第2話 買収対価

「例えばブリが柵で五百円として、そのブリがさらに一万円を生むとしたらいくらで買う?」

「そうね……今すぐ確実に一万円を生んでくれるのなら一万五百円で買ってもいいけど、すぐ生まないなら悩むわね」


 本質を突いた鋭い答えに、内心驚かされた。

 彼女は花形の人事部査定課で活躍している。その噂は本社中に響き渡っている。入社当時「優秀で可愛い彼女を人事部が取るなんて職権乱用だ!」と同期男性陣で憤慨していたのを思い出す。


「悩みがあるということは価格決定が難しいってことさ」

「わかりみ。で、悩みの原因は?」

「それは、『将来』、『不確実』の二つさ」


 百億円生むと期待される企業でもすぐにではなく、毎年事業することでコツコツお金を生んでいく。しかもいくら生むか、業績や市場を完璧に予測することは不可能だ。


「なるほどね。どう解決するの?」


 絵夢は無邪気に、はよ、はよ、と説明を続けるよう促してきた。


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