第7話 友達になった
「はぁ、はぁ……」
息を切らして、ようやく立ち止まる。
人気の少ない中庭。
俺と井良々の息をする音だけが響いている。
「井良々走るの速すぎだろ……」
「えへへ、モテるかなぁ!」
「それは小学生までだ」
俺が言うと井良々が楽しそうにケラケラと笑う。
「あはははっ! ほんと、京極くんって面白いね~!」
「面白いか? 俺」
人を楽しませるような顔してないと思うんだけど。
「うん、すっごく面白い! もしかしたら私が出会ってきた人の中で一番面白いかもしれないなぁ」
「それはそれで荷が重いな……」
「大丈夫! 京極くんは普通にしてればそれがもう面白いから! もしかして京極くんって天才⁉ うん、天才だっ!」
「普通にしてれば面白いって、それもはや悪口じゃね?」
「…………そ、そうなるかな?」
そこは否定してほしかった……。
……全く、俺たちは何の話をしてるんだろう。
中野に対してあれほどはっきり言った後だというのに。
どうしようもなくたわいもなくて、面白おかしい。
「ありがとね、京極くん」
「……別に、井良々にお礼を言われるようなことは何もしてない。俺はただ言いたいことを言っただけだ」
井良々のためにとか、きっとそんなヒーローみたいなことはしていない。
だって俺だ。俺はいつだって自分優先で、中野に対して言ったのも単純に俺が許せなかったからだ。
だから井良々にお礼を言われる理由がない。
「……あのさ、京極くん」
井良々が俺の顔を下から覗き込んでくる。
顔がグッと近づき、俺は思わず視線をそらした。
「な、なんだよ」
「京極くんって……結構素直じゃないよね。ひねくれてる? っていうかさ」
「は、はぁ? ひねくれてなんかねぇし……」
「いーや! ひねくれさんだね! 間違いないっ! 私こう見えて、結構人を見る目あるからさ!」
見る目があったら浮気されないと思うんだが……それは言わないでおこう。
「でーもっ」
井良々がニコニコと笑みを浮かべながら人差し指を立てる。
「そういうところ、可愛くていいと思うよ?」
「っ! か、可愛いって男が言われても嬉しくねぇから……」
「じゃあカッコいいだ!」
「ひねくれてるのがカッコいいのは一昔前のラノベくらいで……」
「そっか! じゃあやっぱり“愛おしい”に近いタイプの可愛いだね!」
「愛おしい⁉」
「うん! 愛おしいっ!」
愛おしいって、もっと言われたことないんだが。
しかも井良々のような可愛い女の子になんて……。
ドキドキしていると、井良々がハッとする。
「そ、そういう意味じゃないからね⁉ 愛おしいっていうのは愛してるとかじゃなくて! いやでもそれ否定しちゃうと京極くんを愛してないみたいになって傷つけちゃうかも……うわぁああっ! ねぇ京極くん! どうすればいいと思う⁉」
「俺に聞くな!」
「うぅ……日本語って難しいね……」
涙目の井良々。
なんだかこうして会話をしたら、井良々が周りから好かれる理由が分かった気がする。
俺みたいに斜に構えることもなく、どこまでもまっすぐに、そして正直に接する。
その真摯さと純粋さが、相手にとっては心地いいのだ。
「と、とにかく! 私が伝えたかったのは京極くんにありがとうって思ったってこと! その……優也に色々言ってくれて、正直嬉しかった。私じゃきっと言えないし」
自嘲気味に笑う井良々。
「心の中でモヤっとしてたものがさ、京極くんのおかげでパーって晴れたんだよ。だからね、ありがとうなの。私の気持ち、素直に受け取ってくれる?」
そこまで言われて、断るほど俺はダメになっていなかった。
「わかった」
「えへへ、ありがとうっ!」
やはり井良々の笑顔は眩しい。
そして笑顔がよく似合う。
「でも嬉しいなぁ~! 嫌なこととかあったけど、いい“友達”ができるなんてさっ!」
「……え、友達?」
「うん、友達」
「…………え?」
「………………え?」
ぽかんと口を開け、首を傾げる。
「えぇ⁉ も、もしかして今の流れで友達だと思ってるの私だけだった⁉ 私の一方的な勘違い⁉ だとしたらすごくすごくすごーく恥ずかしいんだけど!!!」
「いや、勘違いじゃないというか……と、友達だったんだというか。いや、ごめん。俺友達とかいなくて……何をもって友達とするのか全然わかんなくて」
「確かに……難しい問題だね。申請書とかないし……でも、友達だなって思ってる人はいるし……あ、そうだ!」
何かを閃いたのか、井良々がゴソゴソとポケットを漁る。
そして取り出したのは、二つの四角くて銀紙に包まれたもので……。
「キャラメルっ! これあげるよ!」
「え、え?」
「友達ってさ、お菓子を分け合うでしょ? ってことは、お菓子を分け合っちゃえばそれ友達だよ! うん、絶対そうだ! えへへ……美味しそう」
途中お菓子に意識持っていかれてんじゃねぇか。
……でもまぁ、井良々らしい。
「じゃあ、ありがたく……」
「うん! あむっ! ん~~~~~! 美味しい~~~~~!!!」
井良々が頬をふにゃりと和らげる。
俺の口の中で、キャラメルの甘い味が広がっていった。
「えへへっ、これで私たち友達だね、京極くんっ」
「あ、あぁ。よろしく、井良々」
「よろしくっ!」
困惑しながらも、確かな高揚感はあって。
そんな自分を紛らわせるように、キャラメルを舌の上で転がす。
「……甘いな」
こうして、俺と井良々は友達になった。
キャラメルの甘い匂いと、俺の灰色な高校生活が変わるという予感を漂わせながら。
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