俺の妹がこんなに可愛いわけがない
@TSUKASAFUSHIMI
第一章
第一章
学校から帰宅すると、妹がリビングで電話をしているところだった。
妹の名前は、
ライトブラウンに染めた髪の毛、両耳にはピアス、長くのばした
これで歌でも
身内の
もっとも自慢の妹だと誇るつもりはぜんぜんない。男連中からはよく
実際に妹がいるやつなら、ちょっとは俺の気持ちが分かってくれるんじゃないかと思う。
妹ってのは、そんなにいいもんじゃない。少なくとも俺にとっては。
例えばこう考えてみてくれ。学校のクラスには、たいてい幾つかの友達グループがあるよな。
その中でも一番
その集団の中でも、さらに一段、垢抜けている女子。
なんだか話しかけるのも
そんな女が、自分の家族だと想像してみろ。もちろんお互いの
……どうだ、分かるか俺の気まずさが。そんなにいいもんじゃないだろう?
「ただいま」
一応の
セーラー服姿の桐乃は、ソファに深く腰掛け、超短いスカートで足を組み、
その
「えー? ウッソー? なにそれぇ。きゃはは、ばっかみたーい」
ああ、おまえなんかに話しかけた俺がバカだったよ。
俺は心の中で毒づいて、ぱかんと
「うん、うん……分かった。じゃあ着替えて、これから行くね──」
もう夕方になるってのに、どこに遊びに行くのやら。
まあ、しょせん俺には関係のない話だけどな。俺は心の中で
自分でいうのもなんだが、ごく平凡な男子高校生である。所属している部活はないし、
ときにはまぁ……勉強したりもする。
だいたい普通の高校生ってのはそんなもんだろう?
普通っていうのは、周りと足並み
無難ってのは、危険が少ないってことだ。
幸い俺の
いまから
ま、子供の
そこそこ裕福な、別段珍しくもない、ありふれた家庭。
俺と妹の
と──
「っと」
階段を下りてすぐ、玄関付近で、私服の妹とぶつかった。実はこの位置、お互いにとって死角になるので、接触事故が多発するポイントなのだ。
どん。俺の左肩が
「あっ……」
「お、悪い」
俺は素直に
ぱしっ。それを察した桐乃が、俺の手を平手で払った。
「なっ」
目を見開いた
妹の口から出た
「……いいから、さわんないで」
それだけ告げて、散らばったバッグの中身を、
うお……感じ
どんだけ兄貴が嫌いなんだっての。
無表情で手を動かす妹を、俺は、ただ無言で見下ろしていた。
「……………………」
気まずい空気が玄関に満ちている。
妹は俺に背を向け、そそくさとパンプスを
「………………いってきます」
義務をいやいや果たしているみたいに
……とまぁ見てのとおり、俺と妹の関係は、こんな感じだ。
別に、たいしてハラも立ちやしねえ。
だってあいつのことは、もう兄妹だと思ってねえからな。
クラスメイトの
へたれ兄貴と笑わば笑え。どうでもいいさ。
けっ、妹とろくに口をきかなくたって、
「……ったく、いつからこうなっちまったのかね」
あいつにも、あんなんじゃなかった
まあいい。まあいい。イラッときたが、まあいいさ。本来の目的を果たすとしよう。
俺は小便を済ませて手を洗い、リビングのソファにダイブした。そのへんに転がっていた週刊誌を拾い、
あー、俺って、これから勉強をしようとしてたんじゃなかったっけ?
寝ころんで、バトル漫画の絵だけパラパラ眺めていると、どこまでも
あぁ──やだやだ。勉強したくねえ。
このダルさはたぶん、学生がかかる共通の病気だな。
俺は、水をぶっかけられた犬みたいに頭を振って、立ち上がる。
扉を開けて廊下に出ると、そこで妙なものを見付けた。
「……ん?」
それが落ちていたのは、玄関の
そいつに手を伸ばしたのは、一種の現実
こんなもんを拾ったところで、ほんの数秒の時間
だけど、結果から言えばそうでもなかった。俺はこのブツのおかげで、しばらく勉強どころじゃなくなるんだから。
俺は、靴箱の裏から引っ張り出したそれを見た
「……なんだこりゃ?」
と、
これは……えーと……これは……なんだ?
ケースを指に挟んで、ためつすがめつしてみるが、正体が判然としない。
DVDのケースだ。それは分かる。レンタルビデオ屋なんかではよく見かけるケースだし……というかDVDってちゃんと書いてあるしな。だがその中身がよく分からねえ。
このとき俺の表情は、さぞやいぶかしげだったことだろうよ。
そのパッケージの表面には、やたらと目がでかい女の子のイラストが、でんと描かれていた。
小学校高学年くらいの、かわいらしい女の子だ。
「目と髪がピンクだな」
冷静に
イメージカラーなのか、パッケージ全体を見ても、白とピンクの配色が多い。
まあそれはどうでもいい。問題は、
「なんつーカッコしてんだ、このガキ」
この小さな女の子が、やたらと
でもって、バカでかいメカニカルなデザインの
ぶっそうなものである。
そして──
パッケージ上部に、おそらくタイトルであろう文字が、丸っこいフォントで表記されていた。
「ほし──くず、うぃっち……める、る? 初回……限定版……? なんのこっちゃ?」
「で……なんでこんなもんが、ここに?」
俺が疑問符を頭に浮かべたときだ。『星くず☆うぃっちメルル』とやらを両手に構え、玄関に
「ただいま──って、どしたの
「気にするなお袋。ちょっとした気分転換だ」
危ねえ──!? 社会的に死ぬかと思ったわ!
だが問題ない。扉が開いた
ふぅ……ぎりぎりのタイミングだったぜ。
買い物袋をぶら下げたお袋は、異様なポーズでいる俺を、
「……さっきおとなりの奥さんから聞いたんだけどね? 最近、学生専門の心理カウンセリングが
「ま、待て……早まるな、俺は正気だ。ただ……そう、
「ウソおっしゃい。あんたがそんなストレス
ひでえ言い草だな親のくせに。もっと自分の子供を信用しろよ。
「んなことねえって。
「だってそれは、
「くっ……」
まったくの図星なので、何も言い返せない。五分前まで漫画読んでたしな、俺。
俺は
「京介ー? お
すごく惜しい。俺の奇行からそこまで
だがいま、俺が腹に隠しているコレは、ある意味それ以上に見付かってはならない
慎重にお袋をやり過ごした俺は、ラガーマンがボールを堅固に抱きかかえているような体勢で、
「ふぅ……」
ごそごそと腹からブツを取り出し、利き手で
ミッションコンプリート。このへんの
「…………持ってきちまった、な」
『星くず☆うぃっちメルル』とやらをすがめ見つつ、
まぁ、あの状況では仕方なかったと思う。勉強をサボる口実捜しをしていた最中でもあったし、この〝ここに存在するわけがない代物〟に、強く
俺は、本日の
俺の部屋は六畳間。ベッドに机。参考書や漫画等を収納した本棚。そして、クローゼットなどがある。
カーペットは
その
どうだ、無個性だろう? なるべく『普通』に生きるというのが、俺の主義で、
ちなみにエロ本を隠すのはもう半分
そこはあえて考えない!
なるべく
……つーか、マジな話、自分の
俺には開き直って堂々とフルオープンにしておくくらいしか、有効な策が思いつかないんだが。自分の部屋に
そんなふうに、深遠な思考を巡らせていたのは現実時間にして数秒。
俺はベッドに腰掛け、足を組む。DVDケースを片手で持ち、「ふむ」とあごに手をやる。
「見れば見るほど、
「ふーむ」
んでさ……コレ、
俺は我が
当然、我が家のリビングで、このアニメが放映されていた覚えもない。
(このとき俺は、パソコンでDVDが
つーと……どうなるんだ? これは? どうしてコレは、あそこにあったんだ?
俺が
「ブフッ……!?」
さらなる
……よくあることだ。ミニコンポでCDを聞いたあとなんか、俺も一つ一つ『正しいケース』に収めるのが
で、後でどのCDをどのケースに入れたのか分からなくなって、混乱したりする。
たぶんコレの持ち主も、そんなふうに
ああ、ああ、分かるぜ。よくある話さ。
だが──だが……な……?
入っているDVDのタイトルがどうして『妹と恋しよっ♪』なんだ? よりにもよって『誰』に『何』をそそのかしてんだよおまえ。
しかもなんだこの『R18』という、あってはならない
「…………落ち着け……!?」
やばかったっ。マジでやばかったっ。何がやばかったかって、さっきお袋と
コレ、中身見付かってたら自殺もんだろ、俺。まさかホントに俺を
この手のものはよく分からんが、本能がぎんぎんに
「
「ヒィィィィィィィィィィイィッ!?」
俺は
チラリと扉の方をうかがうと、ノックもなしに扉を開け放ったお袋は、
「……ごめん、なんか、いけないタイミングだった……?」
「気にするなお袋。ちょっとした発声練習だ。──つうかノックしてくれ、頼むから」
「うんごめん。次からはそうするから」
明らかに作り笑いと分かる表情で言って、扉を閉めるお袋。
いかん……ブツを隠し切れたのはいいが、絶対妙な誤解をされただろ……くそう。
……なんか
布団をひっ被ったまま、
「ちくしょう……」
こうなったら、意地でもコイツの持ち主を見つけ出してやらねば気が済まん。
俺は八つ当たり気味の決意を
……しかし、余計に分からなくなってきやがったな。
この妙ちきりんなDVDの持ち主のことが、だ。『星くず☆うぃっちメルル』とやらのDVDケースの中に、『妹と恋しよっ♪』と題された
俺の予想が当たっているのだとすれば、コレの持ち主は、『星くず☆うぃっちメルル』と『妹と恋しよっ♪』の両方を所有しているということになるよな。
そして
もちろん家族以外の人間が、この家にまったく出入りしていないわけじゃないから、『部外者犯人説』を完全に否定するわけにもいかない。
だがなあ……
「むう……」
とにかくだ。『部外者犯人説』は現状、考えるだけ
「俺だから困る」
いやいや、いや。もちろん俺じゃあないぜ。いまのはあくまで、家族の中で一番そういうのを持ってそうなヤツは誰か、という意味だ。自分で言ってて
とにかくアレは俺のじゃない。だってアニメとか
しかしそりゃ、家族の誰にしたって同じなんだよな……。
分かり切った
だって。まずお袋はないだろ? そんで親父は心底メカ
子供向けのアニメDVDなんざ
いくらなんでもアイツが『星くず☆うぃっちメルル』を、DVD買ってまで観ている光景なんてまったく想像できない。『妹と恋しよっ♪』に至っては、口に出すのもおぞましいといったところだろう。だって桐乃だぜ? イマドキの女子中学生。
「はぁ……参った。さっぱり分からん」
俺の推理は、完全に
だめだこりゃ。とりあえず俺に
さーて、どうするよ俺。もう……
いや……やっぱ、どうしても気になる。ぜってー犯人を見付けてやる。
自分でも
だが、そうはならなかった。俺が俺の意思で、この件について追及をやめないと決めたからだ。むろんこの時点では知るよしもなかったが、良くも悪くも俺は、このとき自分で自分の運命を
この件で、
現在六時四十五分。頭をぼりぼりかきながら
……ああ、帰ってきてたのか。
そういえば桐乃の門限は六時半だったか。その時刻が早いか遅いかはさておき、守ってはいるらしい。まあ見た目は高校生っぽくても、一応中学生だしな。
ちなみに
……かわいいじゃねえか。
だがこの妹様には、あまり
あっちは俺のことが嫌いみたいだし、それならお互いそばに寄らないようにすればいいだけの話である。ぐだぐだ言っても兄妹やめられるわけじゃなし。
それなりに折り合いつけてやってかないとな。
──とまあそういうわけで、桐乃が食卓に向かうのを階段途中で待っている俺。
「……ん?」
しかしどうも
……なにやってんだ、あいつ?
その場でジッとしているのもバカらしいので、俺は階段を下りていった。
リビングへの扉の前に立ち、ノブに手をかける。
「…………」
俺は、ふと首だけで振り返った。
「……なぁ。なにやってんの?」
「…………は?」
すげえ目で
……くそ。こうなることが分かってて、どうして俺はこいつに話しかけるかな……。
バカじゃねえの?
「チッ、なんでもねえよ」
舌打ちをして、俺はノブを強く回した。
食卓に、夕食のカレーと
テレビではニュースキャスターが、海外への
一方そのとなりでは、お袋が、ぽりぽり
妹は超無言。こいつは基本的に、家族には
ちなみに俺は、お袋と雰囲気がそっくりだとよく言われる。
そんな
俺は
もちろん例のDVDの持ち主を特定してやるための作戦である。
……といっても、そんなにたいそうなものじゃない。実にひねりのない、シンプルなものだ。
ようするに、あのまま推理を続けても
ずず、とアサリの味噌汁を飲み干してから、俺は
「俺、メシ
「あら、じゃあハーゲンダッツの新しいの買ってきてちょうだい。季節限定のやつね」
「ほいよ」
なんでもないお袋との会話を挟んでから、俺はしれっと切り出す。
「そういやさ。俺の友達が、最近女の子向けのアニメにはまってるらしいんだけど。えーと、
「なぁに、突然?」
俺のゆさぶりに、最初に反応してきたのも、お袋だった。まさか……。
「イヤ別に、
「やぁだー、そういうのって確かオタクっていうんでしょ? ほら、テレビとかでやってる……あんたはそういうふうになっちゃだめよー? ねぇお
お袋に話を振られた親父は、ほとんど表情を変えずに
「ああ。わざわざ自分から
ふぅん、やっぱそういう
とはいえ、ここで両親に
本音全開で
とすると……消去法で……残っているのは……?
「………………」
桐乃はきつく唇を
「……桐乃?」
妹の異常に気付いたお袋が軽く呼びかけると、
「……ごちそうさまっ」
ばん、と
バタンと強く扉を閉める。だんだんだんだんだん、と階段を駆け上がる音。
残された俺たちは
「……どうしたのかしら……あの子?」
「さ、さぁ……な」
きょとんとするお袋に、俺は適当に答えた。正直、俺にもよく分からなかったからだ。
……なにキレてんだ? あいつ……。いまのやり取りのどこに、桐乃が怒らなきゃならないポイントがあったってんだよ。もしもあいつが『犯人』で、俺のゆさぶりに気付いていたとしたなら、なおさらおかしい。
「……はぁ……」
だが……桐乃のあの態度は普通じゃない。……俺のゆさぶりに反応した……とも考えられる。
もちろんこんなもんで犯人を特定できるとは思わないし、まだまだ家族の中では
玄関で俺が拾った『星くず☆うぃっちメルル』とやらの持ち主は……
妹……なの……か?
「
親父の渋い声が、ずしりと食卓に
DVDの持ち主は桐乃。そう仮定してみると……
落としたのは夕方、
で、
それで夕飯の直前、玄関で探しものをしていたわけだ……。
補足しておくと、ケースの中身を入れ間違えたという俺の想像が正しいのなら、桐乃が持っていくはずだったのは『妹と恋しよっ♪』ではなく『星くず☆うぃっちメルル』の方だろう。
………いやまあ、アレを持っていかなきゃならん用事というのが何なのか、すでに俺の想像の
「…………うーむ」
まったく分からん。そもそもいまだに『桐乃と子供向けアニメ』という組み合わせが信じられない。なんかの間違いじゃないのか? だって桐乃だぜ? ……有り得ないだろ。
『桐乃犯人説』を立ち上げてみたはいいが、このときの俺の心情としては、半信半疑以下。
……まあ、とりあえず、ちょっと引っかけてみっかな。
「ごっそさん」
メシを食い終わった俺は、食卓をあとにした。
妹の部屋の前で、わざとらしく言う。
「さぁて。コンビニいくか」
……俺に役者の才能はねえな。まあいい。どうせ
だんだんだんだんと、あえて音を出しながら階段を下りる。バタンと勢いよく扉を閉める。
家を出て、ひとまずコンビニへの
何をするつもりかって? いや、『犯人』の立場で考えてみたのさ。もしも桐乃が犯人だとしたら、たぶんヤツはもう、俺が例のブツを拾ったことに気が付いている。
で、だ。俺が桐乃の立場だったら、どうするか。
一番望ましいのは、なんとか俺に気付かれないようブツを回収して、あとは知らん顔している──これしかない。
さっきの桐乃は、明らかに
「いや、さすがにねえだろ……まさか……な?」
そして、勢いよく自室の扉を開け放った。
ギィッ!
「……………………………………おい…………何やってんだ?」
「……っ……!?」
ええええええ!? う、
ど、どんだけテンパってんだ、おまえ?
「……何やってんだ? って聞いたんだが?」
「………………なんだって、いいでしょ」
こちらにケツを向けたまま、
「……よくねえだろ? 人の部屋に勝手に入って、
しかもおまえが手を突っ込んでいたのは、よりにもよって俺のエロ本の隠し場所じゃねえか。
口には出せぬ怒りも相まって、俺は冷然と言ってやった。
「………………」
桐乃は無言で視線をそらす。怒りのためか、顔が
「どいて」
「やだね。俺の質問に答えろよ。──ここで何やってたんだ?」
「どいて!」
「……分かってんだよ。おまえが探してるのはコレだろう?」
「それ……!?」
「おっと」
もの
ハッタリの余裕を
「ふーん。やっぱコレ、おまえのだったんだな?」
「……そんなわけないでしょ」
これ以上ないくらい
「違うのか? これ、夕方玄関で拾ったんだが。俺とぶつかったときに、おまえが落としたんじゃねえの?」
「絶対違う。……あたしのじゃない。そ、……そんな……子供っぽいアニメなんか……あたしが見るわけない……でしょ」
断じて認めるつもりがないらしい。
「コレを探してたんじゃないなら、じゃあおまえ、
「……それは……それは!」
「それは? なんだよ?」
俺が
「………………………………」
ぶるぶる肩を悔しそうに
俺の追及に、桐乃が強い
そりゃまあ、例えば俺にしてみりゃ、大嫌いな相手に『なぁおい、このエロ本、おまえのなんだろ? ヒヒッ』とか言われてるようなもんだからな。そりゃメチャクチャ悔しいし、死にたくなるほど恥ずかしいだろうよ。
「……………っ……………」
親の
……ちくしょう。なんで妹に、憎しみの込められた目で
クソ……だんだんバカらしくなってきたぞ……。俺はこんなやつのことなんざ、どうでもいいってのに。なんでこんな気まずい
やめだやめだ! やってられるか!
「ほらよ」
俺は投げやりに、DVDケースを妹の胸に押しつけた。桐乃は、
「大事なもんなんだろ? 返すから、ちゃんと受け取れ」
「だ、だから、あたしのじゃ……」
「じゃあ代わりに捨てといてくれ」
「は?」
何を言われたのか分からない──そんな顔で俺を見上げる桐乃。
なんだそのツラ? 俺は別に、妹
「悪かったな、俺の
そこまで妥協してやって、ようやく桐乃は、
「………………ん……べ、別に……いいけどさ」
と、ブツを受け取ってくれた。俺が
「ふぅ……」
ったく、ありえねえ! 妹とこんなに口利いたの、何年ぶりだよ? 俺。
超疲れたァ──俺はベッドにどさりと座り込んで、天を
ところがそこで、とっくに行っちまったと思っていた妹から、声がかかった。
「……ね、ねえ?」
「あ?」
まだいたのかコイツ。
俺が
俺は妙に
「………………やっぱ。……おかしいと、思う?」
「なにが?」
「だから……その、あくまで例えばの話。……こ、こういうの。あたしが持ってたら……おかしいかって聞いてんのっ……」
…………ちっ。
「別に? おかしくないんじゃねえ?」
心の中で舌打ちして、そう
「……そう、思う? ………………ほんとに?」
「ああ。おまえがどんな
だって俺、カンケーねえし。
「ほんとにほんと?」
「しつけえな、本当だって。信じろよ」
内心超投げやりに言った
「…………そっか。……ふぅん」
何度か
「……扉くらい閉めていけっての」
そうぼやいて、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。
で──それから二日間は、何事もなくすぎた。
そりゃ、なんでまた、あの妹があんなもんを……? という
だからといって、他人の秘密をほじくり返そうとは思わんさ。
だが……
そんなある日の深夜。
安らかに眠っていた俺は、バチンと
「っだ!?」
最悪の目覚め。どうやら頰を張り飛ばされたらしい。
な、なんだ!? 強盗か!?
「っ」
まぶしい。
「お、おまえっ」
「…………静かにして」
なんと襲撃者の正体は、パジャマ姿の桐乃だった。ベッドで上体を起こした俺に、
「……っこの、おまえな……!? なんのつもり……」
「…………静かにしろって言ってるでしょ……いま何時だと思ってんの?」
俺が
いま何時だと思ってるってのは、この場合、俺の
……つーか、俺はいま……深夜、自室のベッドの上で、妹に覆い被さられて、
「と……とりあえず、ベッドから下りろ……」
呼吸を
これが
妹を持つ兄なら、みんなそう言うはずだ。
「はぁ」
俺はこめかみを指で押さえ、ため息をついてから聞いた。
「で? どういうつもりだ?」
「…………話があるから、ちょっと来て」
なんでおまえがキレ気味なんだよ……。いきなり
「話だぁ? こんな時間にか?」
「そう」
「すげー、眠いんだけどな、俺。……
あからさまに
むしろ『バカじゃん?』みたいな顔で返事をした。
「明日じゃダメ。いまじゃないと」
「どうして?」
「……どうしても」
はいはい。理由は言わない。主張も曲げない。どんだけわがままなんだよ、この女。
こんな
「……どこへ来いって?」
「……あたしの
親の
やれやれとかぶりを振って、俺は抵抗を
「行けばいいんだろ……行けば」
なんだってんだよ、本当。
妹の
今後もないだろうとばかり思っていたのだが……よりにもよって深夜に招かれることになろうとは。
「……いいよ、入っても」
「……おう」
妙に甘ったるいにおいがする。
……ふーん。俺の部屋より広いじゃねえか。
八畳くらいある。ベッドにクローゼット、勉強机、本棚、姿見、CDラック……
内装自体は俺の部屋と、それほど代わり映えしない。全体的に赤っぽいカラーリングだ。
違うところといえば、パソコンデスクがあるくらいか。
個性には
「……なにジロジロ見てんの?」
「別に見てねえよ」
信じらんねえ。自分で連れてきたくせに、この言い草。
桐乃はベッドにちょこんと腰掛け、地べたを指差す。
「座って」
いたって自然に言うけどな。妹よ、それは
「……おい、せめて
「………………」
桐乃はすごく
俺はありがたく猫の
……ほんっとこいつ、自分の持ち物に俺が触れるのが気に入らんらしいな。
「で?」
俺は
「…………があるの」
「なに?」
声が小せえよ。聞こえねえっての。
「……だ、だから、
ずいぶん妙な
「なんだって?」
「……人生相談が、あるの」
「……………………」
俺は、かなり長い間、
だっておまえ……ねえ? よりにもよってこの妹が、ゴミ虫みてーに嫌ってる俺に向かって、なんつったと思う? 人生相談があるの、だぜ? どう考えても夢だろ。町にゴジラが攻めてきたっつわれても、こんなに
俺はカラカラに渇いたのどで、なんとか声を発した。
「人生……相談って……おまえが……俺にか?」
「うん」
桐乃ははっきりと
「……この前、言ったじゃん?」
「なにが?」
「あ、あたしが、その、……ああいうの持ってても、おかしくないって、さ」
歯切れが悪い。落ち込んでいるような
「ああいうのって…………もしかして、俺が捨てといてくれって頼んだアレのことか?」
「……うん」
何でここでその話が出てくるんだ?
俺はいぶかりつつ「ああ、言ったな」と答えた。
「それがどうした?」
「あの……ほんとに……バカにしない?」
本当に、こいつに話しても大丈夫かな──そう言いたそう。
この
「何度も同じこと言わせんな。絶対バカにしたりしねえって言ったろ」
だからおまえの
「ぜ、ぜったい? ほんとに、ほんと?」
「絶対の絶対。本当に本当に本当だ」
「ウソだったら……許さないからね」
「おお、好きにしろよ」
フ──いい加減にしてくれねえかな、なんだってんだ……。
……あん? 何をするつもりだ?
「お、おい……おまえ……何やってんだ?」
桐乃は俺の質問には答えず、残った本棚(こちらは半分くらい本が収納されている)の側面に肩をあて、ぐっ、ぐっ、と
ズ、ズ……と、分厚い本棚が少しずつズレていく。そうして現われたのは、洋室にはそぐわない
「うお……」
桐乃は「ふぅ」と一息ついて、言う。
「……あたしが中学入って、自分の
「へえ……」
「で……人生
桐乃は
「…………」
とくれば、これまでの話の流れで、察しのよくない俺にも、襖の奥に何が入ってるのか想像がつくってもんだ。こいつが躊躇している理由もな。
──人生相談ねえ。……どうして俺なんだろうな?
「ふむ……」
自分が桐乃の立場だったらと想像してみる。
えーと……人生相談ってのは大きくわけて二種類あるよな?
いっこはまぁ、一番よくあるケースで、『事情に通じてて頼れる人間』相手に相談する場合。
この場合は当然『自分が抱えている悩みとか問題が、どうやったら解決するのか』
んで、もういっこは、『事情を知らない第三者』相手に相談する場合。
こっちの場合は、有効なアドバイスなんざハナっから期待してなくて、とにかく『話を聞いて欲しい』から相談するわけだ。
でもって、
……だとすっと?
桐乃の悩みが俺の想像どおりなら、そもそも他人に相談すること自体が
自分のイメージを崩すのが
いま、桐乃が開けっぴろげに相談できる相手は、たった
『すでに相談内容を知っていて』、『相談した結果、どう思われようが構わない、どうでもいいやつ』──つまり俺。
へーえ。そういうことかよ……。妹が抱える大体の事情を察した俺は、さっさとうざったい用事をすませて
「心配すんな。そこから何がでてこようと、俺は絶対バカにしねえし、秘密にしろってんなら、絶対
俺の打算に満ちた
「……約束だからね」
と念を押すように
がら……
ぼとっ。
「……ん? なんか……落ちた……ぞ?」
俺はつまびらかになった
それはまたしてもDVDケースで──
タイトルは『妹と恋しよっ♪ ~妹めいかぁEX Vol.4~』だった。
「げふんげふんげふんげふん……!?」
盛大にむせた。
ほ、本体登場──!? 考えてみりゃアニメだけじゃなくて、アレの持ち主もこいつだった!
「な……なんだ……コレは……」
「あ。それは最初プレステ2から出たんだけど、パソコンに移植されてから別シリーズ化したやつね。名作ではあるけど、ちょっと古いし内容もハードだから、初心者にはおすすめしない」
んなこた聞いてねえよ!? 大体なんだ初心者って? おまえはプロか? プロなのか?
チクショウ突っ込みどころが多すぎて、俺のスキルではカバーしきれねえ!
い……いったい何が始まろうとしているんだ?
お、
『妹と恋しよっ♪』というファーストインパクトで脳をやられてしまった俺は、スデにグロッキーだった。だがこんなモノは、
「くっ……」
だが、そこに
まず目につくのは、上段にうずたかく積まれた大量の箱。
「……その……箱は……?」
「これ? これは、パソコンゲームの箱」
桐乃はちょっと得意げな
そのほとんどは『妹めいかぁEX』シリーズで、タイトルの例を挙げると『
「なんで……こんなに箱がでかい?」
「……それは、あたしにも分からない。でも、こういうものなの」
世界の
ゴクリ……いまにも口をついて出てきそうな危険な突っ込みをギリギリのところで飲み込みつつ、俺は
そこにはやはりドでかい箱が、でん、でん、でん、でん、と並んでいる。
パソコンゲームの箱よりもさらにでかく、規格が統一されていない。それぞれ女の子のイラストが描かれていたり、メタリックに
「こっちの……コレらは……な、なんなんだ?」
「アニメのDVDボックス。ここにあるのはぜんぶ特製ボックス仕様」
「DVDボックス? 特製ボックス仕様?」
情けないが、オウム返しに問い返すのが精一杯だ。
「そう。
「その……星くず☆うぃっち……とかの?」
「うん」
桐乃のテンションは、
自慢のコレクションを
ところで気になるんだが、
「こういうのって……結構高いんじゃねえの?」
「んー? まあ、わりとね。えっと、コレは41,790円でしょ? コレは55,000円でしょ? で、えっと、こっちは──」
「
「そう? ……服一着か二着分くらいでしょ、こんなの」
「どっからそんなカネがでてくんの!? 中学生だろおまえ! どうして十四歳にしてスデに金銭感覚
言ったあとで、しまったと思った。
……やべ、これ、もしかしたら
俺の気まずい心配をよそに、
「どっからって……ギャラに決まってるじゃん?」
「そ、そうか……」
ふーん……ギャラ……ギャラね? それならいいんだが……。
って、いやいやいやいや!? 全然よくねえだろ!?
俺は、片眼をぎょろりと
「ぎゃ、ギャラ、だと……?」
「うん」
「……なにそれ? どっからどういう理由でもらってるわけ?」
「ああ……言ってなかったっけ。あたし、雑誌のモデルやってるから」
「ざ、雑誌? モデル? ……巻頭グラビアとかか?」
「……全然違う。耳腐ってる? モデルだっつってるでしょ? 専属読者モデル」
それは、いわゆるティーン誌というやつだった。白背景に、やたらとキラキラしたフォントのタイトル。流行を先取りだのなんだの、幾つかのあおり文句が並んでいる。
「…………」
パラパラページをめくってみると、雑誌のあちこちで、見慣れた妹の姿を見付けることができた。俺にはよく分からんが、流行最先端とかいう服を着て、びっとポーズを決めている。
──へえ。モデルみてーだとは思っちゃいたが、まさかホントにモデルやってたとはね。
こいつがどこで何をしてようがどうでもいいはずなのに、妙にイラっときたのは何でなんだろうな?
「──んだよこの格好、腰でも
「……バカじゃん」
さっと目を伏せた妹を見ていると余計に気分が悪くなってくる。俺は
「……まぁ……か、かわいいんじゃねえの」
妹相手に、なに言ってんだ俺は。……一応本音ではあるけどな。
「……つうか、これ結構有名な雑誌だろ? 俺が名前知ってるくらいなんだから。──おまえ、もしかして
「ふん、別に? たいしたことないよ、こんなの」
俺なんかの
険悪な空気がほどけたので、俺は
「で、幾らくらいもらってんの?」
「えーと……
妹から返ってきた答えを聞いた俺は、がっくりと肩を落とした。
……おいおい。……幾ら何でもガキに金渡しすぎだろ。
「そういうわけだから、あたしが日々、かわいさに
「けっ……よくいうぜ」
だがなぁ……この雑誌の読者どもも、このカッコ付けたポーズ決めてるかわいいモデルが、まさかギャラで『妹と恋しよっ♪』だの『妹たちとあそぼ♡』だのを買っているとは思うまい。
というかたぶん、こいつのファンが真実を知ったら間違いなく
俺は世界の
が、そこに
「……きょ、
「なんで?」
いや、別に見たくもねえけど。全部見終わるまで解放してくれないのかと思ってたぞ。
桐乃は収納スペースの奥底を
だからそのゴミを見る目はやめろよ。
「まだ……信用したわけじゃないから。いまは、これが限界」
「はあ?」
なんだ? こいつ、何を言ってやがるんだ? その言い方だと、まるで……いま見せたのはほんの
「あの、奥にあるのは、ちょっと恥ずかしいやつで……その……だから、だめ」
「………そ、そうか……」
ええ~~? 『妹と恋しよっ♪』を得意げに見せびらかせるこいつが、恥ずかしがって
「で、どう?」
「ど、どうとは?」
何を言えってんだ。
俺が何も言えないでいると、桐乃は、
「だから、その、感想。あたしの、
「……ああ、感想、感想……な? ……ええと、びっくりした」
「そんだけ?」
「……そんだけって言われても……しょうがねえだろ? すげえびっくりして、
俺が
「……やっぱり、あたしがこういうの持ってるの……おかしいかな」
「……いや、そんなことは……ないぞ」
おかしいっていうか……そういう次元の問題じゃねえし。
……つまり桐乃の
それよりさ、そろそろ解放してくんねえかな。ぐっすり眠って、もう忘れたいよ俺は。
俺は一刻も早くこの場から脱出したいので、妹が求めているであろう
「言ったろ。俺は、おまえがどんな趣味を持ってようが、絶対バカになんかしねえって。──いいんじゃねえの? 何を趣味にしようがそいつの勝手だ。誰に迷惑かけてるわけじゃなし、自分が
「……だよね? ……ははっ……たまにはいいこと言うじゃん!」
よしよし満足したな? じゃあ俺はそろそろ退散させてもらおう。
と、
実は、さっきからずっと、こいつに突っ込みたくて突っ込みたくて我慢していることがある。
まるで世界の外側から『早く突っ込め! 突っ込め!』と指示を飛ばされているような感覚だった。もちろん気のせいだろうがな。
「はあ……」
ようし……いまから突っ込むぞ? 突っ込むからな? 覚悟はいいか? もしも最悪の回答が返ってきたとき、
「
「は? キモ、なに改まってんの?」
てめえ、それが大サービスでおまえの
なんかこの分だと、どうやら最悪の展開はなさそうな気がしてきたな……。
ふぅ……。
「なんでおまえ、妹もののエロいゲームばっか持ってんの?」
「…………………………………………」
お、おい……なぜそこで
「……なんで、だと……思う?」
「さ、さぁ……なんでなんだろうな?」
ま、待て。待て待て待て……なぜそこでうっとり
なぜ
まさか、まさか……ちょっと、やめてくれよマジで……俺にそんな趣味はねえっての……!
身の危険を感じた俺は、腰が抜けたような体勢で、じりじりと
「……なに逃げてんの?」
「別に逃げてねえよ」
「うそ、逃げてるじゃん」
「それはおまえが……あ」
し、しまった。背中が
さっさと立って逃げりゃあいいものを、
「…………」
そこで桐乃は、何かを決意したような、思い詰めたような表情になった。
真剣な
そうして桐乃は、四つん這いで俺に
俺の鼻先に、『妹と恋しよっ♪』のパッケージを突き付けた。
「は?」
予想外の展開に、面食らう俺。そんな俺の反応なんざ意にも介さず、桐乃はころっと態度を一変させて、ややうっとりとした
「このパッケージを見てるとさ……ちょっといいとか思っちゃうでしょ?」
「……な、なに言ってんのおまえ?」
意味が分からねえ。この部屋に足を踏み入れてから、何度この
「だぁからぁ~」
何で分からないかなぁとでも言いたげに、
「……すっごく、かわいいじゃない?」
だから何が? おまえの
このときの俺の表情は、さぞかしいぶかしげだったことだろう。
これ以上聞き返しても、ろくな答えが返ってきそうにないので、俺はなんとか妹の言わんとすることを察してやろうと頭を回転させた。
「……………………」
手掛かりは二つ。いま、鼻先に突き付けられたパッケージ。そして
普通に考えれば答えは一つしかないわけだが……でも、それっておかしくねえか? ……おかしいよなあ? ……俺はどうにも納得いかないままに、おそるおそる聞いてみる。
「……すると、おまえ。なんだ、その……まさかとは思うけど……『妹』が、好きなのか? で、だから、そんなゲームとか、いっぱい持ってると」
「うんっ」
だ、大正解……。元気いっぱいに
……
などと思っていると、桐乃は聞いてもねえのに語り始めた。
「ほんとかわいいんだよ。えっと、例えばね? たいていギャルゲーだとプレイヤーは男って設定だから、お
「ふ、ふーん……すごいな」
適当に
ところでおまえは俺のことを『おい』だの『ねえ』だの、やたらと
俺の無言の問いかけにはもちろん気付かず、桐乃は『妹と恋しよっ♪』のパッケージを俺に見せつけるようにして、とある女の子のイラストを指で示した。
「この中だと──あたしは、この娘が一番お気に入り」
妹が示したのは、背の低い、気弱そうな女の子だ。黒髪をツインテールに
「やっぱね、黒髪ツインテールじゃないとダメだと思うの。
おまえ茶髪じゃん。
……まぁ……それはそれとして、だ。
「……な、なるほど」
それは理解した。だが俺の疑問は解消されちゃいない。むしろでかくなったくらいである。
俺は
「だ、だが……どうしてだ?」
「え?」
「だからおまえ、どうして妹が好きなんだ? 悪いとは言わないが……おまえが集めているゲームって、普通男が買うもんだろ? ……しかも、その、18歳未満は買っちゃいけないやつじゃないのか? あまりにも、おまえのイメージからはかけ
「そ、それは……その……」
俺の問いを受けた
「わ、分かんない!」
目をきつくつむって、顔を
俺が「は?」と問い返すと、妹は胸に両手を持っていって、もじもじと恥じらい始める。
「……あのね……あのね……じ、自分でも……分かんないの」
……うお、なんだコイツいきなり……
恥じらう
「分かんないっておまえ……自分のことだろ?」
「だ、だって! しょうがないじゃん……ホントに分からないんだから……。いつの間にか、好きになってたんだもん……」
だもん、って……おいおい、おまえのキャラじゃねえだろ、それ。
「……たぶん店頭で見かけたアニメがきっかけだったとは思うんだけど……」
桐乃は、それこそ自分が好きな妹キャラみたいに、気弱な態度になっている。
不安そうに俺を見上げてきた。
「……あたしだって……こういうのが、普通の女の子の
で、挙げ句の果てにこのザマというわけか……。
……めちゃくちゃメーカーの策略にハマってやがるな、こいつ。
「こ、このかわいいイラストが、あたしを狂わせたのよ……」
イラストレーターのせいにすんじゃねえよ。
ていうか俺はなんで、深夜に妹から、オタクになったいきさつとか聞いてるんだろうな?
こんな奇妙な
「このままじゃいけないって……何度もやめようって、思った。でも、どうしてもやめられなくて……だってね、ブラウザ立ち上げると、はてなアンテナに
「いやおまえ……よく分かんねえけど……ニュースサイト? 見なきゃいいんじゃないか?」
「………………それができれば苦労しないんだって……」
軽く突っ込んだら、桐乃は思いっきりしょんぼりしてしまった。
おいおい……だから
俺の前にぺたんと座り込んだ桐乃は、目に涙を
「……ねぇ、あたしさ、どうしたらいいと思う?」
「………………」
どうしたらいいと思う……って、言われてもな……。
んなもん知るかよ、というのが正直な意見だが、さすがに俺を頼ってきた妹にこの
分かってるさ。こいつが
人をなめた、ふざけた話さ。
けどな……そんな理由でも桐乃は、自分が抱え込んでる悩みを、こうして俺に話してくれたわけだ。
……んじゃ、しょうがねえよな。
俺が目をつむって
「やっぱさ……お
「
うおお、びっくりすんなあ。実はこいつ、天然なんじゃねーの?
「それもそっか。……じゃ、やめとく」
「そうしとけ。特に
そんな親父が、
「見付かったら……まずいかな……?」
「まずいだろうな。正直、その展開は考えたくもねえ。だから、そこは協力してやる。おまえの趣味がバレないように……つっても、何ができるかは分からねえけどさ」
「……いいの?」
桐乃は意外そうな顔をしていた。
……おまえさ……俺をどういう評価してたわけ? おっかないから聞かないけどよ……。
などと不満を抱きつつも、俺は
「いいさ。何かあったら、
俺は成り行きで口にしてしまったこの
「……そ、そう? ……じゃ、そしよっ、かな……うん……そうしてくれると、助かる、かも」
桐乃は礼こそ一言も言わなかったが、しきりに小さく頷いて、
そんな妹を見ていると、正直、悪い気はしない。
──ふーん、こういう顔もできるんじゃん、こいつ。
俺は意外な
なんだかなぁ……ちっとばかし無責任なこと言っちまった気がするが。
まあいいか、どうにかなんだろ。俺に例のブツを見付かってから
協力せんわけにゃいかんだろ。
……やれやれ、とにかく『最悪の展開』じゃなさそうでよかったぜ。
「ところでおまえ、あくまで『妹』が好きで『妹もののエロいゲーム』を買ってるんだよな? ……他意はないんだよな?」
「は? じゃなきゃなんだと思ったワケ?」
俺がさらなる安心を求めて
そして数秒後、俺が心配していた『最悪の展開』について思い至ったらしく、さっと
「……キモ。なわけないでしょ」
おお、
やべえ、むかつくはずなのに妙に安心しちまった。さっきの
「キモ、っておまえな……おまえの好きなゲームだと、妹ってのは兄貴が大好きなんだろ? 自分で否定してどうすんだよ?」
「……ばかじゃん? 二次元と三次元を
こいつ、いま
「もう用は済んだから。そろそろ出てってくんない?」
ちくしょう……やっぱかわいくねぇよ、こいつ。
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