俺の中の天使と悪魔が純愛厨とNTR厨だった。
@kikikuki
第1話
通学路に財布が落ちている。
黒いブランド物の長財布はその中身を期待させた。
さてさて昨今の世の中では電子決済が主流で現金払いは時代遅れというが果たして……
「おおっ!」
俺は思わず声を上げてしまう。
中にはぎっしりと万札が入っていた。
これだけあれば欲しかったあの漫画やラノベ、なんならVR機器なんかも買える。
俺はまるで宝くじが当たったかのように空想にふける。
しかし忘れちゃいけない。
落し物だとしても他人の物を自分の物にしてしまうのは窃盗行為で犯罪にあたるのだ。
なにより本来の所有者の心境を思えば交番にありのまま届けてあげるべきだろう。
たとえリスクなく大金を手に入れられるチャンスだとしても。
こういった時、使い古されたシチュエーションが思いつく。
つまり心の中の天使と悪魔だ。
天使は道徳を説き交番に財布を届ける様に促す。
翻って悪魔は中身を抜きとって捨てろと誘惑する。
俺の中の悪魔は脳に欲しい物を無限に想像させて誘惑してくる。
現時点では悪魔が優勢だ。
これではまずいと俺はカード入れの方も漁る。
口座の中身までいっちまおうとしている訳ではなく免許証を見て落とした人の顔を見ればさび付いた良心システムが起動すると考えたからだ。
うん、見るからに普通のおっさんだな。
財布を落としたという情報がある為か幸が薄い可哀想なおじさんという目で見てしまう。
よし、こんな可哀想なおじさんからお金を盗むなんて俺には出来ない。
交番に届けよう。
俺はギリギリの所で踏みとどまり、近くの交番に届ける事にした。
免許証を財布にしまおうとした時、ふと財布の中に入った小さな写真を見つけてしまう。
ラミネート加工されたそれはおじさんにとって大事な写真である事が分かる。
それは家族写真だった。
財布の持ち主であるおじさん、そしてその奥さんと娘さんが朗らかな笑顔で写っていた。
心温まる写真だ。
勝手に独身のおじさんだと思っていたが奥さんも娘さんも大変お綺麗だ。
若干謎の嫉妬心により悪魔が再度俺の脳に表れたがやはりこんな幸せな家庭を俺の所為で悲しませたくない。
俺はそう考えて写真を仕舞おうとしたが……、その時先ほどまで大人しくしていた本当の天使と悪魔が現れた。
「えっっっろ!チョー良い女じゃーん!ねぇねぇリンリン。このメス犯っちゃおうよぉ~」
「いけません!エーシュマ!リン君を誘惑するのはお止めなさい!」
「えぇー、絶対楽しいのにぃ~。……ねぇ、リンリ~ン。免許証に住所書いてあったよね。今からそこに財布を届けに行こうよぉ。そしたらぁ、後は私に任してくれたらすっごい気持ちいい事させてあ・げ・る♥」
「させません!」
「みぎゃっ!いったぁい!何するのよ!」
「貴方がリン君に不貞行為をさせようとするからでしょう!絶対にそんな事はさせません!」
財布を持って直立する俺の周囲で
褐色肌で黒をベースとした破廉恥な格好をした角と尻尾の生えたイカれドスケベ女と
神々しい光を発し修道服に身を包む頭の上に光輪を浮かばせたイカれヒステリック女がいがみ合いを始める。
だが俺はそのイカれ女達に怒鳴りつける事も出来ない。
何故ならそれをしたら俺が周りからキ〇ガイ扱いされるからだ。
彼女達は俺以外には見えていないのだ。
しかし俺の妄想の産物と片付けるには彼女達は余りにもリアルだった。
先程、褐色のドスケベな方、エーシュマは俺にその豊満な肉体を押し付けて耳元に囁いてきたが感触も、吐息も匂いも全てリアルに伝わった。
溜息をついて俺は速足で目的地に向かう。
当然向かう先はおじさんの家ではなく交番だ。
俺が移動を開始した事に気付いた二人はいがみ合いながら追尾してくる。
彼女達が俺に憑く様になってもう1週間が経つ。
海外旅行が趣味の両親はよく旅行先で色々買ってくるが
父の方が怪しげな店で骨董品を買う奇癖があり最近も中東かどこかに行った際に謎の密閉された壺を土産に買ってきた。
俺はいらねぇと思いながらも机に飾ろうとしたが手が滑って床に落としてしまった。
そして中から現れたのが褐色ドスケベ悪魔のエーシュマである。
まさにそれなんてエロゲだ。
彼女は自身を色欲と不貞の悪魔と自称し俺を主人と呼称した。
彼女に任せればエロゲの様な
だが予約が終わる前に窓の外から神々しい光を放つ乱入者が現れた。
修道服ヒステリック天使のラファーだ。
彼女は自身を愛の天使と称しエーシュマから俺を守る為に遣わされたと宣言した。
これが俺に本物と悪魔と天使が憑りついた経緯の簡単な説明である。
エーシュマは事あるごとに先ほどの様に俺に不純な性行為の機会を斡旋しラファーはそれに対して烈火のごとく切れる。
この一週間常にそんな感じで高校受験ではならなかったノイローゼになりそうだ。
童貞を拗らせた男子高校生のイカれた妄想だと思うか?
俺もそう思う。
誰か俺を助けてくれ。
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「リン君。私は信じていましたよ。よく悪魔の誘惑を退けましたね。」
「ちぇー、リンリン。あのメスとやりたくなったらいつでも言ってね?住所は覚えておいたから。」
「お黙り!」
どっちも黙れ!
と叫びたいが我慢する。
俺は彼女達を妄想の産物として扱い出来るだけ無視する様にしている。
頭の中の彼女達と会話していたらただでさえ浮いている俺は学内での立場を完全に無くすだろう。
交番に寄った為いつもより少し遅れて教室に辿り着く。
教室内のクラスメイト達が俺をチラリと見るが直ぐに興味をなくし、雑談を再開する。
ここで遅ればせながら自己紹介をさせて貰おう。
俺の名前は相田 倫。
この春に高校生になったばかりのちょっとオタクが入ったどこにでもいる高校生だ。
人とちょっと違う所は脳内に一風変わったイマジナリーフレンドが2体いる事とリアルの友達が一人もいない事かなー?
なので誰にも声を掛けられない事は日常の出来事なので俺はいつも通り無言で自分の席に向かう。
よし、今日は誰も勝手に俺の席を使ってないぞ。
だがその俺の道を阻む様に髪の化け物が現れた。
「あ、あ、あの、あのぅ……。あ、あ、ああ、相田く、相田くん。」
奇怪な音を発しこちらを発狂させようとしているのかと身構えたがその妖怪は俺の名前を呼んだ。
妖怪に名前を呼ばれた場合無視するのが安牌だと昔話が教えてくれているが彼女は妖怪でもましてや俺の妄想の産物でもなかった。
反応しない俺に彼女はただでさえ様子がおかしいのに更に挙動不審になる。
「あ、あひゅ、相、相、あ、相田く、くん?え、えっと……」
「あ、ごめん。ぼんやりしてた。どうしたの大日向さん」
クラスメイトである彼女は大日向 陽子という最早詐欺だろと思ってしまう程に名前と実物に差がある名前だ。
髪の毛は伸ばしっぱなしでうねっており表情どころか身体の全体像すら分かりづらい。
俺に返答された彼女は僅かに見える口元を微動させる。
喜怒哀楽のどのジャンルに類する表情かも分からない。
「えっ、えっとあの、あのあの、きょ、今日はか、かっ!か、かひゅー、かひゅー……」
マジかこの女。
俺も一角の友達ゼロ民として自慢じゃないが人と話すのが苦手だ。
しかし言葉に詰まり空気を喉に詰まらせて窒息する程じゃない。
俺は今すぐにダッシュで彼女から逃げ出したくなるが地蔵の様に留まる。
もしかしたら動きに反応して襲ってくるタイプの怪異かもしれない。
いや、だから妖怪ではない。
「で、えう、そのと、とし」
「分かった。図書館だね。ありがとう。」
俺は壊れたビデオテープの様に不明瞭な音を発する彼女の言葉の要所要所を拾って内容を考察して会話を終わらせた。
彼女と俺はグループワークの班が一緒なのだ。
その作業に放課後、図書館に集まるという話だった。
人の会話を強制的に終わらせる事は失礼な行為にあたるが朝の貴重な時間をこれ以上浪費したくない。
大日向さんは顔を上下にブンブンと振り肯定した。
歌舞伎の毛振りの様だ。
俺は曖昧な笑顔をして彼女の脇を通り席に座る。
ふぅ……ようやく落ち着いた。
「ね、ね。あの娘髪の毛で隠れてるけど絶対男受けするドスケベボディだよ!放課後襲って学校での性処理当番に就任させちゃおうよ!」
「破廉恥な事を言うのはやめなさい!学生同士はもっと清らかな交際をするべきです。良いですか、恋愛というのはですね……」
「年代物の処女が恋愛とか言わないでよぉー。笑い死ぬから、あっはははは!」
「滅しなさい!」
俺の頭上で俺にだけ聞こえる声が大音量で喧嘩を始める。
俺は机に突っ伏した。
医者でも神でも仏でもサタンでも良い。
誰か俺をマトモに治してくれ。
結局エーシュマとラファ―は何度も喧嘩をし、俺は授業の内容を完全に聞き逃した。
次の更新予定
2024年12月22日 08:00
俺の中の天使と悪魔が純愛厨とNTR厨だった。 @kikikuki
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