第7章 2028/12/24
第25話 「来てくれたのが嬉しくてつい」
俺たちは二〇二八年十二月二十四日午後十八時に到着した。列車が停車しドアが開く。俺たちは列車から降りた。辺りは既に暗い。発車メロディーが流れる。
「二番線ドアが閉まります。ご注意ください」
列車のドアが閉まり、すぐに発車した。列車はまたどこかの時間へと走り去っていく。ホームにはいつも通り俺と美玲しかいない。この異様な人気のなさにも慣れてきた。美玲は屈伸をしている。俺はホームから見える周りの景色を眺めた。樹が言っていた通り二〇二四年と大して変わらない景色が広がっている。美玲は屈伸を終えた。
「さあ、行くわよ」
「ああ」
俺たちは改札を通って未来の俺たちの家へと歩き出した。場所は美玲が前回行った時に道を覚えたというので、彼女に案内してもらう。今回は変装をしなかった。今回の時間移動の目的が未来の美玲に会うためで、変装する必要がないからだ。
街中を歩いていると本当に二〇二四年の景色との大きな違いを見つけられない。数年先の未来ってほとんど変わらないんだなと俺は思った。街はクリスマスムードに包まれていて、通りがかった公園には大きなクリスマスツリーが置かれていた。俺たちは近くの鉄道の駅で電車に乗ることにした。どうやら、この街から俺たちの家は少し距離があるらしい。
美玲は車掌から借り受けていたICカードを使って改札を通った。俺もそれに続いて同じようにして改札を通る。
電車はすぐに到着した。俺たちはそれに乗った。席が空いていたので二人並んで座る。俺は美玲にいくつかの事を聞くことにした。
「美玲、いくつか聞いてもいいか?」
美玲が頷く。
「まず、未来の俺たちはどんな仕事をしているんだ?」
彼女は少し考えるようにしてから答えた。
「そうね。前に会った時はその辺りのことは話にならなかったわ。でも、これは今の私たちに関わる話じゃないから知らないままでいいんじゃない?」
「確かにそうだな。自分たちの未来をあんまり知り過ぎてもだしな」
そう言われて俺は未来を知り過ぎても、人生がつまらなくなるだけだと思えた。俺は次に気になっていることを聞いた。
「次に、未来の俺たちはいつ結婚したんだ?」
「それはね、私は知っているけど未来の私から聞いた方がより正確だと思う」
「わかった。未来のあなたに会ったらその辺りから聞くことにするよ」
「そうしてちょうだい」
「うん。じゃあ、ひとまず聞きたかったことは以上だ」
それからすぐに、電車が駅に停車した。美玲は慌てた様子で電車を降りた。俺もそれに続く。降りたホームで俺と美玲は息を少し切らした。
「危なかった。乗り過ごすところだった……」
「それは危なかったな……」
「そうね。慣れない駅名だったからつい」
「気にしないでくれ。さあ、行こう」
俺たちは駅の改札に向かって歩き出した。
改札を出て美玲はしばらく真っ直ぐ道を歩いた。俺は未来の自宅がどこにあるのか全くわからないので、ただ美玲についていくしかなかった。十分くらい歩いて美玲は一棟のマンション前で歩みを止めた。
「着いた。ここよ」
「ここが未来の俺たちの家か」
美玲はためらわずにマンションの入口の自動ドアをくぐり、エントランスに通じている自動ドアの前で立ち止まった。美玲は自動ドア前に設置されたインターホンにどこかの部屋番号を入力した。おそらく、俺たちの部屋の番号なのだろう。美玲は部屋からの応答を待った。だが、少し待ってみても応答は無い。
「あれ、応答がない。もしかして当てが外れたかしら」
「どうする。一旦ここを出て時間を見て出直すか?」
「でも、一体未来の私がいつ帰ってくるのか読めない」
「じゃあ、どうするんだよ」
そうして二人で悩んでいると後ろにある入口の自動ドアが開いた。住人か誰かが来ると思って二人で振り返るとそこには緑色のコートを着た長い黒髪の見慣れた女性が立っていた。髪はややぱさついていて少し疲れた感じの顔をしている。
二〇二八年の美玲である。未来の美玲は驚いた表情でこう言った。
「……君は、二〇二四年の健太?」
「ええ、はい」
俺は驚きのあまり間の抜けた返事をしてしまった。すると彼女は俺のことを抱きしめてきた。
「ちょ、ちょっと……」
きつめのハグがそれなりの時間続いた。未来の美玲は俺のことを離すとこう言った。
「ごめんなさい。過去の健太でも、来てくれたのが嬉しくてつい」
「あ、いえ、大丈夫です……」
「過去の私とここに来たということは話があるんでしょ? さあ、家に上がって。中で話しましょう」
未来の美玲は鍵を使ってエントランス前の自動ドアを開けた。俺たちは未来の美玲に続いて中へと入る。それから中を移動して未来の自分たちの部屋の前へと到着した。未来の美玲が鍵を開けてドアを開いた。
「先にあがって」
「では」
「お邪魔します」
俺と美玲は二人で部屋の中へと入った。靴を脱ぐと美玲は中を進んでいった。ドアを開けてリビングに出る。遅れて未来の美玲が入ってきて、明かりを付けてくれた。明かりが付くと部屋の状況が見えた。辺り一面がごみで散らかっている。
「……散らかっていてごめんね。片付けるからちょっと待ってて」
未来の美玲はごみを拾ってごみ箱へと放り込んでいく。二〇二四年の美玲が耳元でひそひそと話しかけてきた。
「どうやら、未来の君が居なくなったショックで片付けるのも億劫になってるみたい。今の私の部屋はこんなに散らかっていないわ……」
未来の美玲がそこまでメンタルをやられていたとは思わなかった。
未来の美玲が部屋を片付け終わると俺たちはテーブルに並んで座った。未来の美玲が飲み物を用意してくれた。
「寒かったでしょ、どうぞ飲んで」
「ありがとうございます」
俺たちはそれを飲んだ。ある程度飲んだところで俺はコップを置いた。
「早速、本題に入っていいですか?」
未来の美玲は頷いた。
「ええ、遠慮なくどうぞ」
「ではお聞きします。今の俺から見て四年後の俺が失踪したと聞きました。一か月も見つかってないことも知っています。俺はこの状況を何とかしたいと思っています。それでなのですが、俺は未来のことをちゃんと把握できていないです。なので、あなたが知る限りのことを全部教えてくれないでしょうか?」
俺は頭を下げた。横にいる美玲も頭を下げた。
「私からもお願いします。過去の健太に未来で起きたことを教えてあげてください」
「二人とも顔を上げて」
俺たちは顔を上げた。未来の美玲は優しい顔をしている。
「もちろん、話すわ。最初からそのつもりよ」
「ありがとうございます」
俺たちは声を揃えてお礼を言った。そうすると未来の美玲は一呼吸した。
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