完成さないといけない写本があって出れない。他の修道士達も大忙しで出れないから、すまないが頼むよ。」


「大丈夫です。青い鳥亭は一番近いし、この綺麗な教典をちゃんと届けます。」

 ソニーと一緒に、マックスも届けますと大きな声で返事をするとブラザーファースは笑顔でふたりを送り出した。



「この教典、すっごく綺麗だったね。赤色や黄色、青色の字もあったね。」

 ソニーは、鞄をパンパンと軽く叩き、興奮気味に話しながら町に繰り出した。

「僕も、いろんな色使って絵を描きたい。」

 マックスは、重たい鞄に体を揺らされながら歩いている。


「絵じゃなくて、字な。」

 ソニーも、2冊の教典の重みで体を揺らされていた。


 教典は、とても重く、分厚い。通常、家に置いておくもので、皆がお祈りに来る時は、その日使われるところだけ、紙に書かれたものを修道士から渡され、終わると回収され、使い回しされる。



 修道院の大きな門を通り抜けると、目の前には大きな広場がある。


 大きな町だが、下は土のままだ。

 石畳を採用したい派と馬の足が痛むからと言う土派でずっと揉めている。


 修道院を背に、右側の正面には衛兵の大きな兵舎があり、左側には町の案内所がある。

 修道院の門を出たソニーとマックスの目の前には、週末に向けて大忙しの町の風景があった。


 ソニーとマックスは、大きな広場を横切り衛兵の兵舎側に向かう。

 青い鳥亭に行くには、町のメインストリートである大通りを右側に曲がるので右側を歩くように、ブラザーキンブルから言われていた。

 衛兵の前で、事故を起こす馬鹿もいないだろうとブラザーキンブルに言われたように、衛兵に向かってソニーとマックスは大きな広場を横切った。


「おい坊主達、お使いか?今日は荷馬車が多いから気をつけろよ。」

 兵舎の前で警備につく若い衛兵が、ソニーとマックスに声をかける。


「うん、気をつける。」

 ソニーが、衛兵に手を振る。

「バイバイ、ケイシー。」

 マックスも手を振る。


「さんをつけろよ、さんを。ブラザーカーチスに言いつけるぞ。」

 ケイシーは、笑いながら手を振る。


 ソニーもマックスも、ケイシーを衛兵になる前から知っているので、ついタメ口になってしまう。

 ケイシーは、あまり裕福では無い貴族の出で、この春、衛兵に入ったばかりだ。

 隊長に憧れて入隊したので、今は兵舎の前の番人でも、我慢して頑張っていた。


 広場を抜け、大通りに入ると、左側の通り沿いにある大きな店構えは、パン屋だ。

 たくさんのお客が買いに来るが、今は、土曜日と日曜日の朝に、各宿屋に届けるパンのため、小麦粉を大量に店の中に運び入れており、左側を通ったら邪魔だと怒られそうだった。

 やっぱりブラザーキンブルは正しい。

 ソニーとマックスは、安心して右側をゆらゆらと歩きながら青い鳥亭に向かった。


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