第15話 オリエンテーション二日目
翌日。
朝を告げるアラームで起床した後、マヤが昨晩の残りの食材で作ったサンドイッチを朝食に食べ、前日の話し合い通りにレインとレベッカ、オルフェンとアルベルトに別れ探索、そして拠点にヴァレリーとマヤが残ることになった。
レインとレベッカは森の中を連れ立って歩いていた。
そんな中、レベッカは少し躊躇しながら「…ねえ、レイン」と切り出す。
「なに?」
「あ、あんたさ…、オルフェンと、どういう関係なの?」
「おんなじ家で育った、幼馴染」
「そ、そういうのじゃなくて…!その、えっと…、つ…付き合ってたりするの?あんたたち…」
レインは足を止め、首をかしげる。
「付き合う、ってなに?」
「恋人同士なのかどうかってこと!なんでわかんないのよ、もう!」
ぷんぷんと怒りつつ、レベッカはレインの目を見る。
レインはふるふると首を横に振り「違うよ」と返す。
「じゃ、じゃあ…、あんた…オルフェンのこと、男の子として、好き?」
「…?よくわからない」
言った後、レインは追い打ちのように言う。
「でも、オルフェンのことは、好き」
「そう…そうなのね」
レベッカはため息を吐きつつ、「でも、ならあたしにも可能性はあるってことよね…?」と独り言を零す。
レインは首を傾げつつ言う。
「よくわからないけど、わたし、レベッカのことも好きだよ。かわいいから」
「え、ええっ!?」
予想外の衝撃的な発言にレベッカが彼女を見つめると、レインは軽く微笑む。
それを受けて、レベッカも赤面しながら少し笑った。
「……あれ?」
マヤが周辺に自生していた木の実や山菜類を両手いっぱいに収穫し拠点に帰ると、川岸でヴァレリーが木の枝と植物の繊維で何やら工作をしていた。
何をしているのか聞きたいが、話しかける勇気が出ずもじもじとしていると、気配に気づいたヴァレリーが振り返り、「…なんだ、お前か」と声をかける。
「拠点を襲いに来た奴かと思ったぞ」
「あ、え、と、えっと…ご、ごめん、なさい…。……えっと、それ…なに、してるんですか…?」
ヴァレリーは自作したものをマヤに見せつつ言う。
「釣り竿」
「ぴぇ…?」
「…昨日、魚が欲しいとか言ってただろ。どーせ暇だし、釣ってみようかなって…」
「あ…!なら、餌とか、要りますよね…!私っ、取ってきます…!芋虫、触れるんで!!」
「え、意外だな…」
マヤは収穫物をテーブルに置き森の方へ歩き出すが、不意に踵を返し、ヴァレリーの傍に寄る。
「何だよ?」
「い、いえ…!その、…あ、ありがとう、ございます!…ヴァレリー、やっぱり、…いい人ですね」
「っ!?」
にっこりと微笑むマヤに、ヴァレリーは顔を真っ赤にし、「そんなんじゃねーよ!」と視線を逸らした。
「……オレが小っちゃい頃、父さんが休みの日はよく家族で釣りに行ってたんだ」
釣り餌のついた釣り糸を垂らしつつ、ヴァレリーはぽつぽつと語りだす。
その横で、マヤは水面を見つめつつ彼の話を聞いていた。
「オレが十歳の時に、母さんが病死して…それ以来全然やってねえから、腕なまってっかも」
「お母さんが…」
マヤは目を閉じ「私と、一緒ですね」と口を開く。
「え?」
「…私のお母さんも、私が小っちゃいころに、病気で死んじゃって…。お母さんは、すごい神子でした。…もう、顔もよく思い出せないけど…とっても、優しくて、大好きなお母さんでした」
「…」
そこで、マヤは顔を真っ赤にし勢いよく顔を上げる。
「ごっ、ごごごごごめんなさいっ!急に変な話して…!!」
「…や。オレから言い出したし」
なんだか急に気恥しくなり、二人はお互いに顔を背けたまま、ただ魚が釣り竿にかかるのを待った。
一方、オルフェンとアルベルトも薬草を採取したりしつつ、魔物を狩っていた。
「この辺りは物理攻撃が効きにくい敵が多いな」
「そうだね。なるべく魔力は温存していきたいところだけれど…」
言いつつ、アルベルトは獣道の脇にしゃがみ込む。
「あ、待って。この薬草だけ採取させて」
「……」
真剣な顔で草を吟味する彼を見、前日にレインから聞いていたマヤの様子を思い出す。
…アルベルトとマヤが組んでたら、夕暮れまでに一歩も進めなさそうだな。
そんなことを思いつつ、オルフェンは律儀に彼を待つ。
それから少し進んだ頃だった。
「…あれ?ねえ、。オルフェン。あれ、先生方じゃない?」
「……ほんとだ」
アルベルトが指さす方を見ると、二名の教員が慌ただしげに動いていた。
近づいてみると、倒れている生徒三人の救護をしているようで、包帯を巻いたり、治癒の力があるのであろう
「…酷い状況だ。何があったんだろう?」
治療があらかた終わったであろうタイミングで、杖を持っていた老齢の男性教諭が二人に気づき、声をかける。
「おお、君たち。順調かい?君たちも気を付けるんだよ。…この子たちはこの島のボスにやられたんだ」
「ボス?」
杖を仕舞い、生徒を背負いつつ教師は頷く。
「この子らの他にも何人かがかなり手酷くやられておる」
「…かわいそうですが、自身の力を過信しすぎた彼らの責任ですよ」
生徒を二人抱えながら、もう一人の若い男性教諭が言う。
「無理して上位のクラスに入ってもすぐに怪我を負うだけです。むしろ、今こうやって身の程を知れて良かったでしょう。実戦だったら僕達には助けられませんからね」
長髪を纏めメガネをかけた彼は発言内容とは裏腹に穏やかに微笑んでいる。
老齢の教師は自身の豊かなアゴヒゲを撫でつつ彼に言った。
「相変わらずロジェ先生は手厳しいですな」
「教師としては当然の評です。君たちも、勝てないと確信したらすぐに逃げるかリタイアするんですよ」
「はい」
ロジェと呼ばれた若い教師と老齢の教師はオルフェン達に忠告すると、生徒を抱え、森の出口へと向かう。
「…だってさ。どうする?」
「おそらくボスはこのあたりにいるんだろうね」
言いつつ、アルベルトは少し離れた場所にある洞窟を指さす。
「いるとしたら、恐らくあのあたりかな」
ボスと呼ばれる魔物は、低確率でダンジョンに発生する。
基本は1ダンジョンに1体。高難易度のダンジョンではごく稀に2体や3体のケースも報告されている。
魔物は一般的な生物とは違って魔力が集まり生まれる存在だ。
その為、ボスは魔力が強く
「…ちょっと見るだけだからね?」
「わかってるわかってる」
二人の意見は一瞬で合致した。
オルフェン達は武器に手をかけつつ、洞窟の中へと踏み込む。
中はひんやりとしていて、どこからか水の垂れる音と二人の靴音が響く以外は何の音も聞こえない。
「…見て、オルフェン。
声を潜めつつアルベルトは足元を指さす。
握りこぶし二つ分くらいの大きさのブラウンの
「かなりデカいな」
「この洞窟内は相当強い魔力が充満してるみたいだね」
と、オルフェンは足を止め、右手でアルベルトの肩を掴む。
「…誰か来るぞ。隠れよう」
アルベルトは頷き、二人で岩陰に身を潜める。
「ねー、見てジョニー!
「うるさいぞアリア!他のやつらにバレたらどうすんだ!?」
「ベッツが一番うるさいぞ。それに、誰か来たって返り討ちにすりゃいいだけだろ?なあジョニー?」
「ああ、サンチョの言うとりだ!さあお前ら!あるだけ全部持ってくぞ!」
洞窟に入ってきたのは四人の生徒だった。
四人の武器を見て、オルフェンは気付く。
「あいつら、ヴァレリーを襲った奴らだ」
気付かれないよう、アルベルトは小声で「そうなの?」と聞き返すとオルフェンは頷く。
「昨日あいつが言ってた生徒たちと特徴が同じだ」
「…なんにせよ、あの様子じゃボスのことは知らないみたいだね」
四人は騒ぎながら
剣を持っているサンチョとベッツは剣先を
他三人を取りまとめているらしいジョニーと呼ばれた生徒は、壁面から伸びている
それを影で見つつ、オルフェンとアルベルトは顔を
「剣をあんな風に使ったら折れちまうだろ…。あれでも剣士か?」
「あんな風に雑に
その時だった。
ドシン、ドシン、と洞窟の奥から地響きのような足音が響く。
続いて、低い唸り声。
「な、何、この音…?」
アリアが怯えつつも拳銃を暗闇に向かって構える。
やがて、数秒の後にそれは現れた。
外見は熊に似ている。
しかし、その体は一般的な熊の三倍はあろうかというほど巨大で、爪や牙の形状は刃物のように鋭い。
巨大な魔物…もとい、ボスのぎょろりとした目が、四人を睨む。
「う、…っうおおおお!!」
冷や汗をかきつつもベッツが剣を構え、果敢に切りかかる。
が、刃はボスの体表に当たった瞬間に砕け散った。
「な…!?」
「ベッツ!危ない!!」
叫びつつアリアが銃の引き金を引くと拳銃に嵌めこまれている
しかし、その攻撃も効果がないようで痛がる素振りも見せず煩わしそうにアリアを睨みつけただけだ。
「うそ!?」
ボスが腕を振り上げ、振りかぶる。
その一撃がベッツに直撃し、さらに風圧でアリアとサンチョが吹っ飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。
三人はそのままひと声も出せずに気を失う。
生命の危機を知らせるかのように三人のブレスレットが赤く点滅し、ブザーが鳴った。
「お前ら!!」
ジョニーが武器であるモーニングスターを構える。
が、彼の足は恐怖で震え一歩も動くことができない。
そのまま、ズシン、ズシンとボスがジョニーに歩み寄る。
その巨大な腕が、また振り上げられた。
考えるよりも先にオルフェンの体は動いていた。
「はあっ!!」
岩陰から飛び出しジョニーの前に立つと、ボスの腕を剣で防ぐ。
「ぐっ…!」
とてつもない力に剣を握る腕が痺れる。地面に押さえつけられないように必死に踏ん張るので精いっぱいだ。
「オルフェン!」
アルベルトは咄嗟に足元の石を投げる。
ダメージは与えられなかったようだが、ボスの意識が一瞬アルベルトの方に逸れた。
「おりゃああっ!!」
オルフェンはその一瞬を見逃さず、ボスの腕を薙ぎ払う。
「グオオォォォ!!」
ボスはバランスを崩し、地面に倒れた。
次の瞬間、地面から鎖が現れ、ボスの体が拘束される。
「大丈夫ですか!?」
それと同時に背後から声が響いた。
オルフェン達が振り返ると、丸メガネをかけた小柄な女性教師と、先ほど会ったアゴヒゲを蓄えた初老の男性教師がこちらに駆け寄ってきていた。
女性教師が掲げている杖の
ずっと岩陰に隠れていたアルベルトはベッツの傍に駆け寄り、男性教師に叫ぶ。
「あばらと右腕が折れてる…。彼が一番重体です!優先的に手当てを…!」
「ああ、わかった!とにかく早く洞窟を出よう!君たち、動けるかい?私は重体の子を抱えるので、ソニア先生はそちらの女生徒を!」
「は、はい!」
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