第3話 石川

 凱斗は、火影蓮の手がかりを求めて石川県へ向かうことを決意した。彼は、自分の街にまで影響を及ぼすこの組織の根を断ち切るため、情報を得るための新たな道を探しに行くことを考えていた。


 石川県には火影蓮の幹部の一人、一寸木ちょっきが潜んでいるという噂があった。凱斗は、北陸の風景が広がる中、地元の人々に溶け込みながら情報を集め、敵の足跡を追っていった。金沢や能登半島といった観光名所を巡り、彼は慎重に行動した。


 一方で、石川県の夜は街の灯りが静かに照らされ、観光地としての穏やかな雰囲気を醸し出していたが、凱斗はその裏で不穏な動きがあることを感じ取っていた。夜の闇に紛れて行われる密会や取引の現場を探り、彼は少しずつ火影蓮の影響が広がっていることを目の当たりにしていった。


 彼の旅は長く険しいものとなるかもしれないが、凱斗の決意は変わらなかった。


 石川県での調査を続ける中、凱斗は地元の喫茶店で偶然、父親と再会することになった。父親は石川の出身で、今回の訪問に気づき、彼を探しにきたのだった。久しぶりの再会に、二人は夜遅くまで話し込んだ。


「最近、少し忙しいんだな」と父親が言いながら、凱斗の無理をする様子を心配そうに見ていた。凱斗は、火影蓮のことは話さず、あくまで仕事で訪れたと言葉を濁した。


 やがて、父親がふと思い出したように語り始めた。「お前がまだ若い頃、世間がコロナウイルスで大変だったことを覚えているか?あの頃はみんなが不安で、毎日が未知との戦いだったんだ。誰もが、マスクをして、距離を取って、それでもどうなるかわからない恐怖に怯えていた」


 凱斗は少し驚きながらも、父親の言葉に耳を傾けた。10年も前だと記憶も随分薄れるが、父親の顔にはその記憶が刻み込まれているように見えた。


「家族や友人に会えない、仕事も自由にできない、みんなが我慢の生活を強いられていた。でも、それでも諦めずに、少しずつ前に進んでいったんだ。人とのつながりや思いやりが大切だと気づかされた、そんな時期だったよ」と父親はしみじみと語った。


 父親は、凱斗が抱えているものには気づかないまでも、彼にとって何かの支えになるようにと願って話しているのが伝わってきた。そして、父親はこう続けた。


「どんな時も、心が折れそうなときがあるだろうが、他人を守ろうとする思いがある限り、人は強くなれるんだよ。あの頃、みんなで支え合って乗り越えたように、お前も、自分だけじゃなく、誰かを思う気持ちを忘れずにいれば、きっと道は開ける」


 父親の言葉は、凱斗の心に深く染み渡った。火影連との対決という孤独な戦いに向き合う中で、彼もまた、この街を守りたいという気持ちがある。父親の話は、彼に改めて自分の信念を強めるきっかけとなった。


 夜が更ける中、凱斗は父親に感謝を告げ、再び石川の街へと足を踏み出した。父の言葉が彼の背中を押し、決意をより強くさせるものであった。




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