第7話 西島の方が心配です
その夜、俺は眠れなかった。
夢見るのも嫌だったし、何より二人の計画が気になってしょうがなかった。計画、っていったいなんだろう。ぐるぐる思考がまわって、寝ようと思っても、寝れるはずもなかった。結果として、修学旅行の前日なのに2時間しか寝てないという悲劇が生まれた。
ベットから出るとき、すがすがしい朝なのに、眠気が半端じゃなかった。
自分の顔を見れば、やつれた姿が映っていた。
「なんなんだよ、クソ…」
今日は修学旅行当日だってのに!
そう叫んで、地団駄踏みたいぐらいだった。
パソコンを見れば、政府からいつもの『報告』が入っていた。危険人物はいるかと聞いてくるそのタイミングのよさに、俺は息をつく。俺はパソコンを操作して、『特に異常なし』と打ち込んで送信した。
一瞬、栗須の顔を横切ったが、頭を振ってその考えを払しょくする。
…―――こんなんで、大丈夫なんかなぁ。
俺はためいきをつきつつ、荷物を準備する。
俺は用意した大きな荷物をもって、電車へ向かった。朝ご飯は、食べる気にもなれなかった。お母さんにたのしんできてね!と言われたが、まったく不穏な予感しかしない。
電車は、いつも通り、人々の願望にあふれていた。
学校の最寄りにつくと、ホームに見知った顔が見えた。俺はその人物に駆け寄ると、肩をたたく。
「おはよ、西島」
「増栄くん」
西島は、いつも通りの綺麗な顔をしていた。手には荷物を抱え込んでいる。だが、顔は普段の可愛らしいものだった。これじゃあ、きっちり寝たということだろう。俺だけがその計画を知っていると気づいて、ため息をつきたくなる。そんな俺の気持ちがでていたのか、西島は不思議そうに聞いてきた。
「なんか疲れた顔をしてるけど、だいじょうぶ?」
「……あんまだいじょうぶじゃない」
はあ、と息をついたが不安は大きくなるばかりだ。
「どうかしたの?」
「…言っていいんだか分かんないけどさ…」
西島の問いに、俺はポツリポツリと話を始めた。話して不安に思われてしまうかもしれないけれど、俺は一人で抱え込む余裕はなかった。
昨日、栗須と角川がなにやら話していたこと。その内容がどうやら俺にかかわる「計画」をしている内容だと、栗須の心の声からわかったこと。それで昨日は不安になって、寝れなかったこと…―――。
俺が話している間、西島は考え込む表情をしていた。
話を終えるころには、学校についていた。
「……なんか、やばい香りがする」
「だろ?」
俺は、何度目かもわからぬため息をはいた。はあ~という息とともに、この気持ちも流れればいいのに。
西島は、伏目がちに言った。
「…行動班のとき、俺が角川くんを見張ってるから…」
「え?」
思わぬ申し出に、おれは思考を停止させた。
「だって、西島角川のこと怖いって」
「…怖いけどさ…、たぶん仕掛けてくるのって角川くんだと思うし。俺が何も出来ないように見張ってるから…、増栄くんは栗須くんの心の願望をみてみて」
「……西島…」
俺は西島の、申し出にじんわりと心が温まった。こんなに西島は俺を心配してくれている。でも、こんな大切な修学旅行のときに、俺ばかりを気にしてもらっても西島に悪い。西島は、本当に怖いのか、身体が震えていた。
そんな彼にそこまでしてもらうほど、俺は甘ちゃんじゃない。
俺は、ゆっくりと首を振った。
「ありがとう…、でも、そんなことしてもらっても西島が大変だろ? 普通に、修学旅行すごせば何にも怖いことないから、大丈夫だよ」
「増栄くん……」
西島は、あっけにとられたように声を緩ませた。
しばらく考えているようだったけれど、
「でも、無理はダメだよ。俺は、なんとか計画のことを栗須の心の声から聴いてみるよ」
「…ありがとう…」
たしかに、西島は栗須の心の声をきける。そこからどういう計画をしているのかが確実にわかる。俺はそっちのほうがいいのかもしれない、と考えをかえた。
二人で話し込んでいたら、学校の外に、修学旅行で貸し切った旅行大型バスが並んでいた。自分のクラスのバスを探すと、俺たちは荷物を乗員にまかせて、乗り込んだ。このバスで航空までいって、それから飛行機で目的地に行く予定だ。
走れる能力をもっているクラスメイトは、飛行機代が浮くからと自分でもう京都へ向かっている。
そんな能力があったら、行くまでのかかる交通費は相当削れるだろうな。
「俺もそんな能力あったらなー」
俺がぼそりとつぶやくと、西島は首をかしげた。
「いや、なんか京都まで自分能力でいってるやついるからさ、そういう能力あったらいいなって」
「ああ、そういうことね。でも、バスで行くっていう臨場感もいいかんじじゃない?」
西島の言葉に、俺はうなづいた。
「そういう考えもあるかぁ」
俺たちは、指定されているバス座席に並んで座った。制服で乗り込むクラスメイトたちは、どこか浮足立っている。それもそうだ。これから、飛行機にのって修学旅行というイベントにワクワクするしかないのである。
「おっ、来たな。ポテチくう?」
後ろの席に座っていた角川は手に持っていたスナック菓子を見せながらいう。
俺は少し冷や汗をかいた。角川の方を振り向けば、その隣には栗須が仏頂面で座っていた。どこか面白くなさそうな顔をしてて、俺は嫌な予感がしてならない。
「食べる」
西島が角川の手にあったポテチをもらっている。俺も、目の前にみせられて、小さくうなづいた。
「ありがと」
受け取って食べると、塩味のおいしい味がした。少ししょっぱいが、それがこの味なんだ。
「これいつ出発すんのかね?」
パリパリと食べながら、身を乗り出して角川は問うた。
「さあ、もう少しじゃね」
「わかんない」
俺たちがわからないと首をふると、角川は口をゆがめた。そして、隣で腕を組んでいる栗須に話しかけた。
「なあ、いつだと思う?」
「…知るか」
栗須のぶっきらぼうな答えに、角川は驚いていた。だが、そのまま肩をこづいている。
「知るかってひでぇな」
「もう少しだろ」
「あー、早く出発してくんないかなぁ。暇でしょうがないっつうの」
あーだこーだ言っている二人に、俺はなんだかんだで仲いいんだなと思った。隣の西島が俺の目を見て、少し震えている。また栗須が、変なことを考えているのだろうと思って、話を聞くために耳を西島の口元のほうへもっていく―――が。
「だめ!」
肩に強い衝撃が走る。
「へっ」
俺は、いつの間にか身体を西島に突き飛ばされていた。理由はしばらくして栗須が嫉妬するようなことを思っていたということがわかったけれど、俺ははじめいったい何が起こっているのかよくわかっていなかった。
西島が「ほんとうにごめん!」と謝ってくれたが、内心この旅行が波乱に満ちているということを改めて悟ったのだった。
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