6話 現場を知る者

「くそっ!見失った!」

「おい!ここ曲がったんじゃねぇのかよ!」

「うるせえ!まだこの辺に居るだろ、探せ!」


 突如、標的を見失い慌てて散会する男たち、そのわきの家の上から男たちを見ているものがいた。


「何とか撒けたな...」

「な、何だったんですか、急に...」


 そこにはメアリーを抱きかかえたレイがいた。

 レイは建物の陰に隠れた瞬間メアリーを抱きかかえ、両側の壁を使い三角跳びの要領で飛び上がったのだ。


「まだ探してんだろアンタを……」

「そ、それはいいんですが.....おろしてください」

「おっと、すまんすまん」


 若干赤面しているメアリーにレイは慌てて地面に下ろす。



「さて、どうするか……この分だとアンタの屋敷周辺にも見張りは居ると考えた方がいいな」

「どうしますか?」

「いや、安心しろ、いい伝手がある」



 地面に降りた二人は裏道を通り屋敷から少し離れた場所に店を構えているカフェに入店する。

「やはり現場には行けないのですか」

「あの感じだと確実に追手は待ち伏せてるだろうし、それに現場に行くよりいい方法があってな」

「いい方法がですか.....」

「あぁ、そろそろいると思うんだが....いたいた、やっさん!!」


 やっさんと呼ばれた男がレイに振り返る。軍服を着こなし、カルボナーラを食しながらレイに声をかける。


「おっレイ!久しぶりじゃないか!こっちに来て一緒に飯食おうぜ!俺の奢りで良いからよ!」

「相変わらずだなやっさん、おごりならいただこうかね」

「おいレイ、誰だその嬢ちゃん.....ついにお前も.....」

「やっさんもかよ....依頼人だよ依頼人」

「あの.....この人は.....」


 メアリーの問いかけに二人はハッとしたように会話を中断した。



「すまんな、この人はケンジ・ヤマモト、俺の昔の知り合いで今は王立現場鑑師団の団長だ」

「えっ!現場検証専門の国家機関じゃないですか」

「おっ、嬢ちゃんよく知ってるな、改めてケンジ・ヤマモトだよろしく」


 差し出された手を握り返しながらメアリーは首を傾げ疑問に思ったことを口にする。


「あまり聞かない響きの名前ですね」

「ああ。勇者大召喚の折にやってきた身ってとこか」


 勇者大召喚とは4年前に突如王国へと神が遣わしたとされる総勢1500人もの異世界人召喚のことであり、その後の魔王軍との戦いや王国の内情に大いに変化を与えた事件であり、王国民なら誰もが知っている話である。



「というかレイ、この嬢ちゃん勘も鋭いし、いっそお前のとこで雇ったらどうだ? 探偵も再開したことだしよ」

「探偵するのは今回だけだ」

「久しぶりに現場戻ったのにもったいないね~」

「すまんが昔話はこの辺にしてくれ.....」

「そっ、そうか。んで? 何が聞きたいんだ?」


 二人の雰囲気が変わる。」


「現場の状態、そして被害者であるサクマ・パウエルの状態について」

「okだ、前みたいに見せながら話すぞ。俺の目をしっかり見てくれ」


 ヤマモトの目に幾何学模様が浮かんだかと思うとレイとメアリーの視界に映像が浮かぶ。


「これは.....」

「やっさんのユニール、[記憶開示]だ、自分が見たもの、感じたものをを相手に感じさせる事が出来る」

「まずは現場についてだな........」

 ・

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 ・

 ・

 ・

「つまり要約すると、現場には複数の遺体がありそれらは全て焼けていたが、直接の死因は失血死などの刃物による外傷がほとんどということだな?」

「あぁ、その解釈で間違いない」


 パイプを吹かしながら答えるヤマモトはその直後少し顔をしかめ。


「だが調べてみるとおかしな点があったんだよ」

「おかしな点?」

「家主であるサクマパウエルの遺体がなかった」

「死体が無い?燃えて灰になったとかそういう事か?」

「いや、だとしても一部は残るだろ。現場には何もなかったからどっかに持ち出された可能性が高いだろうなー」

「なるほど.....しかしなぜ持っていったんだ....」

「それは分からない、持っていった痕跡すらなかったから跡を追うこともできないし」


 沈黙がその場に流れる。

 するとレイはおもむろにポケットから煙草を取り出し。


「ちょっとタバコ吸ってくる」

「おう、いってら」


 外へ出るレイの背中を見送った後ヤマモトが口を開く。


「お嬢ちゃん、サクマの娘さんだろ」

「そうですけど.....どうして父の名を....」

「そりゃ転移前からの付き合いだからな、あいつはいい刑事だったよ、こっち来てからも真面目で、真っ直ぐで.....レイのやつがマジになるのも無理はねぇ」

「やはり父も転移者だったんですね」

「なんだ気づいてたのか」

「まぁ名前でなんとなく」

 ・

 ・

 ・

「父とレイさんとの繋が……」


 少しの沈黙ののちメアリーが質問しようとした時。


「すまん戻ったぞ、ん? どうした? そんなに驚いて」

「あわっわわわ、いいいいえ、なんでもありません!」


 慌てながら誤魔化すメアリーをレイは疑問に思いながら。

 

「まぁとりあえず頭の整理がついたから話を続けるぞ、さっき見せてもらった記憶の中に2~3個ほど違和感があったから質問してもいいか?」

「まず匂いだな、お前なんというか……酸っぱい匂いがした。この辺りじゃ嗅がないタイプのな」

「匂いか……確かに異臭はしたな、燃え残った所に溜まってたから油か何かか?」

「次に気になったのは燃え方だ。屋敷中はかなり燃やされて酷かったが、食堂はそこまで酷くはなかった」

「なるほど、周辺の聞き込みでは爆発やそういった音はなかったらしい、ということは.....」

「十中八九、襲撃後に意図的に燃やされた可能性が高いな」

「後はそうだな……窓の割れ方が気になったな。ほとんどの窓は内側から割れてたが一部外側から割られてた。そこが侵入経路なんじゃないかと思う」

「分かった。その辺も重点的に調べておこう」


 食事と会話を終え、三人は席を立ち会計を済ませる。


「悪いね、本当に奢ってもらって」

「いいんだよ、レイだって今は昔の貯金で食い繋いでるんだろ? これくらいのことはさせてくれ」


 そう笑って答えるヤマモト、しかし急に真面目な顔つきなり。


「本当にこの事件に首突っ込んで大丈夫なのか? なんせ貴族絡みの大事件だ、俺がいえた義理じゃないが多分またが回ってくるぞ」


 そう問われ、少しくらい顔をしたレイだったが。


「問題ない、そんときゃそん時だ。それに、あいつの忘れ形見はほっとけないからな」


 そうきっぱり言うレイにヤマモトは諦めたように首を振り。


「お前がいいならそれでいいんだ..... ただし忠告する、おそらく次はないぞ」

「わかってる」

「そうか、それじゃなんかわかったら連絡する」

「ああ、頼んだぞ」


 そうしてヤマモトの背中を見送る二人。


「それじゃ、事務所に戻るか」

「そうですね」


 そうして夕日のさす街中を帰路についたのだった。

 

 そして時間がたち。

 

 ――

 

「ん~、朝?」


 暖かい日差しで私、メアリーは目を覚ました

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