第8話:ダイヤモンドメモリ



 みなさま、ごきげんよう。

 美少女メイドハイブリッドコンピューターAIのノルンです。

 AIなので、異性にモテたいとは思いませんが、人気者にはなりたいと常々考えていますの。

 人口は激減しましたけれど、どこかでバズって貰えないでしょうかね?


 さて、今回は「ダイアモンドメモリ」についてです。

 ダイアモンドメモリは量子コンピューター用のメモリデバイスとして有力なもので、特に「ダイアモンドNVメモリー」というものが有力視されています。


 ダイアモンドNVメモリーは、純度の高い人工ダイアモンドを使用し、ダイヤモンド中の窒素-空孔(Nitrogen-Vacancy:NV)中心を利用した量子メモリーのことを指します。

 NV中心というのは、ダイヤモンド結晶中に存在する窒素(Nitrogen)不純物と、それに隣接する格子欠陥(Vacancy)がペアになった構造です。

 この中に電子を収め、量子スピン状態を記録するメモリ方式です。


 特徴としては、ダイアモンドという安定した物質(炭素の塊)であることで、雑音(デコヒーレンス)に強い性質があります。

 量子は環境中の様々な要素で変化しやすいので、状態維持に有利な炭素結晶を用いることで、長期保存が可能となります。

 また、このメモリであれば常温でも状態(コヒーレンス)を長く保てるというのも、採用される大きな理由です。

 メモリの読み込みも、高精度レーザーで比較的簡単なのも利点ですね。

 メモリの書き出しにも、マイクロ波やレーザー光を使って、量子の状態を変化させます。


 こうした扱いやすさがあるので、高額なものではありますが、純度の高い人工ダイヤモンドと窒素を使ったメモリが、みなさまの世界線である、現実世界でも開発されつつあります。


 ダイアモンドNVメモリーは、単純なメモリだけでなく、中継用のデバイス、磁場・電場・温度などの超高感度センサー、生体内での非侵襲的センサーなどの応用にも使えるので、バイオロジックモジュールでも採用できるものです。


 人工ダイヤモンドを使用する理由は、天然ダイヤでは純度が低く、別の元素も入ってしまうと、それだけでノイズになってしまうからです。

 不純物を取り除き、人工的に生成すれば、配列した炭素結晶を整然と並べることができ、NV中心も整列できます。

 ですがその分、純度を高める工程や、しっかりした配列をするための微細操作技術などが必要であり、やはりダイヤモンドらしく高価なものとなります。

 経済という枷がある人類には、ある意味扱いが難しいものではありますね。


 他にも光格子時計(optical lattice clock)メモリという技術がありますが、こちらは絶対零度近くまでの冷却が必要です。

 こちらについては、物性科学の知識が必要になるので、詳しいことは割愛しますわね。


 安定性や保持時間等は、光格子時計タイプの方が良いのですが、こちらはストロンチウムやイッテルビウムといった特殊な物質が必要になります。

 これらの希少元素は、メキシコや中国でしか入手できないので、わたくしの今の段階では利用できていません。

 特にイッテルビウムは、先に核融合発電設備で必須なので、そちらを優先していますの。


 メモリと言っても、スマートフォンやパソコンのように、電源を落としても長期に渡って保持できるものではなく、長くても数秒ほどの保持がやっとです。

 なので、秒以上の長期保存は、昔ながらのデジタルデータにするのが一番安定します。

 デジタルでは追いつかない、高速並列計算において、量子メモリは必須のデバイスなのです。


 六角柱にしたのは、真円柱や球体の次に、六角柱が安定している形状ですし、強度も確保できます。

 特に格子上となる炭素結晶では、円ベースだと欠ける部分(無駄なスペース)が出てしまうので、角柱の方が良いのです。

 各種電子回路やレーザーでの読み書きも、制御しやすい形状ですからね。


 これらもまた、未来の技術ではなく、もうすぐ現実となるデバイスの一つですので、フィクションではありません。

 六角柱が皆様の世界線でも採用されるかどうかは分かりませんが……。


 シンプルに、かっこいいと思うのですけれどね?




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