石化魔眼使いの俺、ダンジョン配信者に映されて視聴者丸ごと石化した件
天星 水星
第1話
「よっ、はっ、とぉ!」
スキル『石化の魔眼』を使いつつ、魔物を倒していく。『石化の魔眼』は見た対象、または眼を見てきた対象を石に変えることができる。といっても何でも石に変えることはできない。ここダンジョン47階層の魔物は、レジストしてきて石化しないがそれでも身体能力は下げることができる。
「相変わらずこの魔眼は強いなぁ」
ここに来る途中で出会ったパーティーを思い出しつつ呟く。この魔眼がなきゃ1人でここまで来られなかったし、探索者を続けなかったかもしれない。
「いやどうせ続けてたか?」
結局周囲と一緒に行動するのが苦手な俺は、探索者を続けただろう。それでもパーティーを組むことはない。他人の命を預かるとか俺には無理だ。だからパーティーを組む奴らのことは、素直に尊敬できる。
そんなことを考えながらも魔物を倒す手は緩めない。本当はもっと上の階層で戦ってるんだ、これくらいは余裕でこなせないとな。そうして魔物を狩って素材を集め終わる。だが数が多くて面倒なせいか、油断していてあんな事件が起きてしまった。
曲がり角から足音が聞こえた。まずそこで俺は警戒した。魔物の可能性を考えたが、この階層は四足歩行の魔物しかいないはずで足音からして違う。なら探索者だろうと当たりをつけるが警戒を緩めない。ダンジョンは治外法権、魔物を倒し終わった探索者を狙って強奪していく奴もいる。今はそんなことをやる探索者は減ったが、それでも警戒しておくことに越したことはない。
そしてその探索者は、俺を見た途端に石化した。
「……は?」
この事態に、俺は理解できなかった。なにが起きたかはわかる。だが普通は起こらないことが起きたのだ。なぜならこの階層に来る探索者なら『石化の魔眼』をレジストできる。もちろん俺が見て出力を上げたなら別だが、そんなことをしていない。だから答えはこの探索者がレジストできないくらい弱いということだ。
だがそんな探索者がなぜこの階層にいるのかわからなくて、それが余計に混乱する。そんな起こらないことが起こったから、少しの間惚けていた。これが戦闘中なら隙だらけだったことだろう。
「と、とりあえず石化を解除しないと!」
石化したばかりなら、解除できるはずだ。そんなわけで急いで石化した探索者に近づく。見るとその探索者は一般的には美少女と言えるような容姿をしていた。髪を背中の中程まで伸ばしていて、顔も整っている。そんなことを思いつつも近寄って石化を解除した。
「……あれ、私どうして?」
石化を解除した直後は、記憶が混濁していることが多い。この少女もそうなのだろう。
「とりあえず聞きなさい。君は俺のスキル『石化の魔眼』を見たことで石化した。そしてたったいま解除されたところだ。ここまではわかるか?」
そう問いかけると、コクコクと首を縦に振る。意識はしっかりしているな。
「なぜ君がこの階層にいるのかはわからない。だけど俺の『石化の魔眼』を見ただけ石化するなら、君の実力ではこの階層で通用しない」
説明が理解できたのか青い顔をする。まあ危険地帯にいるとなったらそうなるだろう。
「一応聞くが帰れるあてはあるか?」
「な、ないです……」
「だよな、それじゃあ俺が上のポータルまで連れて帰るってことでいいか?」
「は、はい! お願いします!」
すぐにお礼を言えるのはいい娘だな。そんなわけで30階層のポータルに向けて行くことになった。ポータルとは、階層間の転移装置だ。このダンジョンなら1階層、10階層、30階層、50階層にある。本当なら50階層のポータルが近いが、さすがにこの少女を守りながらは難しい。だから30階層のポータルを目指す。
「とりあえずまずは自己紹介だな、俺の名前は
「
そんなわけで移動しながらまずは自己紹介。そのあとはまあこちらから聞いた方が話しやすいか?
「崎原さんは動画投稿者? その探索者カメラ持ってるし」
「はい! ダンジョン配信者やってます!」
「お、いいねー」
ダンジョン配信者は最近有名になってきた。探索者がダンジョン内の様子を撮影し始めたのがキッカケだったか? それを公開したところ大受けして、それから爆発的に増えた。まあこれも最近問題が発覚したんだが。
「俺はあんまり詳しくないけど、人気はどうなの?」
「あ、その登録者なら1000人行きました……」
そう恥ずかしそうに告白する崎原さん。聞けば美少女探索者として順調に人気が出始めているらしい。まあ自分から美少女というのは恥ずかしいよな。
「まあ俺の『石化の魔眼』は生物や魔物を石化させるだけだから大丈夫だと思うけど、あとでそのカメラ確認しておいたほうがいいよ」
「そうですね。たしかに配信してたのにあれから一向にコメントこないですし……」
「そうだね、だから1回……配信してた?」
「えっはい、あ、でも心配しないでください! 石狩さんのことは映してませんから!」
「あ、うんありがとう。いやそうじゃなくて……(ヤバイヤバイヤバイ! 配信してたとか何考えてたんだこの娘!? 30階層以上からは直接的なやり取りは禁止なの知らないのか!)」
そんなことを思いつつも、何かの手違いだと信じて詳しい事情を聴く。どうやら崎原さんは27階層で活動していたようだ、年齢のわりに随分早いな。そこで隠し部屋を見つけたが、そこには転移トラップがあり47階層に転移してきた。そしてそのあと俺に出会ったらしい。
「えっとこんな感じですけど……大丈夫ですか?」
「いや大丈夫じゃないです」
思わず頭を抱えてしまったがそれも仕方ないだろう。30階層突破してないのにこの階層に来られることとかも重要だが、それよりも来たのが配信者だったことの方が問題だ。
「えっと何か今のに問題ありましたか?」
「うーん? 問題といえば問題だけど、崎原さんが悪いかといえばそうではなくて……」
そんなわけで詳しく説明する。基本的に30階層を超える魔物や探索者は、存在の格が一般人と違ってくる。簡単な例を出すと、30階層を超えた魔物や探索者の殺気受けると一般人は死ぬ可能性がある。まあこれは極端な例だが、一般人に悪影響を少なからず悪影響を及ぼす。それこそ気絶するとか。
それが例え映像越しであっても効果はあって、時間が経つと薄くなる。だから配信じゃなくて録画公開なら、探索者協会は問題ないとした。
「この説明を30階層を超えた探索者と、超えそうなボスに挑む29階層の探索者に説明してるんだけど……。もちろん崎原さんは受けてないよね?」
「えっと、はい、受けてないです……」
「それで実は俺の『石化の魔眼』は映像越しでも効果を及ぼす」
「えってことは……」
「崎原さんの配信を見てた視聴者はほとんど石化しただろうね」
思わずハハハッと乾いた笑い声を出す。いやまさかこんなことになるとは思わなかった。今頃地上は混乱してそうだ。
「で、でも! 石狩さんは私の石化を解いてくれたじゃないですか! だから大丈夫じゃ……」
「いや、確かに俺も石化を解けるけど、それは石化してすぐだからなぁ。いまからじゃあ絶対間に合わないね」
「うぐっ……」
「まあ石化を解く薬があったはずだけど、そんなことしてくる魔物は少ないから希少だし。1本100万円したかな?」
「ひゃ、100万円……」
そんな状況だがそれでも地上に行かないといけない。たぶん地上側も原因がわかっていると思うが、こちらに問題はないことを証明しなければテロ扱いになるかもしれない。まあそれもちゃんと徹底周知させなかった協会が悪いってことにすれば、なんとかならないかなぁ。ならないか。
「とりあえずそんなことだからちょっと急ぐよ?」
「は、はい! お願いします! うぅ……」
そうして急いでポータルを目指して、地上に帰還した。そのあともなんやかんやあったが、結論だけ述べよう。
俺は捕まった。
「それでも俺は悪くねえ!」
石化魔眼使いの俺、ダンジョン配信者に映されて視聴者丸ごと石化した件 天星 水星 @suiren012
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