9話
「やっとついた〜!」
マーナと共に、船が桟橋に着く瞬間を覗き込む。
「護衛お疲れさん!これ気持な!」
そう言って硬貨の入った袋を渡される。
「これは?」
「海賊から奪ったものだ!船の修理に当てようと思ったがその必要がなくなってな!だからあんちゃんにあげるよ!また会ったら今度は酒!飲もうな!」
にこやかな顔をして船長がその場を去っていく。硬貨の袋を恐る恐る見てみると……なんと金貨が入っていた。
間違えだと思い船長に声をかけようとするも、もう既に船を降りていた。
「クリス〜あんただけだよ〜!」
そう言われて、駆け足で船を降りて手荷物の検査と身分証を受ける。
検査を終えて一段落した後、まじまじと街の風景を確認する。
「相変わらず窮屈な街だな……」
全ての建物が区画ごとにきっちり建てられており、その景観も全てが統一されている。大きな通り、小さい通り問わず魔石灯が並べられており、街全体から皇国の権力と豊かさを感じる。横に並んで呆気にとられてるマーナに声をかける。
「ここでお別れだが、マーナのツテはどこにいるんだ?」
「ツテ?何それ?」
「おい!ツテがいないのに皇都に来たのか!」
「なんかだめだった?」
「当たり前だ!」
……皇国は基本的には多民族国を主張しており、互いを尊重しようと言われているが1部人間にはそれが嫌われている。それが『皇都』に住む貴族や住人達だ。
自分達人間が必死の思いで作り上げた土地に他の連中を入れるのが嫌いらしい。そのせいか、協力者無しで皇都に来た『人間以外の種族』は嫌がらせを受けたり、最悪冤罪で捕まることもある。いわば皇国の闇……人間の醜悪が垣間見える街だ。
「えぇ〜どうしよう〜ここまで来たのに〜!」
可哀想だが小人の女性が1人でこの街にいるのは、魔獣が蔓延る森よりも危険だ。
「悪いことは言わない。皇都から離れるのが懸命だ」
「そんなぁ……」
あんな喧嘩はしてたとは言え、少し同情する。小人ながらここまで来たのに何も出来ないのはさぞ辛いだろう。
クリスは落ち込んでるマーナを後目にこの場を去ろうとする。
(……俺にだって……計画があるんだ……。)
マーナの悲しそうな声が距離をとるにつれ小さくなっていく。しかしクリスの中にある葛藤は大きくなるばかりだ。
(見捨てるのか?助けられるのに?)
クリスは葛藤を振り払い、
「……何日滞在するつもりだ?」
「えっっ……1ヶ月くらいだけど……」
「なら1ヶ月俺の言うこと聞けるか?」
マーナの顔が一気に明るくなる。
「うん!大丈夫だよ!」
『なんて調子のいいヤツだ』と思いながらも喜ぶマーナを見て、こっちも嬉しくなる。
「俺はやる事が多いから、さっさといくぞ!」
「あぁ!準備バッチリだ!」
でこぼこな相棒が、貴族の街を歩いていく……。
───────────────────────
まず初めにクリス
「なんかここのギルド小さいね〜皇都なのに!」
「『皇都』だからだよ。各機関の施設がしっかりとあるから、ギルドに頼る必要がないんだよ」
「ほぇ〜」
商船護衛の報酬を受け取り、宿の登録を済ませておく。
ギルドを出る前にクリスはあることに気づき、腰の剣に巻き付けてる布をとる。
「あれ〜クリスの剣、綺麗だねー」
「まぁな、貰いもんさ」
この街ではむしろ汚い方が目立ってしまう。騎士や貴族が多いので、騎士の剣を普通に持っていても怪しまれる事は無い。
「有名なクレープ屋がある、まずはそこに行ってみるか!」
「うん!」
まるで休日の父親みたいな事をしているなと感じつつも、仲良く2人並んで街を歩いていく。
「……たっか!」
クレープ屋のメニューを見て驚愕する。昔小さい頃、皇都に来た時は何も気にせず食べていたが、自分で稼ぎ始めたからわかるこの高さ……銀貨3枚だ。
「ひぇ〜皇都の食べ物はこんな高いんだねぇ〜」
「あぁ、ここまで高いとはな」
(確かドンドスで食べたクレープは20銅貨くらいだったはずだ……)
とりあえずひとつだけ買って、マーナと分け合う。
「……上手いねぇ」
「……甘さが染みる」
食べ終わった後は、皇城に向かって歩き始める。
「お城すごい大きいね〜こんなに離れててもてっぺんが見えてるよ〜」
皇城はこの国の中で2番目に大きい建造物だ。至る所に金細工とミスリルが施されていて、国の豊かを城全体が表している。
防衛面も凄まじく。人間程の大きさの魔石を使って防御魔法を常に展開している。設計者いわく、人間で破れる者はいないと謳っているが、真意は分からない。
「入場者でいっぱいだ!」
ちょうど皇帝陛下が各地の巡礼を行っているので普段見れない様な場所も開放されてるせいか、特段人が多い。クリス自身は何度も訪れているため、淡白な反応である。
入場料を払い、大きな庭を眺めながら城の門をくぐる。大広間は昔と変わらず、ミスリルのシャンデリアと初代皇帝の石像、そして国剣が飾られている。赤い絨毯に、金のランプ、ロウソクは一つ一つが薔薇の香りを帯びている。そして無駄に長い廊下には歴代の皇帝の絵画が並べられてる。
「……皇帝……女性しかいないな!」
……この国で国家教としてる『ヘルザ神道教』では、女神ヘルザを崇拝してるため、国の頂点に立つ者も女性が好ましいとされてきている。そして現在に至るまで男性の皇帝は存在しない。
廊下の突き当たりに着くと、遂に一番の大目玉である玉座の広間に到着した。空と見間違える程高い天井と皇都の街を見渡せる大きな窓そして……
「あの玉座?なんか変な光り方してない?」
「あぁあれはな、アダマンタイトでできているからだな」
「えぇ!すご!伝説の金属じゃん、高そ〜」
かつて初代皇帝が建国した際に、ヘルザ教の総本山があるカマストス霊峰から入手して加工したものとされている。皇帝の資格がある者のみ座れ、真に勇猛なものであれば白銀の光を放つと言い伝えられている。
「なんかうさんくさいね〜」
「おい!それここで言うなよ!」
(確かにできすぎた話ではあるがここで言うのはマズイって!)
肝を冷しながらその場を後にする。
─────────────────────
城を出た頃には夕飯が食べれるような時間となっていた。宿に戻る道中で懐かしいレストランを見かけたので、マーナと晩御飯をとることにした。
ここのレストランは貴族の料理を簡易的に再現したものが出される店だ。味は悪くはないが香辛料をケチってるらしく、少し薄味だ。ここもクリスが子供の頃に来た店だ。
……食事を終えて特に感想もなく店を出る。
「まぁ……美味しかったけど、よく分からない料理だったね」
「あぁ、まさか卵から花火が出てくるとは思わなかったよ」
夜道を歩いていると、ふと何かが足に触れる。
「うわ、硬貨袋だめんどくせぇ〜」
「え?なんでめんどいの?くすねちゃいなよ!」
「いやなぁ〜、1度触れると魔力追跡でめんどい事される時があるんだよ。大人しく詰所まで持ってけるかな〜」
……治安の悪い街ではわざと硬貨や金目のものを落としといて、拾った所を脅す犯罪がよくある。放置しても、1度触れてしまえば追われる可能性があるので、とても厄介な犯罪として有名だが……。
「うん。流石に皇都なだけあってただの落し物だったようだな!」
何も無く詰所の前についた。ノックをして扉を開けると寝ている衛兵が受付に座っていた。
「すみませんが、起きてくれませんかー!」
はっとした衛兵が起き上がり、クリスに声をかける。
「うぁ?何ですか〜事故?火事?」
「いや落し物ですよ」
「なんだァ〜そんな事か。じゃそこにサインしといて」
「衛兵がそんなんで大丈夫なんですか?」
「この街に住んでるやつはみんな真面目なの。だから暇でしょうがないんだよ〜」
(一理あるが、俺たちの血税で働いてるんだからもう少し真面目にしろよ……)
衛兵の態度に不満を持ちつつも、詰所を後にして宿に向かう。
「衛兵なのに弱っちく見えたな!あれなら私でも倒せそうだ!」
「やめとけ、皇都の兵はもれなく全員魔闘剣士のエリートだぞ。マーナなんか近づく前に消し炭になるよ」
「ひぇぇ〜マジですか〜。くわばらくわばら」
そうこうしているうちに、ギルドの宿についた。安いだけあってだいぶ混みあってはいるが、民度が良いためか、すんなり部屋に行けた。
広い部屋だ、皇都でこんな快適な宿に泊まれるのはそうそう無い。ベットもいいし、臭くもない、良い睡眠ができる……はずであった……。
「いい部屋だねぇ〜」
「なんでお前と一緒の部屋に……」
受付が言うには、団体利用している客が『モスゴケカエル』をうっかり手放したせいで、そこらじゅうコケだらけになったから、部屋を絞ったらしい。
「別にいいじゃん〜。冒険者同士なら当たり前のことだよ〜」
「……」
クリスが気にしてるのは、ウザイからでは無い。マーナが小人族とはいえ、女性だからである。腐っても紳士な心は忘れてないので、ひとつ屋根の下に男女が一緒にいることに不安を持っているのであった。要するにむっつりである。
「……俺はそこのソファで寝るよ……」
「なんでさー。私小柄なんだらかスペースは余ってるよ〜」
「……いや心のスペースが……」
普段からは考えられない程のか細い声で喋る。
「……?」
マーナ自身はよくわかってないのが救いだが、クリスの心は大荒れだ。
「まぁ…クリスがしたい様にすればいいさ!あんたのおかけで
「それは……良かった」
ソファに深く腰をかけて、窓の外をじっと見続ける。月明かりと街灯が皇都の夜を彩り、皇城の明るさはまるで第2の月と思わせるほど美しく輝いている。
「そういえばクリスはさー、召喚の資格を取りに皇都に来たんでしょ?」
「そうだよ。ただ資格を取る前に、師匠の所へ会いに行こうと思っていたんだよ」
「どんな感じの人?」
「ん〜…あった方が早いかも…」
(師匠……家を勘当された俺を弟子として見てくれるかどうか…。)
貴族の息子として弟子をとっていた
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