俺の妹がこんなに可愛いわけがない

@TSUKASAFUSHIMI

第一章

第一章


 学校から帰宅すると、妹がリビングで電話をしているところだった。

 妹の名前は、こうさかきり。現在十四歳。近所の中学校に通っている女子中学生だ。

 ライトブラウンに染めた髪の毛、両耳にはピアス、長くのばしたつめにはあでやかにマニキュアを塗っている。すっぴんでも十分目をくだろう端正な顔を、入念なメイクでさらに磨き上げている。中学生には見えないくらい大人おとなびた雰囲気。背がすらっと高く、しかし出るところはきっちり出ている──。

 これで歌でもければ、いかにも女受けしそうなカリスマアイドルのでき上がりだ。

 身内のひいなんかじゃない。おれの妹は、とにかくあかけているやつなのだ。

 もっとも自慢の妹だと誇るつもりはぜんぜんない。男連中からはよくうらやましがられるし、連中の気持ちも分からんでもないが、俺としてはじようだんじゃないと言いたいね。

 実際に妹がいるやつなら、ちょっとは俺の気持ちが分かってくれるんじゃないかと思う。

 妹ってのは、そんなにいいもんじゃない。少なくとも俺にとっては。

 例えばこう考えてみてくれ。学校のクラスには、たいてい幾つかの友達グループがあるよな。

 その中でも一番はなやかなグループを思い浮かべてみるんだ。運動部のエースやら、秀才のイケメンやら、特別かわいい女子なんかが中心になってる集団さ。

 その集団の中でも、さらに一段、垢抜けている女子。

 なんだか話しかけるのもちゆうちよしちまうような、今後もずっとかかわることのないだろう、別世界の住人。いわゆる『高めの女子』ってやつだ。見てくれがどんなによかろうと、たいていの男なら、にがなタイプだって思うよな。俺もそうさ。

 そんな女が、自分の家族だと想像してみろ。もちろんお互いのきよかんは据え置きで、だ。

 ……どうだ、分かるか俺の気まずさが。そんなにいいもんじゃないだろう?

「ただいま」

 一応のれいとしてあいさつしてみるが、返事がないどころか、こっちをチラリとも見やしない。

 セーラー服姿の桐乃は、ソファに深く腰掛け、超短いスカートで足を組み、けいたいに向かって何やら楽しそうにけらけら笑いを振りまいている。

 その笑顔えがおはなるほどかわいかったが、それが俺に向けられることは今後もないだろう。

「えー? ウッソー? なにそれぇ。きゃはは、ばっかみたーい」

 ああ、おまえなんかに話しかけた俺がバカだったよ。

 俺は心の中で毒づいて、ぱかんとれいぞうを開けた。パックの麦茶を取り出し、グラスに注いで一気にあおる。ふぅ、とひと心地ごこちついてから、その場を後にした。

「うん、うん……分かった。じゃあ着替えて、これから行くね──」

 もう夕方になるってのに、どこに遊びに行くのやら。

 まあ、しょせん俺には関係のない話だけどな。俺は心の中でつぶやいて、階段を上っていった。


 おれの名前は、こうさかきようすけ。近所の高校に通う十七歳。

 自分でいうのもなんだが、ごく平凡な男子高校生である。所属している部活はないし、しゆも特筆するようなもんはない。そりゃ流行の音楽くらいはくし、漫画やら小説だって、まあそれなりには読むけど、趣味といえるほどのもんじゃないな。

 ほうはだいたい友達と町をぶらつきながらだべったり、家で漫画読んだり、テレビ見たり。

 ときにはまぁ……勉強したりもする。

 だいたい普通の高校生ってのはそんなもんだろう? なんでつまらない毎日だと言われるかもしれないが、『普通』でいるってのは、わりと大事なもんだと俺は思う。

 普通っていうのは、周りと足並みそろえて、地に足つけて生きるってことで。

 無難ってのは、危険が少ないってことだ。

 幸い俺のせいせきは、いまのところ悪かあない。このままじゆん調ちようにいけば、わりといい大学に進学できるんじゃないかと思う。その先、将来どうするか──なんてのは、四年間のキャンパスライフを楽しみながら、ゆっくりと考えればいいことだ。

 いまからあわてなきゃならないのは、そのやり方では就けないしよくぎようを目指しているやつらくらいのもんだろう。夢を追いかける──聞こえはいいけどな。それは『普通』じゃなくなるってことだ。危険は多いし、間違っても無難じゃない。少なくとも俺には向いてないね。

 ま、子供のころの夢なんて、とっくの昔に忘れちまったけど……いて言うなら。平々凡々、目立たずさわがずおだやかに、のんびりまったり生きていくのが俺の夢ってところかな。

 は二階建ての一軒家。家族構成は俺と妹、それに両親の四人。

 そこそこ裕福な、別段珍しくもない、ありふれた家庭。

 俺と妹のは二階にある。部屋で私服に着替えた俺は、十分ほどくつろいでから階段を下りた。勉強を始める前に、トイレを済ませておこうと思ったからだ。ちなみに階段を下りるとすぐ玄関で、向かって左手にリビングへの扉がある。

 と──

「っと」

 階段を下りてすぐ、玄関付近で、私服の妹とぶつかった。実はこの位置、お互いにとって死角になるので、接触事故が多発するポイントなのだ。

 どん。俺の左肩がきりの胸にぶつかるような形で、軽くしようとつしようげき自体はたいしたことがなかったのだが、その拍子に妹のバッグが手からはなれ、ゆかに中身をぶちまけた。

「あっ……」

「お、悪い」

 俺は素直にびて、床に散らばった化粧品などもろもろに手を伸ばそうとしたのだが……

 ぱしっ。それを察した桐乃が、俺の手を平手で払った。

「なっ」

 目を見開いたおれは、するどせんを向けられて絶句する。

 妹の口から出た台詞せりふはこうだ。

「……いいから、さわんないで」

 それだけ告げて、散らばったバッグの中身を、もくもく一人ひとりで拾い集める。

 うお……感じりぃな……こいつ……。自分の持ち物にさわられるのがイヤだって?

 どんだけ兄貴が嫌いなんだっての。

 無表情で手を動かす妹を、俺は、ただ無言で見下ろしていた。

「……………………」

 気まずい空気が玄関に満ちている。

 妹は俺に背を向け、そそくさとパンプスをき、

「………………いってきます」

 義務をいやいや果たしているみたいにつぶやいて、バタンと強く扉を閉めた。

 ……とまぁ見てのとおり、俺と妹の関係は、こんな感じだ。

 別に、たいしてハラも立ちやしねえ。

 だってあいつのことは、もう兄妹だと思ってねえからな。

 クラスメイトのだれそれさんに同じことされたと思えば、ああこいつはこういうやつなんだなとあきらめもつくってもんよ。

 へたれ兄貴と笑わば笑え。どうでもいいさ。

 けっ、妹とろくに口をきかなくたって、おれの生活に支障はないしな。

「……ったく、いつからこうなっちまったのかね」

 あいつにも、あんなんじゃなかったころがあった気がするんだが。

 まあいい。まあいい。イラッときたが、まあいいさ。本来の目的を果たすとしよう。

 俺は小便を済ませて手を洗い、リビングのソファにダイブした。そのへんに転がっていた週刊誌を拾い、あおけの体勢で脚を組む。

 あー、俺って、これから勉強をしようとしてたんじゃなかったっけ?

 寝ころんで、バトル漫画の絵だけパラパラ眺めていると、どこまでもくうきよな気分になっていく。こんなことしてる場合じゃねーだろと理性が叫ぶが、すさまじいかったるさがそれをはばむ。

 あぁ──やだやだ。勉強したくねえ。

 このダルさはたぶん、学生がかかる共通の病気だな。

 俺は、水をぶっかけられた犬みたいに頭を振って、立ち上がる。

 扉を開けて廊下に出ると、そこで妙なものを見付けた。

「……ん?」

 それが落ちていたのは、玄関のすみっこ、くつばこの裏側だ。さっきは気付かなかったが、靴箱とかべすきから、白くてうすい──ケースのようなものが半分はみ出している。

 そいつに手を伸ばしたのは、一種の現実とうだろう。勉強やりたくなくてやりたくなくて、なんとか別の行動理由を脳が見付け出そうとしている。

 こんなもんを拾ったところで、ほんの数秒の時間かせぎにしかならないってのに。

 だけど、結果から言えばそうでもなかった。俺はこのブツのおかげで、しばらく勉強どころじゃなくなるんだから。

 俺は、靴箱の裏から引っ張り出したそれを見たしゆんかん

「……なんだこりゃ?」

 と、とんきような声を上げてしまった。って、それがにあまりにも似つかわしくないしろものだったからだ。

 これは……えーと……これは……なんだ?

 ケースを指に挟んで、ためつすがめつしてみるが、正体が判然としない。

 DVDのケースだ。それは分かる。レンタルビデオ屋なんかではよく見かけるケースだし……というかDVDってちゃんと書いてあるしな。だがその中身がよく分からねえ。

 このとき俺の表情は、さぞやいぶかしげだったことだろうよ。

 そのパッケージの表面には、やたらと目がでかい女の子のイラストが、でんと描かれていた。

 小学校高学年くらいの、かわいらしい女の子だ。

「目と髪がピンクだな」

 冷静につぶやおれ。証拠品を検分するたんていまなし。

 イメージカラーなのか、パッケージ全体を見ても、白とピンクの配色が多い。

 まあそれはどうでもいい。問題は、

「なんつーカッコしてんだ、このガキ」

 この小さな女の子が、やたらとせんじようてきしように身を包んでいることだ。水着というか、包帯というか、ちゃんと服を着なさいと言ってあげたくなるような格好。その包帯のような衣服からはロケットブースター的な何かが発生しているらしく、女の子は、ほしくずの尾(☆↑こういうの)をいて空を飛んでいた。

 でもって、バカでかいメカニカルなデザインのつえやりか?)を片手で軽々と構えている。

 りよほうせんもかくやというゴツイやつだ。明らかにせんとうよう。敵兵をぎ払い、あるいはたたつぶす、世にもおぞましい用途がイヤでも連想された。

 ぶっそうなものである。

 そして──

 パッケージ上部に、おそらくタイトルであろう文字が、丸っこいフォントで表記されていた。

「ほし──くず、うぃっち……める、る? 初回……限定版……? なんのこっちゃ?」

 いろいろともったいぶったが、つまりはアニメなのだろう。たぶん。俺はそういうのをサッパリ見なくなって久しいので、よくは分からないのだが。

「で……なんでこんなもんが、ここに?」

 俺が疑問符を頭に浮かべたときだ。『星くず☆うぃっちメルル』とやらを両手に構え、玄関にたたずんでいる俺の真正面で、ばんっと勢いよく扉が開いた。

「ただいま──って、どしたのきようすけ? 玄関でたいのように丸まっちゃって?」

「気にするなお袋。ちょっとした気分転換だ」

 危ねえ──!? 社会的に死ぬかと思ったわ!

 だが問題ない。扉が開いたしゆんかん、俺はその場に伏せてブツを隠していた。

 ふぅ……ぎりぎりのタイミングだったぜ。

 だれわざか知らねえが、俺をおとしいれるためのわなだったんじゃなかろうな。俺がこんなもんを持っているところをもくげきされた日には、家族かいでつるし上げられかねん。

 きりのゴミを見るようなせんが、いまから想像できる。

 買い物袋をぶら下げたお袋は、異様なポーズでいる俺を、あわれみの視線で見下ろした。

「……さっきおとなりの奥さんから聞いたんだけどね? 最近、学生専門の心理カウンセリングがっているそうなの」

「ま、待て……早まるな、俺は正気だ。ただ……そう、今日きようは、ちょっと勉強のしすぎでな?」

「ウソおっしゃい。あんたがそんなストレスめるほど勉強するわけないでしょ?」

 ひでえ言い草だな親のくせに。もっと自分の子供を信用しろよ。

「んなことねえって。おれせいせきが悪くないの、知ってるだろ?」

「だってそれは、ちゃんのおかげでしょう。ゆうしゆうおさなみに家庭教師してもらってて、何を自分のがらのようにってるの? あんた、自分一人ひとりじゃ勉強なんてやりっこないでしょうが」

「くっ……」

 まったくの図星なので、何も言い返せない。五分前まで漫画読んでたしな、俺。

 俺はしやくむしのようにゆかいずり、『星くず☆うぃっちメルル』を服の下に隠しつつ、その場からたいした。そんな俺に、背中からお袋の声がかかる。

「京介ー? おかあさんはそんなに気にしないけど、玄関でHな本広げるのはやめなさいねー?」

 すごく惜しい。俺の奇行からそこまでどうさつしたお袋はさすがといえよう。俺のを勝手に掃除して、ぞうのコレクションをすべてあばき出したという経歴はダテじゃあない。

 だがいま、俺が腹に隠しているコレは、ある意味それ以上に見付かってはならないしろものだ。

 慎重にお袋をやり過ごした俺は、ラガーマンがボールを堅固に抱きかかえているような体勢で、ばやく階段を駆け上った。部屋に飛び込み、扉を閉めて、ようやく一息。

「ふぅ……」

 ごそごそと腹からブツを取り出し、利き手でうやうやしくかかげる。左手の甲で冷や汗をぬぐう。

 ミッションコンプリート。このへんのぐさは実にれたものだ。理由はあえて言わないが、けんぜんな中高生男子しよくんならば、必ずや察してくれるものと信じている。

「…………持ってきちまった、な」

『星くず☆うぃっちメルル』とやらをすがめ見つつ、つぶやく。

 まぁ、あの状況では仕方なかったと思う。勉強をサボる口実捜しをしていた最中でもあったし、この〝ここに存在するわけがない代物〟に、強くきようかれているのも事実だ。

 俺は、本日のじゆけん勉強をやむを得ない事情により切り上げて、さっそくブツの検証を始めることにした。

 俺の部屋は六畳間。ベッドに机。参考書や漫画等を収納した本棚。そして、クローゼットなどがある。

 カーペットはみどりいろで、カーテンは青。かべにはお袋が町内会でもらってきた和風っぽいカレンダーがられているくらいで、ポスターなんかはいっさいない。

 そのほかにはミニコンポがあるくらいで、パソコンやらテレビやらゲームやらはない。

 どうだ、無個性だろう? なるべく『普通』に生きるというのが、俺の主義で、しようにも合っている。

 ちなみにエロ本を隠すのはもう半分あきらめているので、ダンボールに入れてベッドの下に収納してある。でもってお袋には『ベッドの下は掃除しないでください(↑五体投地)』と、おねがいしておいた。……お袋様がその不可侵条約をきちんと守ってくださる保証はないし、毎日コレクションの更新状況をかくにんされていたとしても、おれには知るすべがないわけだが……

 そこはあえて考えない! を守るために!

 なるべくなんなチョイスをして、もしも見られたとしても家族かいにならないようぼうせんを張っておくくらいが、せいぜい俺が講じることのできる最大のぼうぎよさくである。

 ……つーか、マジな話、自分のがないやつは、どこに隠しているんだろうな?

 俺には開き直って堂々とフルオープンにしておくくらいしか、有効な策が思いつかないんだが。自分の部屋にかぎがかからない程度で悩んでいる俺は、わりとぜいたくものなのかもしれん。

 そんなふうに、深遠な思考を巡らせていたのは現実時間にして数秒。

 俺はベッドに腰掛け、足を組む。DVDケースを片手で持ち、「ふむ」とあごに手をやる。

「見れば見るほど、にはそぐわんパッケージだな……」

 けいこうとうの光を浴びて、星くず☆うぃっちの笑顔えがおがキラキラきらめく。これほどまでにゴツいかい兵器を構えて笑顔を浮かべているのが、考えようによっては恐ろしい。

「ふーむ」

 んでさ……コレ、だれの?

 俺は我がこうさかに住まう人々の顔を、順番に頭に思い描く。……が、やはり、『星くず☆うぃっちメルル』とやらの所有者にふさわしい人物は一人ひとりもいなかった。

 当然、我が家のリビングで、このアニメが放映されていた覚えもない。

(このとき俺は、パソコンでDVDがちようできることを知らなかった)

 つーと……どうなるんだ? これは? どうしてコレは、あそこにあったんだ?

 俺がさくを継続しつつ、パカっとケースを開いたときだ。

「ブフッ……!?」

 さらなるしようげきが俺をおそった。このアニメ絵パッケージを見たときより、ずっと強烈なやつだ。

 けつろんから言えば、DVDケースの中には『星くず☆うぃっちメルル』のDVDは入っていなかった。代わりに違うDVDらしきものが収まっていた。

 ……よくあることだ。ミニコンポでCDを聞いたあとなんか、俺も一つ一つ『正しいケース』に収めるのがめんどうで、シャッフルしちまうことがあるからな。

 で、後でどのCDをどのケースに入れたのか分からなくなって、混乱したりする。

 たぶんコレの持ち主も、そんなふうにおうちやくして『星くず☆うぃっちメルル』のDVDケースの中に、違うDVDだかなんだかを入れてしまったのだろう。

 ああ、ああ、分かるぜ。よくある話さ。

 だが──だが……な……?

 入っているDVDのタイトルがどうして『妹と恋しよっ♪』なんだ? よりにもよって『誰』に『何』をそそのかしてんだよおまえ。

 しかもなんだこの『R18』という、あってはならないわくの表記は。

「…………落ち着け……!?」

 おれひたいに冷や汗をびっしりかいて、呼吸を乱した。

 やばかったっ。マジでやばかったっ。何がやばかったかって、さっきお袋とそうぐうしたシーン。

 コレ、中身見付かってたら自殺もんだろ、俺。まさかホントに俺をおとしいれるわなだったのか?

 この手のものはよく分からんが、本能がぎんぎんにけいてきを鳴らしている。なんだこのタイトルから発されているドス黒いオーラは……! 仮に表記がなくともタイトルだけで分かるよ! どう考えてもコレ、俺がもっとも持っていてはならないしろものだろうが……!

きようすけ──ちゃんと勉強やってるー?」

「ヒィィィィィィィィィィイィッ!?」

 俺はだんまつの絶叫を上げながらとんをひっかぶった。

 チラリと扉の方をうかがうと、ノックもなしに扉を開け放ったお袋は、息子むすこの狂態にぜんとしていた。

「……ごめん、なんか、いけないタイミングだった……?」

「気にするなお袋。ちょっとした発声練習だ。──つうかノックしてくれ、頼むから」

「うんごめん。次からはそうするから」

 明らかに作り笑いと分かる表情で言って、扉を閉めるお袋。

 いかん……ブツを隠し切れたのはいいが、絶対妙な誤解をされただろ……くそう。

 ……なんか今日きようさんざんだな、俺。……それというのもぜんぶ、こいつのせいだ。

 布団をひっ被ったまま、なぞのDVDケースを見つめる。

「ちくしょう……」

 こうなったら、意地でもコイツの持ち主を見つけ出してやらねば気が済まん。

 俺は八つ当たり気味の決意をやすのであった。

 ……しかし、余計に分からなくなってきやがったな。

 この妙ちきりんなDVDの持ち主のことが、だ。『星くず☆うぃっちメルル』とやらのDVDケースの中に、『妹と恋しよっ♪』と題されたあやしさ抜群のブツが入っていた事実。

 俺の予想が当たっているのだとすれば、コレの持ち主は、『星くず☆うぃっちメルル』と『妹と恋しよっ♪』の両方を所有しているということになるよな。

 そしてくつばこの裏なんて場所に落ちていたことをかんがみるに、所有者は、我が家に住んでいる俺・妹・お袋・おや──以上四人の中にいる可能性が高いわけだ……。

 もちろん家族以外の人間が、この家にまったく出入りしていないわけじゃないから、『部外者説』を完全に否定するわけにもいかない。

 だがなあ……だれがわざわざ俺んに『妹と恋しよっ♪』IN『星くず☆うぃっちメルル』を持ち込んで、靴箱の裏に落としていくっていうんだ? 状況がまったく想像できねえよ。

「むう……」

 とにかくだ。『部外者犯人説』は現状、考えるだけな気がするので、ひとまず容疑者は家族内に絞って考えてみることにする。

 おれ・妹・お袋・おや……この中に『犯人』がいるとして。きやつかんてきに考えて、一番アヤシイのは、だれだ……? 『星くず☆うぃっちメルル』。そして『妹と恋しよっ♪(18禁)』といったアイテムを、家族の中で一番持っていそうなやつは……?

「俺だから困る」

 いやいや、いや。もちろん俺じゃあないぜ。いまのはあくまで、家族の中で一番そういうのを持ってそうなヤツは誰か、という意味だ。自分で言っててかなしくなってきたけども。

 とにかくアレは俺のじゃない。だってアニメとかきようねえし。そういう話をしているやつらはクラスにもいるが、俺とはあまり接点がない。

 しかしそりゃ、家族の誰にしたって同じなんだよな……。

 分かり切ったけつろんに、俺は頭を抱えて悩んでしまった。

 だって。まずお袋はないだろ? そんで親父は心底メカおんだから、DVDプレイヤーが使えるとは思えないし、あの堅物のごくどうヅラが、アニメて喜んでいる光景なんざ考えたくもねえ。でもって妹は──一番最初に除外すべき人物だ。五年くらい前ならアニメとか観ていた気がするけど、最近は流行のドラマやら音楽番組くらいしか観てないんじゃねえかな。

 子供向けのアニメDVDなんざきりしゆとはかけはなれている。

 いくらなんでもアイツが『星くず☆うぃっちメルル』を、DVD買ってまで観ている光景なんてまったく想像できない。『妹と恋しよっ♪』に至っては、口に出すのもおぞましいといったところだろう。だって桐乃だぜ? イマドキの女子中学生。今日きようだって、合コンにでもでかけたに違いないってのに──。

「はぁ……参った。さっぱり分からん」

 俺の推理は、完全にあんしように乗り上げてしまった。やっぱり家族の中にゃ犯人はいないのかとも思うが、疑うはんを部外者にまで拡大しちまうと、今度は容疑者が多すぎてらちが明かない。

 だめだこりゃ。とりあえず俺にたんていの才能はねえようだ。

 さーて、どうするよ俺。もう……めんどうくせえし、やめておくか?

 いや……やっぱ、どうしても気になる。ぜってー犯人を見付けてやる。

 自分でもなんだが、このとき俺は珍しくせつきよくてきになっていた。普段ふだんの俺なら、ここで追及を打ち切って、夕飯まで昼寝でもしていただろう。そして、もしもそうしていたなら、これまでと同じへいおんな生活が、これからも続いていたに違いない。

 だが、そうはならなかった。俺が俺の意思で、この件について追及をやめないと決めたからだ。むろんこの時点では知るよしもなかったが、良くも悪くも俺は、このとき自分で自分の運命をかくていさせてしまったのだろう。

 この件で、おれは、超特大のらいを踏み付けることになる──。


 の夕食は午後七時ジャスト。おやが帰宅するのが、いつもこのくらいの時間だからだ。このときに食卓についていないと、もんどうようで飯抜きにされる。

 現在六時四十五分。頭をぼりぼりかきながらを出た俺は、階段を下りていく。が、途中で足を止める。眼下、玄関のあたりにきりの姿を発見したからだ。

 ……ああ、帰ってきてたのか。

 そういえば桐乃の門限は六時半だったか。その時刻が早いか遅いかはさておき、守ってはいるらしい。まあ見た目は高校生っぽくても、一応中学生だしな。

 ちなみに今日きようの桐乃は、白黒ストライプのTシャツに、黒い短パンとスカートを混ぜたようなしろもの穿いている。よく知らないが、セシ──なんとかというブランドのものらしい。こいつがファッションモデルだと言われたら、だれもが信じるだろう。

 ……かわいいじゃねえか。

 だがこの妹様には、あまりせつきよくてきに近付きたくない。

 あっちは俺のことが嫌いみたいだし、それならお互いそばに寄らないようにすればいいだけの話である。ぐだぐだ言っても兄妹やめられるわけじゃなし。

 それなりに折り合いつけてやってかないとな。

 ──とまあそういうわけで、桐乃が食卓に向かうのを階段途中で待っている俺。

「……ん?」

 しかしどうもようがおかしい。扉を開ければすぐリビングだってのに、桐乃はそっちにはいかず、玄関付近でぼーっと突っ立っている。

 ……なにやってんだ、あいつ?

 その場でジッとしているのもバカらしいので、俺は階段を下りていった。

 リビングへの扉の前に立ち、ノブに手をかける。

「…………」

 俺は、ふと首だけで振り返った。

「……なぁ。なにやってんの?」

「…………は?」

 すげえ目でにらまれた。

 ……くそ。こうなることが分かってて、どうして俺はこいつに話しかけるかな……。

 バカじゃねえの? 

「チッ、なんでもねえよ」

 舌打ちをして、俺はノブを強く回した。


 食卓に、夕食のカレーとしるが並んでいる。家族がそろって食事をるこのは、リビング・ダイニング・キッチンが一体型になっているため、仕切りがなくて広々としている。

 おれと妹が並んでに腰掛け、対面にはおやとお袋が座っている。

 テレビではニュースキャスターが、海外へのしゆつがどうのこうのと、最近注目されている時事を読み上げている。

 しゆくしゆくと味噌汁をすすっている親父。がりにはいつも着流し姿でいるので、圧迫感のある雰囲気も相まってごくどうのようにも見える。実はまったく逆で、けいさつに務めているのだが。

 一方そのとなりでは、お袋が、ぽりぽりふくじんづけんでいる。こちらはもう、見るからに専業主婦のおばさんという印象。きりとはまったく似ていない。

 妹は超無言。こいつは基本的に、家族にはあいそうなやつである。無言でメシを食っている姿を見ると、桐乃は間違いなく親父似だと思う。主にするどい眼光とかがな。

 ちなみに俺は、お袋と雰囲気がそっくりだとよく言われる。

 そんなの食卓は、ごく普通の一般家庭という感じで、たいへんよろしい。

 俺はもくもくとカレーを食いながら『作戦』を発動するかいを探っていた。

 もちろん例のDVDの持ち主を特定してやるための作戦である。

 ……といっても、そんなにたいそうなものじゃない。実にひねりのない、シンプルなものだ。

 ようするに、あのまま推理を続けてもらちが明かないので、容疑者の揃っている場で、をかけてみようと思ったのだ。そして、うってつけの場が目の前にある。

 ずず、とアサリの味噌汁を飲み干してから、俺はだれにともなく問うた。

「俺、メシったらコンビニいくけど。なんかいつしよに買ってくるものある?」

「あら、じゃあハーゲンダッツの新しいの買ってきてちょうだい。季節限定のやつね」

「ほいよ」

 なんでもないお袋との会話を挟んでから、俺はしれっと切り出す。

「そういやさ。俺の友達が、最近女の子向けのアニメにはまってるらしいんだけど。えーと、たしか、ほしくずなんとかっつーやつ」

「なぁに、突然?」

 俺のゆさぶりに、最初に反応してきたのも、お袋だった。まさか……。

「イヤ別に、おもしろいってすすめられたからさ。一回くらいてやってもいいかなって」

「やぁだー、そういうのって確かオタクっていうんでしょ? ほら、テレビとかでやってる……あんたはそういうふうになっちゃだめよー? ねぇおとうさん」

 お袋に話を振られた親父は、ほとんど表情を変えずにたんたんと答える。

「ああ。わざわざ自分からあくえいきようを受けに行くこともあるまい」

 ふぅん、やっぱそういうにんしきか。よく知らないもんを悪くいうもんじゃないけど、正直あんまりいい印象はねえよな、普通。俺なんかは、別に人がどんなしゆしてようといいじゃねえかって思うけど。だってカンケーねえし。

 とはいえ、ここで両親にはんろんしてもめんどうくせえだけなので、適当に「へーい」と言っておいた。こりゃ、お袋は完全にシロだな。言動によどみがねえもん。

 本音全開でしやべってるってことだ。んで、おやは最初から除外。使い方を知らないクセにDVDを持ってるわけがない。

 とすると……消去法で……残っているのは……?

 おれは、そっととなりに座っているきりを横目で見た。

「………………」

 桐乃はきつく唇をみしめていた。全身に固く力を込めているのか、手に持ったはしの先が、小刻みにふるえている。……ええ? お、おいおい……?

「……桐乃?」

 妹の異常に気付いたお袋が軽く呼びかけると、

「……ごちそうさまっ」

 ばん、といらたしげに立ち上がった桐乃は、スタスタと早足でを出て行く。

 バタンと強く扉を閉める。だんだんだんだんだん、と階段を駆け上がる音。

 残された俺たちはぜんとする。

「……どうしたのかしら……あの子?」

「さ、さぁ……な」

 きょとんとするお袋に、俺は適当に答えた。正直、俺にもよく分からなかったからだ。

 ……なにキレてんだ? あいつ……。いまのやり取りのどこに、桐乃が怒らなきゃならないポイントがあったってんだよ。もしもあいつが『犯人』で、俺のゆさぶりに気付いていたとしたなら、なおさらおかしい。

 普段ふだんのあいつだったなら、あんなにあからさまに動揺して、俺にシッポをつかませたりはしないはずだ。どうしたってんだ? ぜんぜん分からねえよ、桐乃。

「……はぁ……」

 だが……桐乃のあの態度は普通じゃない。……俺のゆさぶりに反応した……とも考えられる。

 もちろんこんなもんで犯人を特定できるとは思わないし、まだまだ家族の中ではあやしいというレベルではあるが……

 玄関で俺が拾った『星くず☆うぃっちメルル』とやらの持ち主は……

 妹……なの……か?

かあさん、あとで桐乃を呼んできなさい」

 親父の渋い声が、ずしりと食卓にひびいた。あーあ、怒られるぞ、あいつ。しーらね。


 DVDの持ち主は桐乃。そう仮定してみると……たしかにいろいろなことにつじつまが合う。

 落としたのは夕方、おれとぶつかったときだろう。あのときバッグに入っていた例のブツが、散らばった拍子にくつばこかべすきに入っちまった。

 で、きりは出かけた先でバッグを開き、ブツが入っていないことに気が付いた。

 それで夕飯の直前、玄関で探しものをしていたわけだ……。

 補足しておくと、ケースの中身を入れ間違えたという俺の想像が正しいのなら、桐乃が持っていくはずだったのは『妹と恋しよっ♪』ではなく『星くず☆うぃっちメルル』の方だろう。

 ………いやまあ、アレを持っていかなきゃならん用事というのが何なのか、すでに俺の想像のらちがいではある。合コンだとばかり思っていたんだが、合コンにアニメDVD持ってく女子中学生はいないだろうよ。友達に会いにいったのは間違いないと思うんだがな。

「…………うーむ」

 まったく分からん。そもそもいまだに『桐乃と子供向けアニメ』という組み合わせが信じられない。なんかの間違いじゃないのか? だって桐乃だぜ? ……有り得ないだろ。

『桐乃犯人説』を立ち上げてみたはいいが、このときの俺の心情としては、半信半疑以下。

 ……まあ、とりあえず、ちょっと引っかけてみっかな。

「ごっそさん」

 メシを食い終わった俺は、食卓をあとにした。いつたん自分のに戻り、さいを持ち出す。

 妹の部屋の前で、わざとらしく言う。

「さぁて。コンビニいくか」

 ……俺に役者の才能はねえな。まあいい。どうせくいくとも思っちゃいない。こんなのはあくまで引っかかったら逆にびっくりのきようみてえなもんだ。

 だんだんだんだんと、あえて音を出しながら階段を下りる。バタンと勢いよく扉を閉める。

 家を出て、ひとまずコンビニへのみちのりを歩いていく。角を曲がったところでコンビニへは向かわず、違う道を通って家の裏手へと回り込む。

 何をするつもりかって? いや、『犯人』の立場で考えてみたのさ。もしも桐乃が犯人だとしたら、たぶんヤツはもう、俺が例のブツを拾ったことに気が付いている。

 で、だ。俺が桐乃の立場だったら、どうするか。

 一番望ましいのは、なんとか俺に気付かれないようブツを回収して、あとは知らん顔している──これしかない。

 さっきの桐乃は、明らかにようがおかしかった。冷静さを失っていた。だとすると──俺が外出したスキに、我慢できなくなってブツを捜し始めるかもしれない。んでまあ、引っかかる可能性は低いが、かんたんわなを張ってみたわけだ。

「いや、さすがにねえだろ……まさか……な?」

 つぶやきながら、俺は裏手の勝手口からに入り、足音を忍ばせて階段を上っていく。

 そして、勢いよく自室の扉を開け放った。

 ギィッ!

「……………………………………おい…………何やってんだ?」

「……っ……!?」

 ええええええ!? う、うそだろ? マジでいやがったよ……こいつ。

 ど、どんだけテンパってんだ、おまえ?

 の中心でつんいになっていたきりは、ビクッと青ざめた顔で振り向いた。

 おびえたような顔。けれども相変わらずのゴミを見るようなせんが、おれの胸にぐさぐさ刺さる。

「……何やってんだ? って聞いたんだが?」

「………………なんだって、いいでしょ」

 こちらにケツを向けたまま、みつくようにつぶやく桐乃。きんちようのせいか、息が荒い。

「……よくねえだろ? 人の部屋に勝手に入って、さがしして……おまえが同じことされたら、どう思うよ?」

 しかもおまえが手を突っ込んでいたのは、よりにもよって俺のエロ本の隠し場所じゃねえか。

 口には出せぬ怒りも相まって、俺は冷然と言ってやった。

「………………」

 桐乃は無言で視線をそらす。怒りのためか、顔がこうちようし始めている。それから、ゆっくりと無言で立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。

「どいて」

「やだね。俺の質問に答えろよ。──ここで何やってたんだ?」

「どいて!」

「……分かってんだよ。おまえが探してるのはコレだろう?」

 きんきよでメンチ切ってきた妹に、内心非常にビビリつつ、俺はおもむろに、腹に隠していた『星くず☆うぃっちメルル』のDVDケースを取り出して見せる。桐乃の反応はげきてきだった。

「それ……!?」

「おっと」

 ものすごけんまくで手を伸ばしてきたが、俺はそれをぎわよくかい

 ハッタリの余裕をがんめんり付け、とんとんケースの背でてのひらたたく。

「ふーん。やっぱコレ、おまえのだったんだな?」

「……そんなわけないでしょ」

 これ以上ないくらいげんな声。おいおい、台詞せりふと行動が一致してねえぞ?

「違うのか? これ、夕方玄関で拾ったんだが。俺とぶつかったときに、おまえが落としたんじゃねえの?」

「絶対違う。……あたしのじゃない。そ、……そんな……子供っぽいアニメなんか……あたしが見るわけない……でしょ」

 断じて認めるつもりがないらしい。らちが明かねえな、これ。

「コレを探してたんじゃないなら、じゃあおまえ、おれで何やってたんだよ?」

「……それは……それは!」

「それは? なんだよ?」

 俺がうながすと、きりは再びだんまりを決め込む。

「………………………………」

 ぶるぶる肩を悔しそうにふるわせて、唇をみしめ、うつむいてしまう。

 俺の追及に、桐乃が強いくつじよくを感じているのは明らかだった。

 そりゃまあ、例えば俺にしてみりゃ、大嫌いな相手に『なぁおい、このエロ本、おまえのなんだろ? ヒヒッ』とか言われてるようなもんだからな。そりゃメチャクチャ悔しいし、死にたくなるほど恥ずかしいだろうよ。

「……………っ……………」

 親のかたきを見るひとみで、桐乃は無言の敵意をビシバシぶつけてくる。

 ……ちくしょう。なんで妹に、憎しみの込められた目でにらみ付けられなくちゃならんのだ。

 クソ……だんだんバカらしくなってきたぞ……。俺はこんなやつのことなんざ、どうでもいいってのに。なんでこんな気まずいしなくちゃなんねえわけ?

 やめだやめだ! やってられるか!

「ほらよ」

 俺は投げやりに、DVDケースを妹の胸に押しつけた。桐乃は、ひとみぞうを宿したままで俺を見上げてきた。

「大事なもんなんだろ? 返すから、ちゃんと受け取れ」

「だ、だから、あたしのじゃ……」

「じゃあ代わりに捨てといてくれ」

「は?」

 何を言われたのか分からない──そんな顔で俺を見上げる桐乃。

 なんだそのツラ? 俺は別に、妹いじめて楽しもうと思ってたわけじゃねえんだよ。このDVDがだれのなのか気になってただけで、そりゃもう分かったんだ。これ以上おまえとぐだぐだやってられるか。──そんな内心はおくびにも出さず、俺は空気を読んだ台詞せりふを言う。

「悪かったな、俺のかんちがいだった。コレがおまえのもんじゃないってのは、よく分かったよ。だれのなんだかしらないが、俺が持っててもしょうがねえ。あやまりついでに頼むわ。コレ、おまえが捨てといてくれねえかな、俺の代わりに」

 そこまで妥協してやって、ようやく桐乃は、

「………………ん……べ、別に……いいけどさ」

 と、ブツを受け取ってくれた。俺がわきにどいて、部屋の出入口を開けてやると、桐乃は俺と入れ替わりでを出て行く。おれはそのまま部屋の奥へと進む。

「ふぅ……」

 ったく、ありえねえ! 妹とこんなに口利いたの、何年ぶりだよ? 俺。

 超疲れたァ──俺はベッドにどさりと座り込んで、天をあおぐ。

 ところがそこで、とっくに行っちまったと思っていた妹から、声がかかった。

「……ね、ねえ?」

「あ?」

 まだいたのかコイツ。めんどうくせえな、さっさと行っちまえよ。

 俺がせんを向けると、妹は、チラチラうかがうような感じでこちらを見ていた。普段ふだんのこいつなら絶対に見せないしゆしような表情だ。……な、なんだ……? ……どうしたってんだ?

 俺は妙にむなさわぎを覚えながら、「なんだよ?」と言葉をうながす。

「………………やっぱ。……おかしいと、思う?」

「なにが?」

「だから……その、あくまで例えばの話。……こ、こういうの。あたしが持ってたら……おかしいかって聞いてんのっ……」

 …………ちっ。

「別に? おかしくないんじゃねえ?」

 心の中で舌打ちして、そうこたえた。さっさとこいつを追い払いたかったし、そう応えないと、またキレそうだったからだ。……ったく、なんでまだけんごしなんだよ。……俺はおまえのきようをおもんぱかって、ことを荒立てないようブツを返してやったんじゃねえか。そもそもおまえがドジ踏んだのが原因だろ……俺にかんしやこそすれ、さかうらみするってのはどうなんだよ。

「……そう、思う? ………………ほんとに?」

「ああ。おまえがどんなしゆ持ってようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ」

 だって俺、カンケーねえし。

「ほんとにほんと?」

「しつけえな、本当だって。信じろよ」

 内心超投げやりに言った台詞せりふだったのだが、どうやらきりは俺の言葉に満足したらしい。

「…………そっか。……ふぅん」

 何度かうなずきをり返し──しようだいに『星くず☆うぃっちメルル』を抱きかかえ、その場から走り去っていった。その光景が、だか俺にきようしゆうを抱かせる。ずっと昔、こんなことがあったような気もする。……もう忘れたけどな。

「……扉くらい閉めていけっての」

 そうぼやいて、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 

 で──それから二日間は、何事もなくすぎた。おれきりはいつもどおり、会話もなく、目も合わさず、他人のきよかんを保ったまますごしていた。妹の意外な一面をかいた俺だったが、別段何をしようとも思わなかったし、さっさと忘れちまおうと割り切っていた。

 そりゃ、なんでまた、あの妹があんなもんを……? というきよういていたけどな。

 だからといって、他人の秘密をほじくり返そうとは思わんさ。めんどうくせえもの。

 だが……

 そんなある日の深夜。

 安らかに眠っていた俺は、バチンとほおに強い痛みを感じた。

「っだ!?」

 最悪の目覚め。どうやら頰を張り飛ばされたらしい。

 な、なんだ!? 強盗か!? ぎようてんした俺は、あわてて目を開ける。

「っ」

 まぶしい。の電気はつけられているようだ。腹に重みを感じるが、手足をこうそくされているようなことはない。強盗にしては中途半端な……って、おい!

「お、おまえっ」

 しゆうげきしやの姿を認めた俺は、目を見張ってしまう。いきなり夜襲をかけられたもんだから、しんぞうがばっくんばっくんいってやがる。

「…………静かにして」

 なんと襲撃者の正体は、パジャマ姿の桐乃だった。ベッドで上体を起こした俺に、おおかぶさるような体勢でつんいになっている。化粧をおとした妹の顔が、すぐ間近にある。

「……っこの、おまえな……!? なんのつもり……」

「…………静かにしろって言ってるでしょ……いま何時だと思ってんの?」

 俺がなんの声を上げると、桐乃は小声でどうかつしてきた。

 いま何時だと思ってるってのは、この場合、俺の台詞せりふだと思うんだがな。

 ……つーか、俺はいま……深夜、自室のベッドの上で、妹に覆い被さられて、きんきよで見つめ合っているわけだが……。このシチュエーションは……いったい? このシーンだけ切り取ってみりゃラブコメちっくだが、俺の心臓は違う意味で張り裂けそうだ。

「と……とりあえず、ベッドから下りろ……」

 呼吸をととのえながら言ってやると、桐乃は明らかにムッとした表情で、俺の言葉に従った。

 これがほかの女なら、俺だって(おどろく以外の理由で)動揺しただろうが、妹に乗っかられても重いだけである。どんなに見てくれがよかろうと、こいつは異性のうちに入らない。

 妹を持つ兄なら、みんなそう言うはずだ。

「はぁ」

 俺はこめかみを指で押さえ、ため息をついてから聞いた。

「で? どういうつもりだ?」

「…………話があるから、ちょっと来て」

 なんでおまえがキレ気味なんだよ……。いきなりほおを張り飛ばされたこっちの方が、よっぽどムカついてるっての。それでもちゃんと相手をしてやるおれは、ホント人間ができているよな。

「話だぁ? こんな時間にか?」

「そう」

「すげー、眠いんだけどな、俺。……明日あしたじゃか?」

 あからさまにいやそうに言ったのだが、きりは首をたてに振らなかった。

 むしろ『バカじゃん?』みたいな顔で返事をした。

「明日じゃダメ。いまじゃないと」

「どうして?」

「……どうしても」

 はいはい。理由は言わない。主張も曲げない。どんだけわがままなんだよ、この女。

 こんなもうげんはうっちゃって眠りたいのが本音だったが……あいにく目がえてしまったので仕方ない。めんどうくさいが返事をしてやる。

「……どこへ来いって?」

「……あたしの

 親のかたきでも見るような目で言って、きりおれそでを引っ張った。

 やれやれとかぶりを振って、俺は抵抗をあきらめる。

「行けばいいんだろ……行けば」

 なんだってんだよ、本当。


 妹のは、俺の部屋のすぐとなりにある。一昨年おととしの春、桐乃が中学に上がったので、おやがあてがってやった部屋だ。ろくに使っていなかったボロ和室を、わざわざ洋室にリフォームした部屋で、俺自身は一度も入ったことがない。

 今後もないだろうとばかり思っていたのだが……よりにもよって深夜に招かれることになろうとは。までの俺なら、絶対に信じられないだろうな。なにせ、いまだって何かのじようだんじゃないかと疑っているくらいなんだから。

「……いいよ、入っても」

「……おう」

 せんどうしていた桐乃にうながされ、俺は妹の部屋へと、初めて足を踏み入れた。特にかんがいはないが。

 妙に甘ったるいにおいがする。

 ……ふーん。俺の部屋より広いじゃねえか。

 八畳くらいある。ベッドにクローゼット、勉強机、本棚、姿見、CDラック……などなど

 内装自体は俺の部屋と、それほど代わり映えしない。全体的に赤っぽいカラーリングだ。

 違うところといえば、パソコンデスクがあるくらいか。

 個性にはとぼしいが、わりと今風で、俺が抱いている桐乃のイメージと一致する部屋だった。

「……なにジロジロ見てんの?」

「別に見てねえよ」

 信じらんねえ。自分で連れてきたくせに、この言い草。

 桐乃はベッドにちょこんと腰掛け、地べたを指差す。

「座って」

 いたって自然に言うけどな。妹よ、それはぎようと罪人の立ち位置だぞ?

「……おい、せめてとんをよこせよ」

「………………」

 桐乃はすごくいやそうにまゆをひそめ、猫の座布団を投げてよこす。

 俺はありがたく猫のがんめんしりいて、あぐらをかいた。

 ……ほんっとこいつ、自分の持ち物に俺が触れるのが気に入らんらしいな。きんがつくとでも思ってんのかね? このとしごろの女ってのは、みんなそうなのか? あー、やだやだ。

「で?」

 俺はぞうにあごをしゃくった。桐乃はムスっとしたまま、落ち着きなくせんをさまよわせている。やがて、すぅはぁと深呼吸をしてから、こうつぶやいた。

「…………があるの」

「なに?」

 声が小せえよ。聞こえねえっての。おれが問い返すと、きりの目付きがきびしくなった。

「……だ、だから、そうだん

 ずいぶん妙な台詞せりふが聞こえたな? 聞き間違いかと思い、俺はもう一度問い返す。

「なんだって?」

「……人生相談が、あるの」

「……………………」

 俺は、かなり長い間、ぼうぜんちんもくしてしまった。落ち着きなくまばたきを連射しながらだ。

 だっておまえ……ねえ? よりにもよってこの妹が、ゴミ虫みてーに嫌ってる俺に向かって、なんつったと思う? 人生相談があるの、だぜ? どう考えても夢だろ。町にゴジラが攻めてきたっつわれても、こんなにおどろかねえよ。

 俺はカラカラに渇いたのどで、なんとか声を発した。

「人生……相談って……おまえが……俺にか?」

「うん」

 桐乃ははっきりとうなずいた。おいおい、マジかよ……。

「……この前、言ったじゃん?」

「なにが?」

「あ、あたしが、その、……ああいうの持ってても、おかしくないって、さ」

 歯切れが悪い。落ち込んでいるようなしやべかただ。

「ああいうのって…………もしかして、俺が捨てといてくれって頼んだアレのことか?」

「……うん」

 何でここでその話が出てくるんだ? 

 俺はいぶかりつつ「ああ、言ったな」と答えた。

「それがどうした?」

「あの……ほんとに……バカにしない?」

 本当に、こいつに話しても大丈夫かな──そう言いたそう。

 このにおよんで疑惑のせんを向けてくる桐乃に、俺はこう言った。

「何度も同じこと言わせんな。絶対バカにしたりしねえって言ったろ」

 だからおまえのしゆなんざ、心底どうでもいいんだっての。そんなことをわざわざもう一度聞くために、俺をここに呼びやがったのか、こいつ?

「ぜ、ぜったい? ほんとに、ほんと?」

「絶対の絶対。本当に本当に本当だ」

「ウソだったら……許さないからね」

「おお、好きにしろよ」

 フ──いい加減にしてくれねえかな、なんだってんだ……。

 おれがげんなりと脱力していると、きりは意を決したように立ち上がり、本棚の前まで歩いていった。

 ……あん? 何をするつもりだ?

 とうわくしている俺の前で、桐乃は二つある本棚のうち、片方を手前に引っ張った。ずいぶん軽々と動くもんだと思ったが、よく見りゃ中身はすでに取り出して、ベッドの上にんである。

 かべの一面をせんゆうしていた本棚が片方なくなり、大きなスペースがく。

「お、おい……おまえ……何やってんだ?」

 桐乃は俺の質問には答えず、残った本棚(こちらは半分くらい本が収納されている)の側面に肩をあて、ぐっ、ぐっ、とからスペースに向かって押し込み始めた。

 ズ、ズ……と、分厚い本棚が少しずつズレていく。そうして現われたのは、洋室にはそぐわないふすまだった。隠し収納スペース。

「うお……」

 桐乃は「ふぅ」と一息ついて、言う。

「……あたしが中学入って、自分のをもらえることになったとき……この部屋を洋室にリフォームしたじゃん? よく分かんないケド、そんときの名残なごりだと……思う。本棚で隠れてたから、あたしも去年の大掃除んとき、初めて気付いたんだけどさ」

「へえ……」

 おやあたりが金をケチったのかね? まぁ本棚で隠しておきゃ見えないしな。

「で……人生そうだんってのは、もしかしてその『中身』のことか?」

 桐乃はうなずいた。が、襖に手をかけたまま、いつこうに開けようとしない。

「…………」

 むずかしそうな顔でちゆうちよしながら、俺をじっと見つめてくる。

 とくれば、これまでの話の流れで、察しのよくない俺にも、襖の奥に何が入ってるのか想像がつくってもんだ。こいつが躊躇している理由もな。

 ──人生相談ねえ。……どうして俺なんだろうな?

 たしかに俺はこの間、こいつがどんなしゆを持ってようとバカにしないとは言ったが……

「ふむ……」

 自分が桐乃の立場だったらと想像してみる。

 えーと……人生相談ってのは大きくわけて二種類あるよな?

 いっこはまぁ、一番よくあるケースで、『事情に通じてて頼れる人間』相手に相談する場合。

 この場合は当然『自分が抱えている悩みとか問題が、どうやったら解決するのか』いつしよに考えて欲しくてそうだんするわけだな。

 んで、もういっこは、『事情を知らない第三者』相手に相談する場合。

 こっちの場合は、有効なアドバイスなんざハナっから期待してなくて、とにかく『話を聞いて欲しい』から相談するわけだ。

 でもって、きりにとっておれは『事情に通じてて頼れる人間』じゃあない。断じて、ない。

 ……だとすっと?

 桐乃の悩みが俺の想像どおりなら、そもそも他人に相談すること自体がむずかしいよな。

 自分のイメージを崩すのがこわいから。相談相手をえり好みできる立場じゃねーわけだ。

 いま、桐乃が開けっぴろげに相談できる相手は、たった一人ひとりしかいない。

『すでに相談内容を知っていて』、『相談した結果、どう思われようが構わない、どうでもいいやつ』──つまり俺。

 へーえ。そういうことかよ……。妹が抱える大体の事情を察した俺は、さっさとうざったい用事をすませてすいみんの続きに戻るべく、こう言った。

「心配すんな。そこから何がでてこようと、俺は絶対バカにしねえし、秘密にしろってんなら、絶対だれにも言わねえ……だから、な?」

 俺の打算に満ちたやさしい台詞せりふを聞き終えた桐乃は、再びこくんとうなずき、

「……約束だからね」

 と念を押すようにつぶやいてから、禁断の扉を開けた。

 がら……

 ぼとっ。

「……ん? なんか……落ちた……ぞ?」

 俺はつまびらかになったふすまの中身を見る前に、転がり落ちたブツを何気なく拾う。

 それはまたしてもDVDケースで──

 タイトルは『妹と恋しよっ♪ ~妹めいかぁEX Vol.4~』だった。

「げふんげふんげふんげふん……!?」

 盛大にむせた。

 ほ、本体登場──!? 考えてみりゃアニメだけじゃなくて、アレの持ち主もこいつだった!

 ぎもを抜かれる俺。何にって、半裸の女の子が身体からだを抱いて恥じらっているという、想像以上にいかがわしいパッケージイラストにだ!? しかもシリーズものなのかよ!?

「な……なんだ……コレは……」

「あ。それは最初プレステ2から出たんだけど、パソコンに移植されてから別シリーズ化したやつね。名作ではあるけど、ちょっと古いし内容もハードだから、初心者にはおすすめしない」

 んなこた聞いてねえよ!? 大体なんだ初心者って? おまえはプロか? プロなのか?

 チクショウ突っ込みどころが多すぎて、俺のスキルではカバーしきれねえ!

 い……いったい何が始まろうとしているんだ?

 お、おれはどんな異常空間に足を踏み入れてしまったんだ? だれか教えてくれ!?

『妹と恋しよっ♪』というファーストインパクトで脳をやられてしまった俺は、スデにグロッキーだった。だがこんなモノは、きりにとってほんのジャブでしかなかった。

「くっ……」

 あぶらあせをだらだらかいて、顔を上げ、開け放たれた禁断のしんえんのぞき込む。

 ふすまの内側は、一見ごく普通の押し入れだ。上段下段に分かれていて、うすぐらい。

 だが、そこにまれているモノどもは、さらにのうこうなグッズの数々。

 まず目につくのは、上段にうずたかく積まれた大量の箱。

「……その……箱は……?」

「これ? これは、パソコンゲームの箱」

 桐乃はちょっと得意げな調ちようで答え「よいしょ」と、箱の一部を俺の前に置いた。

 そのほとんどは『妹めいかぁEX』シリーズで、タイトルの例を挙げると『ちようまい』『妹たちとあそぼ♡』『天元突破十二姉妹』『最終兵器妹』……とまあそんな具合。

 いろいろ言いたいことはあるが、ここで台詞せりふを間違えるとになりかねん。ひとまず俺は、なんな質問を投げる。

「なんで……こんなに箱がでかい?」

「……それは、あたしにも分からない。でも、こういうものなの」

 世界のなぞを、おごそかに口にする桐乃。分からん……分からん……俺には何もかもが分からねえ。

 ゴクリ……いまにも口をついて出てきそうなをギリギリのところで飲み込みつつ、俺はせんを収納スペースの下段へと向けた。

 そこにはやはりドでかい箱が、でん、でん、でん、でん、と並んでいる。

 パソコンゲームの箱よりもさらにでかく、規格が統一されていない。それぞれ女の子のイラストが描かれていたり、メタリックにかがやいていたりとまちまちだ。

「こっちの……コレらは……な、なんなんだ?」

「アニメのDVDボックス。ここにあるのはぜんぶ特製ボックス仕様」

「DVDボックス? 特製ボックス仕様?」

 情けないが、オウム返しに問い返すのが精一杯だ。

「そう。ほんぺんに修正を加えた完全版と、ボーナスディスクとか、特製ブックレットとか、ほかにも色々特典がぎっしり入ってるの。……ふふ、すごいでしょ」

「その……星くず☆うぃっち……とかの?」

「うん」

 桐乃のテンションは、か上昇気味だった。

 自慢のコレクションをかいちようできたのが、そんなにうれしいのか? 大嫌いなおれに、ついうっかり笑いかけちまうほど。俺はなんとなくしやくぜんとしない気分になった。

 ところで気になるんだが、

「こういうのって……結構高いんじゃねえの?」

「んー? まあ、わりとね。えっと、コレは41,790円でしょ? コレは55,000円でしょ? で、えっと、こっちは──」

っけええええええええよ!? どこがわりと!?」

「そう? ……服一着か二着分くらいでしょ、こんなの」

「どっからそんなカネがでてくんの!? 中学生だろおまえ! どうして十四歳にしてスデに金銭感覚してんだよ!」

 言ったあとで、しまったと思った。

 ……やべ、これ、もしかしたららいかも分からん。答え聞くのがすごくイヤだ……。

 俺の気まずい心配をよそに、きりはあっさりと言った。

「どっからって……ギャラに決まってるじゃん?」

「そ、そうか……」

 ふーん……ギャラ……ギャラね? それならいいんだが……。

 って、いやいやいやいや!? 全然よくねえだろ!?

 俺は、片眼をぎょろりといたぎようそうで問う。

「ぎゃ、ギャラ、だと……?」

「うん」

「……なにそれ? どっからどういう理由でもらってるわけ?」

「ああ……言ってなかったっけ。あたし、雑誌のモデルやってるから」

「ざ、雑誌? モデル? ……巻頭グラビアとかか?」

「……全然違う。耳腐ってる? だっつってるでしょ? 専属読者モデル」

 けいべつしきったせんが胸に痛い。モデルとグラビアアイドルの区別がいまいちついてない俺だったが、どうやら見当違いのことを言っていたらしい。

 ぼうぜんと首をかしげている俺を見かねたのか、桐乃は本棚から雑誌を取り出し、俺に放ってきた。

 それは、いわゆるティーン誌というやつだった。白背景に、やたらとキラキラしたフォントのタイトル。流行を先取りだのなんだの、幾つかのあおり文句が並んでいる。

「…………」

 パラパラページをめくってみると、雑誌のあちこちで、見慣れた妹の姿を見付けることができた。俺にはよく分からんが、流行最先端とかいう服を着て、びっとポーズを決めている。

 ──へえ。モデルみてーだとは思っちゃいたが、まさかホントにモデルやってたとはね。

 こいつがどこで何をしてようがどうでもいいはずなのに、妙にイラっときたのは何でなんだろうな? おれにもよく分からんのだが、つい考えなしに悪態をついてしまった。

「──んだよこの格好、腰でもてえの?」

「……バカじゃん」

 けいべつせんに、失望の色が混じったように見えたのは、気のせいだろう。

 さっと目を伏せた妹を見ていると余計に気分が悪くなってくる。俺はつくろうように言った。

「……まぁ……か、かわいいんじゃねえの」

 妹相手に、なに言ってんだ俺は。……一応本音ではあるけどな。

「……つうか、これ結構有名な雑誌だろ? 俺が名前知ってるくらいなんだから。──おまえ、もしかしてすごいんじゃないのか?」

「ふん、別に? たいしたことないよ、こんなの」

 俺なんかのめ言葉でも、それなりにうれしいらしい。まんざらでもないようだった。

 険悪な空気がほどけたので、俺はれた話題を再開させる。

「で、幾らくらいもらってんの?」

「えーと……たしかぁ」

 妹から返ってきた答えを聞いた俺は、がっくりと肩を落とした。

 ……おいおい。……幾ら何でもガキに金渡しすぎだろ。

「そういうわけだから、あたしが日々、かわいさにみがきをかけているのも仕事のうちってわけ」

「けっ……よくいうぜ」

 だがなぁ……この雑誌の読者どもも、このカッコ付けたポーズ決めてるかわいいモデルが、まさかギャラで『妹と恋しよっ♪』だの『妹たちとあそぼ♡』だのを買っているとは思うまい。

 というかたぶん、こいつのファンが真実を知ったら間違いなくそつとうするね。

 俺は世界のあいめつつ、さらに収納スペースの奥底をのぞき込もうとした。

 が、そこにひざち体勢のきりが、両手を広げてふさがる。

「……きょ、今日きようはこれ以上見せられない」

「なんで?」

 いや、別に見たくもねえけど。全部見終わるまで解放してくれないのかと思ってたぞ。

 桐乃は収納スペースの奥底をいちべつしてから、ぎろっと俺をにらみ付ける。

 だからそのゴミを見る目はやめろよ。

「まだ……信用したわけじゃないから。いまは、これが限界」

「はあ?」

 なんだ? こいつ、何を言ってやがるんだ? その言い方だと、まるで……いま見せたのはほんのじよくちで、さらに上があるみたいに聞こえるんだが。え……マジで? そうなのか?

「あの、奥にあるのは、ちょっと恥ずかしいやつで……その……だから、だめ」

「………そ、そうか……」

 ええ~~? 『妹と恋しよっ♪』を得意げに見せびらかせるこいつが、恥ずかしがってちゆうちよしてしまうブツって……いったいどんなとんでもないしろものだってんだ……? あまりのせんりつだまり込んでいると、きりが話しかけてきた。

 おれのすぐ前、つんいで前のめりになった体勢で、

「で、どう?」

「ど、どうとは?」

 何を言えってんだ。だれか分かるやつがいたら教えてくれよ。

 俺が何も言えないでいると、桐乃は、じやつかんもじもじし始めた。

「だから、その、感想。あたしの、しゆを、見た」

「……ああ、感想、感想……な? ……ええと、びっくりした」

「そんだけ?」

「……そんだけって言われても……しょうがねえだろ? すげえびっくりして、ほかの感想なんて出てこねえんだから」

 俺がつくろうように言うと、桐乃はととのったまゆをひそめてものげにつぶやく。

「……やっぱり、あたしがこういうの持ってるの……おかしいかな」

「……いや、そんなことは……ないぞ」

 おかしいっていうか……そういう次元の問題じゃねえし。

 ……つまり桐乃のそうだんってのは、これか……。

 それよりさ、そろそろ解放してくんねえかな。ぐっすり眠って、もう忘れたいよ俺は。

 俺は一刻も早くこの場から脱出したいので、妹が求めているであろう台詞せりふを言ってやった。

「言ったろ。俺は、おまえがどんな趣味を持ってようが、絶対バカになんかしねえって。──いいんじゃねえの? 何を趣味にしようがそいつの勝手だ。誰に迷惑かけてるわけじゃなし、自分がかせいだ金で何を買おうが、文句言われる筋合いはねえよ」

「……だよね? ……ははっ……たまにはいいこと言うじゃん!」

 よしよし満足したな? じゃあ俺はそろそろ退散させてもらおう。

 と、しりを浮かせかけた俺だったが、気が変わって再び腰を下ろす。

 実は、さっきからずっと、こいつに突っ込みたくて突っ込みたくて我慢していることがある。

 に突っ込むと、とんでもない回答が返ってくる可能性があるので、できることなら突っ込まずに済ませたいと考えていたわけだが……もう我慢の限界だ。

 まるで世界の外側から『早く突っ込め! 突っ込め!』と指示を飛ばされているような感覚だった。もちろん気のせいだろうがな。

「はあ……」

 ようし……いまから突っ込むぞ? 突っ込むからな? 覚悟はいいか? もしも最悪の回答が返ってきたとき、あわてずさわがず落ち着いて対処する準備はOK?

きり、話が前後しちまうが、ひとつおまえに聞いておきたいことがある」

「は? キモ、なに改まってんの?」

 てめえ、それが大サービスでおまえのしゆを全肯定してやった兄への言い草かよ。

 なんかこの分だと、どうやら最悪の展開はなさそうな気がしてきたな……。

 ふぅ……。おれは一息ついて気を取り直してから、こう言った。

「なんでおまえ、のエロいゲームばっか持ってんの?」

「…………………………………………」

 お、おい……なぜそこでだまり込むんだ? な、なんとか言えよ……なあ?

「……なんで、だと……思う?」

「さ、さぁ……なんでなんだろうな?」

 ま、待て。待て待て待て……なぜそこでうっとりほおを染める……!?

 なぜつんいで這い寄ってくる……!?

 まさか、まさか……ちょっと、やめてくれよマジで……俺にそんな趣味はねえっての……!

 身の危険を感じた俺は、腰が抜けたような体勢で、じりじりとあと退ずさった。

「……なに逃げてんの?」

「別に逃げてねえよ」

「うそ、逃げてるじゃん」

「それはおまえが……あ」

 し、しまった。背中がかべについてしまい、これ以上逃げられない。

 さっさと立って逃げりゃあいいものを、あせってしまった俺は、きょろきょろを見回すばかり。そうやってモタモタしているうちに、さらに追い詰められてしまう。

「…………」

 そこで桐乃は、何かを決意したような、思い詰めたような表情になった。

 真剣なまなしが、俺のひとみぐ突き刺す。桐乃に見詰められた俺は、かなしばりにあったように動けなくなる。目をそらせない、張り詰めた空気が周囲に満ちていた。

 そうして桐乃は、四つん這いで俺におおかぶさるようにして──

 俺の鼻先に、『妹と恋しよっ♪』のパッケージを突き付けた。

「は?」

 予想外の展開に、面食らう俺。そんな俺の反応なんざ意にも介さず、桐乃はころっと態度を一変させて、ややうっとりとした調ちようでこう言った。

「このパッケージを見てるとさ……ちょっととか思っちゃうでしょ?」

「……な、なに言ってんのおまえ?」

 意味が分からねえ。この部屋に足を踏み入れてから、何度この台詞せりふを思い浮かべたかもう分からんが、中でもいまの桐乃の台詞は、とりわけ意味不明だ。

「だぁからぁ~」

 何で分からないかなぁとでも言いたげに、きりあきれた表情をおれに向けた。

「……すっごく、かわいいじゃない?」

 だから何が? おまえの台詞せりふには主語がねえよ。

 このときの俺の表情は、さぞかしいぶかしげだったことだろう。

 これ以上聞き返しても、ろくな答えが返ってきそうにないので、俺はなんとか妹の言わんとすることを察してやろうと頭を回転させた。

「……………………」

 手掛かりは二つ。いま、鼻先に突き付けられたパッケージ。そしてとうとつに告げられた、『すっごく、かわいいじゃない?』という台詞。

 普通に考えれば答えは一つしかないわけだが……でも、っておかしくねえか? ……おかしいよなあ? ……俺はどうにも納得いかないままに、おそるおそる聞いてみる。

「……すると、おまえ。なんだ、その……まさかとは思うけど……『妹』が、好きなのか? で、だから、そんなゲームとか、いっぱい持ってると」

「うんっ」

 だ、大正解……。元気いっぱいにうなずきやがった……。なんでそんなに誇らしげよ?

 ……普段ふだんもこのくらいあいそうがよけりゃいいのになあ。

 などと思っていると、桐乃は聞いてもねえのに語り始めた。

「ほんとかわいいんだよ。えっと、例えばね? たいていギャルゲーだとプレイヤーは男って設定だから、おにいちゃんとか、おにいとか、兄貴とか、兄くんとか──そのの性格やタイプに合った『特別な呼び方』でこっちのことを呼んで、したってくれるのね。それがもう……ぐっとくるんだあ」

「ふ、ふーん……すごいな」

 適当にあいづちを打って合わせる俺。……フ──ったく、楽しそうに語っちゃってまぁ……

 ところでおまえは俺のことを『おい』だの『ねえ』だの、やたらとそんな態度で呼びつけるよな。そのへんどうよ? 全然ぐっとこないし、常にイラっとくるんだがな。

 俺の無言の問いかけにはもちろん気付かず、桐乃は『妹と恋しよっ♪』のパッケージを俺に見せつけるようにして、とある女の子のイラストを指で示した。

「この中だと──あたしは、この娘が一番お気に入り」

 妹が示したのは、背の低い、気弱そうな女の子だ。黒髪をツインテールにわき、もじもじと恥じらっている。

「やっぱね、黒髪ツインテールじゃないとダメだと思うの。せい大人おとなしい娘って、こう、まもってあげたくなっちゃうっていうか、ぎゅってめてあげたくなっちゃうっていうか……へへ……いいよねえ」

 おまえ茶髪じゃん。くそ短いスカートはいて、脚組んで、太もも丸出しでゲラゲラ電話してるじゃん。いまの台詞せりふ、自分で自分にダメ出ししてねえ?

 ……まぁ……それはそれとして、だ。

「……な、なるほど」

 おれの妹は『妹』が好き──だからこいつは、アイテムをしゆうしゆうしている。

 それは理解した。だが俺の疑問は解消されちゃいない。むしろでかくなったくらいである。

 俺はむずかしい顔で聞いた。

「だ、だが……どうしてだ?」

「え?」

「だからおまえ、どうして妹が好きなんだ? 悪いとは言わないが……おまえが集めているゲームって、普通男が買うもんだろ? ……しかも、その、18歳未満は買っちゃいけないやつじゃないのか? あまりにも、おまえのイメージからはかけはなれてるだろ。どうしてそんな──そういうのを、好きになったんだ? 何かきっかけとか、理由とか……あるのか?」

「そ、それは……その……」

 俺の問いを受けたきりは、明らかにろうばいした。冷水ぶっかけられたみたいに目をぱちくりして、きょときょととせんをさまよわせている。言いにくい質問にまどっている……のとは、ちょっとようが違う気がした。しばらくそのまま待っていると、

「わ、分かんない!」

 目をきつくつむって、顔をに染めて、どこか子供っぽく桐乃は言った。

 俺が「は?」と問い返すと、妹は胸に両手を持っていって、もじもじと恥じらい始める。

「……あのね……あのね……じ、自分でも……分かんないの」

 ……うお、なんだコイツいきなり……あくりようにでもひようされたか?

 普段ふだんの憎たらしいおまえはどこにいったのよ?

 恥じらうぐさがあんまり桐乃らしくなくて、(つまりかわいらしくて)俺はとうわくしてしまう。

「分かんないっておまえ……自分のことだろ?」

「だ、だって! しょうがないじゃん……ホントに分からないんだから……。いつの間にか、好きになってたんだもん……」

 だもん、って……おいおい、おまえのキャラじゃねえだろ、それ。

「……たぶん店頭で見かけたアニメがきっかけだったとは思うんだけど……」

 桐乃は、それこそ自分が好きな妹キャラみたいに、気弱な態度になっている。

 不安そうに俺を見上げてきた。

「……あたしだって……こういうのが、普通の女の子のしゆじゃないって、分かってるよ。だからいままでだれにも言えなくて……隠してたんだもん。でもさ、分かっててもやっぱり好きだから……ネットやってると、ついつい、ググっちゃうの。……で、たいけんばんとかダウンロードして、やってるうちにさ……こう……ああんもー買うしかないっていう気になっちゃって……」

 で、挙げ句の果てにこのザマというわけか……。

 おれはうずたかくまれた妹ゲーを見やって、目をすがめる。

 ……めちゃくちゃメーカーの策略にハマってやがるな、こいつ。

「こ、このかわいいイラストが、あたしを狂わせたのよ……」

 イラストレーターのせいにすんじゃねえよ。

 ていうか俺はなんで、深夜に妹から、オタクになったいきさつとか聞いてるんだろうな?

 こんな奇妙なたいけんをする兄は、世界で俺だけじゃねえの?

 きりはさらに続ける。

「このままじゃいけないって……何度もやめようって、思った。でも、どうしてもやめられなくて……だってね、ブラウザ立ち上げると、はてなアンテナにとうろくしてあるニュースサイトが、毎日あたしに新たな情報を伝えて、いろいろ買わせようとしてくるんだよ? ……うう、かーずSPとアキバBlogめ……」

「いやおまえ……よく分かんねえけど……ニュースサイト? 見なきゃいいんじゃないか?」

「………………それができれば苦労しないんだって……」

 軽く突っ込んだら、桐乃は思いっきりしょんぼりしてしまった。

 おいおい……だからだれなんだこいつは。こんなかわいい妹に、心当たりはねえぞ?

 俺の前にぺたんと座り込んだ桐乃は、目に涙をめて、うわづかいで見上げてくる。

「……ねぇ、あたしさ、どうしたらいいと思う?」

「………………」

 どうしたらいいと思う……って、言われてもな……。

 んなもん知るかよ、というのが正直な意見だが、さすがに俺を頼ってきた妹にこの台詞せりふは言えねえ。こいつの腹ん中がどうであろうとだ。

 分かってるさ。こいつがそうだん相手に俺を選んだのは、頼れる兄貴だとしたってくれているからじゃあない。俺がこいつにとってどうでもいい人間で、何を話しても無害だと判断したからだ。

 人をなめた、ふざけた話さ。

 けどな……そんな理由でも桐乃は、自分が抱え込んでる悩みを、こうして俺に話してくれたわけだ。の念なんざカケラもねえんだろうけどよ、そんでもちっとは俺を信頼して、頼ってくれたってことだろ? で、こいつの力になってやれるのは、いま、俺っきゃいねーんだろ?

 ……んじゃ、しょうがねえよな。

 俺が目をつむってかんねんしたときだ。桐乃がすげえことを言った。

「やっぱさ……おとうさんとおかあさんに話した方が、いいのかな」

に決まってんだろ!? 絶対やめとけ! だいたいそれができるんならおまえ、最初っから悩むことなんかねえだろよ!?」

 うおお、びっくりすんなあ。実はこいつ、天然なんじゃねーの?

「それもそっか。……じゃ、やめとく」

「そうしとけ。特におやには絶対バレねーようにな」

 の親父は、いわゆる昔ながらの堅物というやつで、実にきびしい。

 そんな親父が、きりの『秘密のしゆ』を見付けたら……とんでもないことになるだろう。

「見付かったら……まずいかな……?」

「まずいだろうな。正直、その展開は考えたくもねえ。だから、そこは協力してやる。おまえの趣味がバレないように……つっても、何ができるかは分からねえけどさ」

「……いいの?」

 桐乃は意外そうな顔をしていた。おれが協力を申し出たことが、信じられないらしい。

 ……おまえさ……俺をどういう評価してたわけ? おっかないから聞かないけどよ……。

 などと不満を抱きつつも、俺はうなずいた。

「いいさ。何かあったら、えんりよなく言えよ。たいした助言もできねーけど、俺にできるはんでなら協力してやるから」

 俺は成り行きで口にしてしまったこの台詞せりふを、あとで後悔することになる。

「……そ、そう? ……じゃ、そしよっ、かな……うん……そうしてくれると、助かる、かも」

 桐乃は礼こそ一言も言わなかったが、しきりに小さく頷いて、うれしそうにしていた。

 そんな妹を見ていると、正直、悪い気はしない。

 ──ふーん、こういう顔もできるんじゃん、こいつ。

 俺は意外なおもいを抱きつつ、はにかむ妹の顔を見つめる。

 なつかしい……だかやはり、そう想った。

 なんだかなぁ……ちっとばかし無責任なこと言っちまった気がするが。

 まあいいか、どうにかなんだろ。俺に例のブツを見付かってから今日きようまでの二日間、ほんとに悩んで悩んで悩んだ上で、俺にそうだんしてきたんだろうしさ、こいつ。

 協力せんわけにゃいかんだろ。めんどうくせえけども。

 ……やれやれ、とにかく『最悪の展開』じゃなさそうでよかったぜ。

「ところでおまえ、あくまで『妹』が好きで『妹もののエロいゲーム』を買ってるんだよな? ……他意はないんだよな?」

「は? じゃなきゃなんだと思ったワケ?」

 俺がさらなる安心を求めてつぶやいた台詞に、桐乃はきょとんと首をかしげる。

 そして数秒後、俺が心配していた『最悪の展開』について思い至ったらしく、さっとまゆをひそめた。

「……キモ。なわけないでしょ」

 おお、いつしゆんでいつもの桐乃に戻りやがった。けんかんまるだし。これぞ俺の妹。

 やべえ、むかつくはずなのに妙に安心しちまった。さっきのしゆしような態度が、どんだけ異常かって話だよな……これ。

「キモ、っておまえな……おまえの好きなゲームだと、妹ってのは兄貴が大好きなんだろ? 自分で否定してどうすんだよ?」

「……ばかじゃん? 二次元と三次元をいつしよにしないでよ。ゲームはゲーム、リアルはリアルなの。大体さー、現実に、兄のことを好きな妹なんているわけないでしょ?」

 こいつ、いまおれのことを遠回しに『大嫌い』って言ったか? ひどくね? 仲のいい兄妹だって世界にゃたくさんいるだろうよ。俺とおまえは永遠に敵だけどな!

「もう用は済んだから。そろそろ出てってくんない?」

 ちくしょう……やっぱかわいくねぇよ、こいつ。

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