第九夜

 こんな夢を見た。

 

 和風の街の中を歩いている。

 木の骨組みに漆喰の壁の、京都のような町だ。

 

 傍らを、一人の童子が僕に並んで歩いている。

 背丈は僕の腰ほどしかない。

 橙色の道服に玉葱形の帽子をかぶったその姿は、まるで小さなキョンシーだ

 

 僕達はこれから海の風を見に行くところだった。

 

 街の中には、奇妙なもの達が住み着いている。

 無表情な仮面をかぶった、僕の案内役とはまた別の童子。

 ゴミ捨て場に集められたごみ袋のような塊は、よく見ると丸々太ったネズミだった。

 川面を滑るように行く嫁入り舟には、猫の花婿と狐の花嫁が乗っている。

 

 僕達は細い路地に入りさらに進む。

 前と後ろから確かに光が差しているのに、路地の中は墨で塗り潰されたように暗い。

 それでも不思議と障害物の気配を感じ取ることはできた。

 

 抜けた先にあったのは、ロープウェイの発着場だった。

 ワイヤー以外は木でできている。

 骨組みがぎいぎいと軋む音はおとぎ話の城の門が開く音のようであり、同時に僕に一抹の不安も抱かせた。

 

 やはり木でできた小さなゴンドラに乗って飛び立つ。

 見下ろす街は道で碁盤の目のように区切られているのがよく分かった。

 その街中を、胡麻粒ほどにしか見えない住人達が行き来しているのが見える。

 同時に僕は、この道のりが長いようで短いものであることを思い知らされた。

 

 ゴンドラは次第に街を離れ、山あいの田園地帯へと入っていく。

 田畑の中に小さな家が点在する風景を通り過ぎ、やがて小さな山へと入っていく。

 束の間の空中散歩は、まだ村が見下ろせる高さで終点となった。

 

 ゴンドラを下り、再び徒歩になる。

 発着場を出るとそこは山の頂上だった。

 僕達から見て正面に、かすかに水平線が見える。

 斜面に近寄って見下ろすと、田園地帯と港町と入り江を挟んで遥か遠くに、暗い青の海が広がっていた。

 その時、僕の耳元を風が通り過ぎ、棚田の緑をそよがせながら、海に向かって吹き抜けていった。

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