異界の探偵執行人

マスカレイターズ

1話 少女と探偵は闇夜に出会う

 タッタッタッタッ...。


 少女が走る。

 美しい金髪を振り乱し、綺麗な服には所々煤や焦げ目が付いており、その状態が何かただ事ではないことが起きたことを物語っている。


「捕まえろッ!」

「残さず殺せ!」


 タッタッタッタッ.....。


 走る走る走る。

 目じりには涙が浮かぶ。

 どうして、と少女は呻きを漏らす。

 今日は少女の誕生日だった。

 いっぱいのごちそう。

 キレイな飾りつけ。

 みんなからの祝福。

 大好きな両親の笑顔。


 どうして、と少女は嘆く。

 食卓にぶちまけられた血肉。

 無惨な弾痕の飾りつけ。

 襲撃者からの悪意。

 大好きな両親の、永遠に苦痛に歪んだ表情。


 タッタッタッタッ。

 少女は力の限り走る。

 最後の父の言葉を頼って。


「このメモの場所まで行くんだ...... 彼なら......きっと......」


 もうどのくらい走り続けたのだろうか。

 足の感覚が無くなってきている だがそれでも走り続けなければならない 止まれば死ぬ。

 そう思いながら少女は走り続ける。

 だが。


「見つけたぞ!」

「たかが女一人、俺が捕まえてやる!」

「傭兵団は伊達じゃない!」


 追手はもうすぐそこまで迫ってきている。


(このまま捕まったら...いや、今は逃げないと...)


 そんな事を考えながら走っていると、ついにつまづいてしまう。

 もう何時間も走ったため、少女の足は限界に達していた。


「あッ...」


 地面に転がる少女を捕まえ、鎧をつけた集団は喜びを顕にしている。


「やった!やったぞ!」

「これで報酬は俺たちのもんだ!」

「久しぶりに美味い酒が飲めそうだ!」


 少女は何とか抵抗しようともがいてみるも、疲労で思うように力を出せない。


「おい!逃げんじゃねぇよ!」

「お前はもう逃げらんねぇからな!」

「大人しくしてろ!」


 少女は自分が助からないことに気づく。


(もうダメなんだ...お父さん...お母さん...ごめんなさい...)


 諦めかけたその時、目の前の家から一人のローブを羽織った男が現れ集団に近付いてくる。

 

「...うっせぇなー、 事務所の前で騒ぐな、今何時だと思ってんだ?」


 謎の男は武装した集団に臆することなく睨みつける。


「なんだテメェは!平たい顔しやがって!」

「俺たちはこの女に用があるんだ!さっさと帰れ!」

「お前も痛い目に会いたいのかこの野郎!」


 集団が男に威嚇をするも全く怯まない。


「だーかーらー、真夜中の二時に騒ぐなって言ってんだよ、お前らそんな事も分かんねぇのか」


 少女の髪を乱暴に掴み、無理やり連れ去ろうとする集団に男は呆れるように言い放つ。


「うるせぇんだよ!俺たちは仕事の最中なんだ!」

「さっさとこいつを連れ帰って美味い酒と飯を食いてぇんだよ!」

「分かったら失せろ、平たい顔した野郎がよ!」


 集団のうちの一人が男を突き飛ばそうとした瞬間、


「もぉさ、そうゆうのいいから......」


 サッと躱したかと思うと伸びた腕を掴むと足を払い倒す。


「ぐあっ!な、何しやガッ!」


 そのまま顔を殴り、一人を気絶させる。


「テメェ!やりやがったな!」

「この野郎!舐めたマネしやがって!」


 残り二人の男が剣を抜こうとする。

 

「めんどくせーな!」


 ローブの男は片方に急接近しまさに今抜かんとする剣を抑え込む。

 

「なっ!」


 鎧の男が一瞬固まる。その隙を見逃さなかったローブの男は、流れるような動作で相手を背負い、地面に投げつけ意識を奪う。

 

「死ねぇ!」


 剣を抜いた男は大きく振りかぶって男の頭をかち割ろうとするが、振り下ろされた剣を回避し、腹に掌底を叩き込む。


「ぐうっ…テ、テメェ…」


 剣を落とし怯んでいる隙に、男は足を大きくあげ呟いた。


「とりあえず寝てろ」


 足が首に落とされ鎧の男は意識を手放した。


「つ、強い...」


 少女が呟くと男は振り返り、少女を見つめる。


「ん?ああ...そういや、嬢ちゃん誰?」


 男はその辺に転がっている集団を路地裏に投げ込みながら。


「大丈夫か?なんで追われてるのか知らんが、詰所に行って保護してもら......」


 彼女の持つ手紙を、見た後そう言葉を濁し、合点がいったように。


「なるほど、とりあえず匿ってやるからこい......って立てないか」


 そう言うと男は、少女を抱き上げる。

 少女は少し緊張しながら問う。


「あのっ名前を伺ってもよろしいですか?」

「俺か? 俺の名前はレイ、探偵だ」


 それだけ聞くと、緊張の糸が切れたからか少女は意識を失った。


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