─憩いのひととき─

「はーい。みんなちゅうもーく!」


凛鳴が手を叩きながら、ホームルーム始めますと言わんばかりに教壇に立った。

しかし、誰も凛鳴へと視線を向けない。なぜか?急に現われ凛鳴と仲良くし、隣に謎の美女を連れている男に視線は釘付けだからである。

見渡す限り知ってるのは2人くらいだ。同じクラスで凛鳴と仲のよかった子達だろう。

他にもいるが、上級生なのか下級生なのかはわからないが、それにしても男が1人もいないのはなぜだ?隣の教室と分けてんのか?


「こほん。今私の隣に居ますのが同じクラスの山本 凪くんです!そのお隣が神楽さんです!はい、拍手ー。」


パチパチパチパチ。と、拍手をし目を輝かせていた。


「ではでは、みなさん自己紹介をお願いします。」


なんでこの人達こんな和んでるの?

下の階に化物たくさんいますよ?わかってます?


「はいそこ!凪くん!しっかり聞くように。」


凛鳴は人差し指を凪に向け、授業中ですよ。とでも言いたそうな顔をしていた。


はぁ。怒られそうだから大人しく聞いとくか…



えーと簡単に言ってしまえば後輩3人同級生4人先輩3人で凛鳴をいれれば11人って感じです…

ごめんなさい。覚えられません。


「自己紹介も終わった所で、質問はあるかな?凪くん。」

「じゃあ聞くが、まずなんで教室で鍋が始まった…」

「え?新しい人が来たらまずはお鍋じゃないの?お腹空いてなかった??」


そうゆう事じゃないんだよなぁ…

神楽もなに普通に食べてるんだよ…てゆかお前食べる必要あるの?


「いや、そうじゃなくてさ……まぁいい。この食材とかコンロとかどこから持ってきたんだ?」

「普通に家庭科室にあったよ?三組の教室行けばまだたくさん食材あるよ。持ってこようか?」


凛鳴は家庭科室なんだから、あるに決まってるじゃん。とも言いたげだった。


あーなるほど。さっきまで三組に居たから俺に気付いたのか。どっから沸いたのかと思ったよ…


「五組の教室も電気付いてたけど、誰か居るのか?」

「……。」


凛鳴は視線を落とし、うつむいた。


ん?なんか俺変な事聞いたか?何か言いづらそうな顔してるな。


「あのね、五組には荒木くんやその友達。合わせて6人くらいの男子がいるの。一応怖いからみんなでクラスは分けようって話になってね…」

「荒木……」


荒木。その名前を聞いただけで、俺の中で沸々と怒りの感情が溢れてくる。歯を食いしばり、拳をにぎり。感情を抑える。


「凪様。怖い顔してますよ。」


気が付けば目の前には神楽がおり、そっと手を握ってくれていた。


「悪い。気が動転した。」

「いえ。いつもの凪様に戻って頂けたようでなによりです。」


神楽は目を細め我が子をあやすかのように頬を緩めていた。


肝心な時には必ず傍に居てくれる神楽には感謝しかないな。


「ちょ、ちょっと。そうゆうのは誰もいない時にやってくれる?後距離が近いよ!離れて!」


凛鳴が近づいて来て、俺と神楽を引き剥がしにかかる。


その言葉そっくり返してやりたい。あなたも結構近いからね!?


「凪様の事は私に任せて凛鳴様はお鍋でも突いてて下さい。」

「神楽さんこそ、さっきまでお鍋に夢中だったくせに。」


おいおい、なんだ二人とも…あれか?ここは俺の為に争わないで!とでも言うべきなのか?


「お、俺の為に」

「凪君(様)は黙ってて(下さい)!!」


はい。すみません。調子乗りました。


この光景を見ていた女子達は

おぉーー!!修羅場じゃ修羅場と盛り上がっていた。


ほんと勘弁してくれ…しかし荒木が居るのか。

あいつらがなにもせずに大人しくしてるとは思えないんだよなぁ。

もし、なにか仕掛けてくるようなら…。


────────────────────



一方その頃─ 5組の教室


「おい、お前ら!分かってんだろうな。明日決行するからな。しくじるんじゃねぇぞ!」


荒木は無数に付けたピアスを光らせ、睨みを効かせながら取り巻きをまとめていた。


「わかってるよ修二。委員長以外は俺らにくれるんだよな?」

「うひょー今から楽しみだぜ!」

「俺は三年のボインちゃんにするぜ!」

「おまっ。ずりーぞ!俺も狙ってたのに」

「まぁいいじゃねぇか向こうは11人もいるんだ、選り取り見取りじゃねぇか!」


取り巻き達はやいやいと、これから起こるイベントへと胸を踊らせていた。


「ククッあの真面目な委員長の泣き顔が楽しみだぜ。」


荒木の顔からは、教室の蛍光灯によって照らされた不敵な笑顔が浮かべられていた。




女子グループの人数がもはや11人ではない事を、そしてこの計画を立てた事を後悔する日が来ることを荒木達は知る由もないだろう。


────────────────────



鍋を食べ終わり片付けを手伝う。あれからは本当大変だった。


どこがとは言わないが、一際目立つ先輩が俺に鍋をよそってくれた所まではいい。

その光景を見ていた凛奈がまさか先輩までヒロインレースに……とか言い出したのだ。

そこから誰があーんをするかなどと始まり結局殆んど食べれなかった。


こいつらマジで危機管理能力ないな…てゆうかこんなに騒いでて大丈夫なのか?



いや……おかしい…。何故こんだけ騒いでるのにオークは上がってこない?

バリケードがあるから?あんな物は壊す気になれば壊せるはずだ…

それに二階に上がった時もそうだが、あまりにも静か過ぎる。

諦めた?いや、それはないだろう。なにか準備をしているのか?魔物にも知性がある…?

クソッ…!情報が少なすぎる!!どうする?神楽を呼ぶか…?



「後輩くん?そんな難しい顔してどしたの?」


凪は突然声をかけられてハッとする。

俺の悪い癖だ。考え込むと周りへの意識がなくなる。


「いえ。もう少し鍋食べたかったなと思いましてね」

「あはは。そぉだね!全然食べさせて貰えなかったもんね。今度はちゃんとアタシが食べさせてあげるからね!」


先輩は片目を瞬きウインクをしながら洗い終わった食器を運んでくれる。


とりあえず今は考えるの辞めとくか。


「凪くん終わった?」

「あぁ。」

「じゃあ教室戻ろっか。凪くんの寝る所もちゃんと作っといたからね♪」


は?今なんて言った?俺の寝床?


「いや、俺は三組で寝るから」

「え?ダメだけど?どーせ凪くん1人にしたら神楽さんも着いていくでしょ?ねっ!だからみんなと一緒に寝よ。ねっ!ねっ!」


いやこえーよ!!なんだよその押しの強さ。

あれぇ…凛鳴さん目からハイライト消えてません?


「チッ。わかったよ」


まぁ神楽が居るから大丈夫だろ。

大丈夫だよな…?不安しかないな。


「みんなぁただいまぁ!凪くん連れてきたよー♪」


待ってましたと言わんばかりに騒ぎ出す。


「凪様。私は凪様のお隣でお守り致します。」

「神楽さんずるいよ!ジャンケンって話だったじゃん!!」

「私は凪様の契約精霊なので隣に居ないとなにかあった時にお守りできませんので。」


嘘である。

コイツ離れていても一瞬で目の前に来れます。そもそもお前布団で寝る必要ないだろ…


「神楽…」

「凪様。」


まだ何も言って無いのに圧をかけてくんな…

 

「じゃあ私がその反対側で寝ます!異論は受け付けません。」


俺の意思どこ行った…

もぉなんでもいいから寝かせてくれ。オークと戦ったから疲れてんだよ。


神楽と凛鳴がズリズリと布団を運んで俺の左右を陣取る。


「凪君(様)おやすみ(なさい)」

「あぁ、おやすみ」


それだけ言い残し瞼を閉じた──




身体を揺さぶられている感覚に襲われ目を開ける。

もちろん俺の事を起こそうとしているのは……あれぇ??


「後輩くん。おはよ!」


先輩さんだった。やけに出番多いなこの人。

一応ちゃんと紹介しておこうか。

彼女は、神崎 梓かんざき あずさ。亜麻色の髪が肩より少し下ぐらいまであり、毛先がくるんとしている。身長は俺よりは小さいから160ぐらいかな。耳にはピアスが両耳に一個ずつ、爪にはネイル。美人さんである事は間違いない。


「先輩おはようございます。」


キョロキョロと辺りを見回すが神楽達の姿は見えない。


「神楽ちゃんと瀬戸ちゃんはいないよー」


エスパー先輩だった。


「いや、別にそーゆーつもりは…」

「まぁまぁ。2人は今三階の見回りに行ってるよ」


見回りねぇ…今のうちにスキルの確認をしておくか。


「そおなんですね。先輩に1つ聞きたいことがあるんですが…」

「うん、なんでも聞いてー!」

「先輩のスキルってなんですか?何かあってからでは遅いので、聞いておきたいのですが。」

「あーそおだね!アタシの今使えるスキルは【アトモス・レイン】だよ。なんかカッコよくない?まだ使った事ないからよくわかんないんだけどねー」


アトモス・レイン?雨?確かにこればかりは使ってもらわないとわからないな。


「名前だけだとどんなスキルなのかよくわかりませんね!後で検証しましょうか」

「うん。よろしくねー!」


今後の話をしつつ2人が帰ってくるの待つ。


「あー!凪くん起きたんだね♪おはよー!」

「凪様。おはようございます。」

「2人ともおはよう。見回りご苦労様。」

「ありがとー!今日も特に問題なかったよ。」


見回りから戻ってきた2人から声がかかる。


「凛鳴。ちなみになんだが、いつまでここに居るつもりだ?食料も足りなくなってくるだろ?」

「う、うん。でもここを出ても行く当てもないし…」


しかしなぁ…今後魔族たちがどう動くかわからないし、俺は情報収集がてら他の地域に行く事も視野に入れなければならねぇんだよなぁ。


「俺は明日の夜にはここを出て行くぞ?」

「え…なんで!?一緒にここに居よう!ねっ!お願い!」


凛鳴の顔からは笑顔が消え今にも泣き出しそうだ。


「確かにここは外よりは安全かも知れん。ただ二階に化物が居る事を除けばな。今は不気味なぐらい大人しいが、いつ牙を向けてくるかもわからねぇ。」

「そうだけど…私のスキルを使えば化物も入ってこれないはず!」


凛鳴は少し自分のスキルを過信し過ぎているな…

結界が破られれば一気に追い込まれるぞ。


「凛鳴。あまりスキルを過信するな。俺がスキルを使えば簡単に壊せるし、オークに壊される可能性も全然ある。」

「そん、な…」

「ここから脱出するつもりなら、手を貸してやる。元々そのつもりでここまで来たんだしな。俺は少し下の様子を見てくるから、明日の夜までにゆっくり考えてみてくれ。」


少し脅しすぎたか?凛鳴の表情は曇り、今にも泣き出しそうだった。


…いつもの頼りになる委員長はどこいったんだよ。

チッ…。凛鳴を横目に足早に教室を出て行き、階段に向かうのであった



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