ルートA:Girls side-Mana
Mana says, "I love you"
一目惚れだった。
初めて会ったのは美心の高校が開校記念日で休みの日。
学校から帰ると、美心と一緒に僕を出迎えてくれたのが、
事前に『とっても可愛い友達を呼ぶ』とRINEを受けていたからある程度身構えてはいたが、それでも衝撃を受けるほどの美少女がそこには立っていた。
青みなかかった綺麗なポニーテールに、コバルトブルーの大きな瞳。
天真爛漫な表情や声音とのギャップが際立たせる品のある立ち振る舞い。
なかなかお目にかかれない、掛け値なしの美少女だ。
「美心ちゃんのお友達の春見茉奈です! よろしくお願いします──先輩!」
「マナちゃんか。よろしくね」
努めて、平静に挨拶を返した。
彼女──マナちゃんは少しの間ぼうっと僕の顔を見ていたが、すぐに美心と一緒にお菓子の袋を持ってリビングへ入っていく。
マナちゃんの笑顔は、ここ最近幼馴染の奈乃との距離感が掴めず初恋の炎が消え掛かっていた僕に新たな恋の灯火をもたらすには充分で、僕の心は一瞬で奪われてしまっていた。
そう。僕はこの瞬間、妹の親友に恋をした。
それから一週間後の週末、マナちゃんが再びこの家を訪れることになった。
美心とお泊まり会をするということらしい。
前もってお泊まりしてもいいかというRINEをもらってからこっち、僕はずっと心臓の高鳴りを抑えられずにいた。
とはいえ、相手は妹の親友。
僕がこの想いを伝えたとしても、友達の兄から告白されるなんて普通に考えたら気持ち悪いし、しかも僕みたいな陰キャ野郎なら尚更だろう。
最悪、美心との関係が崩れる可能性だってある。
だから僕は、この想いに蓋をして、胸に閉じ込めておくことにしたんだ。
*****
その日の夜中。僕は隣の部屋にマナちゃんがいると思うとどうも寝られなくて、リビングでコーヒーを飲んでいた。
昨日から読み始めているライトノベルを開きつつ、いつもの粉末タイプではなく豆から淹れた本格的なコーヒーを啜る。
父さんの趣味道具であるミルとドリッパーで見よう見まねで淹れたものだけど、なかなか上手に出来たと思う。
口の中に広がるブルーマウンテンの香りが心地よく、無駄に高まった気分をすーっと楽にさせてくれる。
どれくらい経っただろうか。ふと、リビングのドアが開かれる音がして、僕はパッと意識を本からそちらへ向けた。
「先輩、起きてたんですね」
「──ま、マナちゃん」
立っていたのは、マナちゃんだった。美心の姿はない。
マナちゃんは静かにドアを閉めると、ゆっくり歩いて僕の隣に腰掛けた。
シャンプーの匂いが鼻腔をくすぐって、耳が赤くなる気配がする。
家にあるシャンプーを使ったはずなのに、なぜこんなにも匂いだけでドキドキするだろう……。不思議だ。
「こんな時間にどうしたの? 美心は?」
「美心ちゃんはもう寝ちゃったんですけど、私はなんだか寝られなくて」
「そっか」
……気まずい。
こんなに急に二人きりになると、会話に困るというかなんというか。
それよりもまず、どうしてマナちゃんは僕の隣に座ったんだろうか。向かいにもソファはあるのに。
同じソファに座るにしても、本来三人は座れる広さなのに僕のすぐ隣だし……。いまいち意図が読めない。
「あ、マナちゃんも何か飲む? あったかいお茶でいい? 僕用意するよ!」
「あっ」
耐えかねて、僕はソファを立ち上がった。
ちょうど僕の方に手を伸ばしていたらしく、マナちゃんは小さく驚いたような声を出して僕を見て、すぐに手を膝の上に着地させた。
「あ、お茶で大丈夫、です」
「うん、わかった。待ってて」
「お願い、します……」
やけにターンダウンしているのが気にはなったが、僕は僕でさっきから心臓が
キッチンでお湯が沸くのを待つ間見えるマナちゃんの寂しそうな横顔が、やけに胸を締め付けた。
「お待たせ。熱いから気をつけて」
「ありがとうございます」
ティーバッグで出した緑茶を、マナちゃんの前に置く。
マナちゃんはゆっくり持ち上げて、「ふー、ふー」と冷ましてから少しずつ飲み始める。
息を吹くのに少し尖った小さな桜色の唇に目が吸い寄せられてしまい、僕は無理矢理手元のラノベに視線落とした。
「どう? おいしい?」
どうしても落ち着かなかったので取ってつけたような質問をマナちゃんに投げてみる。
マナちゃんは口に含んだ分を飲み込んで、コクリと頷いた。
「よかった。僕はそろそろ部屋に戻るけど、マナちゃんはどうする?」
「あ、私もこれを飲んだら戻ります」
「うん、じゃあ待ってるね」
これ以上一緒にいるとマナちゃんも気まずいだろうし、僕もドキドキが
コーヒーを飲んだから寝る前にもう一度歯磨きをしようと思い洗面台へ行き、五分ほどでソファに戻ると、既にお茶を飲み終えたマナちゃんが不安そうに立っていた。
「先輩」
「ん? どうしたの?」
マナちゃんは不安に揺れる瞳と声で、僕に問いかける。
「私と一緒にいるの、イヤじゃないですか?」
「まさか。そんなことないよ。どうして?」
「なんとなく、気まずそうに見えたので」
僕は心の中で自分を殴りつけた。
こんな可愛い女の子に、好きな女の子に気を遣わせてたなんて、最低だぞ、
「ううん、そんなことないよ、大丈夫」
僕は努めて笑顔で、右手を顔の前でひらひら振って見せた。
マナちゃんは少しだけほっとしたように息をついて、コバルトの瞳を大きく開いて──スマートフォンを取り出した。
「あの、私のことイヤじゃなかったら、RINE! 交換しませんか……?」
「え、え? ぼ、僕と?」
「はい……。ダメ、でしょうか?」
「いや、全然。じゃあ、交換しよう」
「は、はい! ……えへへ」
突然のことに若干の戸惑いは感じつつも、僕はマナちゃんのスマホに表示されているQRコードを読み取って、友達に追加した。
「はい、追加したよ」
「わ、あ……。ありがとうございます! これが先輩の……えへへ」
マナちゃんはスマホを胸にギュッと抱きしめて、真っ赤な頬でボソッと呟いた。小声だったのでよく聞き取れないが、まあ嬉しそうでよかった。
そしてこの日から、僕のマナちゃんは多くの時間を共有していくことになる。
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