第十話:火の試練
森の守護者に導かれ、新たに開かれた道を進むと、徐々に空気が変わっていくのを感じた。湿った森の香りから一転して、どこか乾いた空気と熱気が漂っている。まるで火の試練の到着を知らせるかのように、道の先には赤々と燃え盛るような景色が広がっていた。
「これが火の試練の場所か…」俺は熱気を感じながらつぶやいた。
眼前には、広い洞窟が見えてきた。その入口を包む岩肌は黒く焼け焦げており、どこか不気味な雰囲気が漂っている。そして、中からは明らかにただならぬ力が感じられた。
「どうやら、ここを通るには火の精霊の許可が必要みたいだね。」リョウが冷静に洞窟の中を覗き込んだ。
「火の精霊か…一筋縄ではいかなそうだな。」アキラが肩をすくめた。
俺たちは意を決し、洞窟の中へと足を踏み入れた。内部はさらに暑く、まるで体中が火に包まれるような感覚だ。進むごとに汗がにじみ出し、喉も渇いてくる。だが、そんな状況でも冷静さを保とうとするリョウが、先頭で俺たちを導いてくれている。
「ここで重要なのは、火の精霊の気持ちに寄り添うことかもしれない。火は破壊だけでなく、温もりや新しい命を生み出す力でもあるからね。」リョウが言う。
しばらく進むと、洞窟の奥に大きな炎が渦巻いているのが見えた。その炎の中から、火の精霊が現れるように見えた。炎に包まれたその姿は、まさに火そのものが具現化したかのようで、赤と金の光が絶え間なく燃え上がっている。
「ここを通りたいなら、我の試練を受けるがよい。」火の精霊が低く威厳のある声で告げた。
「試練とは?」俺が尋ねると、火の精霊はさらに炎を強め、洞窟全体が赤く染まるかのように輝いた。
「お前たちの“意志”を試させてもらおう。火は強い意志を持つ者にのみ応える。揺るぎない意志があれば、火は己を害することなく、むしろ力を貸す存在となる。」
リョウがそれに応え、一歩前に進み出た。「俺たちは、この遺跡の真実を求めてここまで来た。その意志を示せば、あなたは道を通してくれるのでしょうか?」
火の精霊は彼をじっと見つめ、その意志の強さを確かめるかのようだった。リョウの瞳には確かな決意が宿っており、火の精霊もそれを認めたように静かに頷いた。
「ならば、一人ずつその意志を見せよ。」火の精霊が告げ、俺とアキラも順に前へ出た。
俺も自分の意志を試される番だと、深く呼吸をして心を落ち着けた。俺はただ農業ができる穏やかな生活を望んでいる。それはこの世界で新たに芽生えた願いであり、簡単に揺るがないものである。
「俺も、この異世界での生活を大切にしたいと思っています。何もかも一から始めて、少しずつ築いてきた今の生活を守りたい。そんな思いで、ここを通らせてもらえますか?」俺は精霊に向かって真っ直ぐに言葉を紡いだ。
すると、火の精霊は俺の言葉に応えるように一瞬燃え上がり、穏やかな光を放ちながら俺を包み込んでくれた。熱いはずの炎が、どこか心地よい温もりを与えてくれるようで、精霊が俺の意志を受け入れてくれたのを感じた。
最後にアキラも意志を示し、全員が火の試練を無事に通過することができた。火の精霊は静かに道を開き、洞窟の奥へと進む道が明らかになった。
「よくやった、旅人たちよ。我が力を信じ、進むがよい。」火の精霊は消えゆく炎の中で静かにそう告げた。
「ありがとう、火の精霊よ。」俺たちは深々と礼を述べ、精霊の示した道を進んでいった。
洞窟を抜けると、目の前には広がる美しい草原が現れた。遠くには次の試練の場所と思われる山々が見え、俺たちの冒険はまだまだ続くことを実感した。
「火の試練を超えたことで、俺たちの絆もさらに強まった気がするな。」アキラが満足そうに笑う。
「そうだね。次はどんな試練が待っているか楽しみだ。」リョウが頷く。
俺たちは新たな試練へと向かい、足を進めた。次の試練が何であろうと、この異世界での生活を大切にするために俺は前に進む決意を新たにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます