気狂いの魔女

一野 蕾

ーHappy Ending Continuesー

1.【とある魔女の噂】


 むかしむかし。とある世界ばしょに。


 広大な自然と栄えた街並みの両方を有する、豊かで穏やかな国がありました。


 そんな国の片隅に、魔女がおりました。

 魔女と言っても、邪悪な力などは使いません。彼女は心優しく、神に仕える修女のように貞淑で、そして気が狂っておりました。


「気が狂ってるって、どうして?」


 少年が尋ねます。

 彼は今日、十歳の誕生日を迎えました。

 少年の住む村には魔女もおりました。十歳を迎える子どもは、魔女から贈り物を貰うのがこの村の風習です。

 空になった朝食の皿を片付けながら、少年の母親は片眉をひょいと上げます。


「理由は知らないわ。色々噂があるの」

「噂って?」

「他の魔女に呪いをかけられたからとか、魔法に失敗したからだとか。あとはそうね、大切な人を亡くしたから、っていうのもあったかしら」

「ふーん」


 聞きたがったくせに少年は素っ気ない返事をします。感情をありありと透かす青い目は窓の外を見ていました。


「あんたには難しい話だったかしらね。さぁさ、外で遊んでらっしゃい」

「夕方には帰るよ!」


 言われるやいなや、ぴゅん、と風のように少年は外へ飛び出して行きました。母親は遅れて玄関から見送りましたが、成長期のただ中にある背中はもう遠くにあります。青空に向かって走っていく息子に、母親は愛しげな苦笑を漏らすのでした。


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