第14話:地下2階報告
地下2階の地図もスタート地点から伸びる通路とその左右のエリアが埋まった。まだ埋まっていない部分に関しては、今後ダンジョンが開放されてから訪れる冒険者たちに任せることになるだろう。クリストたちは2階の調査で得られた成果をギルドへと持ち帰った。
遭遇した魔物は次のとおり。ラットが2体、ジャイアント・ラットが2体、バットが6体、ジャイアント・バットが1体、シュリーカーが1体、アニメイテッド・アーマーが1体、フライング・ソードが1本、マーマンが2体。その他に戦うことはしなかったがマイコニドの幼体が2体だ。
全部で倒したものが16体だった。
地下2階を踏破したわけではなかったが、遭遇した魔物の数自体は1階を超えている。しかも脅威度が明らかに高い魔物が含まれていた。
もしかしたら2階は低ランクの冒険者では探索できる範囲が狭くなるかもしれなかったが、まだ未踏破のエリアが残っているので、そこを加えれば2階も十分な広さがあるのではないかと考えられる。
一方通行の扉や強力な魔物のせいで苦労を強いられたが、まだ開けていない扉が1カ所残っているのだ。実際にはその先が広い、そういう可能性もあった。
「ラット系にバット系ですか。ここは1階と比べてそこまでではないですね。ただこの、アニメイテッド・アーマーやマーマンに関してはちょっと。これは場所によって難易度に大きな差があるということかもしれません。注意事項として加えておきましょう」
「とにかく左側は駄目だな。脅威度が違いすぎる。2階に普通に立ち入るレベルのやつらが行くところじゃない」
「そうですよね、分かりました。そう通達します。左側は少なくとも最初の部屋を突破できる自信のある冒険者に限りましょう」
「あとはマーマンなんだが、こいつは何だった?」
「えーと、クオトア、というようですね。取ってきていただいたエラの鑑定結果が、クオトアのエラとなっています。さすがにそれ以上は分からないようですね。いつか丸ごと持ち帰っていただけるような依頼を出してみたいものです」
「クオトアね、聞いたことのない種族だな。まあマーマンと言ったところで土地土地で名前が変わったりするし、考えたところで仕方ないか」
採取物、拾得物は次のとおり。マイコニドのエリアの土、マイコニドのエリアの切り株のコケ、クオトアのエリアの水、フライング・ソードを倒した結果その場に残った剣、下がる天井の部屋の宝箱から出た人形、クオトアの持っていた槍、ハサミの付いた棒、不思議なつぼ、薬瓶、宝石7つだ。
採取物が得られたのは2階が初になる。物にもよるだろうが、これ以降の階で採取地点が見つかる可能性が出てきたと言えた。
そして武器を持っている魔物というものが複数現れた結果、それらが落とした物が戦果として得られたということも上げられる。これもまた今後道具を使う魔物の出現、マーマン以外の人型の魔物の出現があるであろうということを想像させた。
「土は普通のものですね、栄養価は高いようです。そしてコケですが、ジャゴケというそうですが、これは食用可とありますね。ただし良く洗い煮沸消毒すること?」
「へえ、野草をその辺で取って食べるのと同じだな」
「そうなんですか?」
「何だあんた、料理はしないのか? 割とあるもんだぞ、洗って煮ろってのは」
料理の仕方をクリストから聞いたモニカが、分かったような分からなかったような顔で眼鏡の縁をくいっと動かす。これは分からなかったということか。
「‥‥そうなんですね‥‥、えーと? 水も普通の水ですね。ただしダンジョンのちりやほこり、クオトアがもたらした汚れによって飲用には適さないとあります」
「まあそれはそうだろう、あれを飲もうとは思わんよ」
土や水といったものにも意味はあったということだけは確定した。今後も別の場所で採取できれば、それはそれで別の鑑定結果が出るかもしれない。
「フライング・ソードは、ロングソード+1? え、何ですそれ。普通のロングソードではなく? +1というのは何でしょうか、えーと? 攻撃時にボーナスが加算される?」
「へえ、そういうものがあるのか。あれだろ、ロングソードのダメージに+1、そういうことだろう」
「なるほど? え、それは強いのではないでしょうか?」
「強いな。まあそのボーナスってのがどの時点で加算されるのかってのは問題だろうが、防御されたとしても通るボーナスだったら破格だぞ」
単独で飛行するような特別な能力は消えてしまっていたが、十分に価値のある武器だろう。通常のロングソードよりも効果があるということがこの鑑定結果で確定したのだ。どの程度の効果かは今の時点では確定していないが、それでも欲しいという引き合いは確実に見込める。
「これはどこかで実験をしてみたいですね‥‥さ、次ですが、この人形は黒めのう製のドゥニャイェーレナドゥザーリャの人形。へえ黒めのうですか、いいですね。それでドゥニャイェーレナドゥザーリャって何ですか?」
「知らないな。聞いたこともない。このザリガニか? みたいな頭のこいつのことなんだろうが、こんなもの見たこともないぞ」
黒めのうの価値以外の評価が難しかった。何しろ見た目がザリガニのような頭部と手を持った人形なのだ。これを欲しいと思えるかどうかは何とも言えないだろう。
「私もないですね、ちょっとこれも保留にしておきましょう。人形としては本当に普通の人形のようですから、昨日の杖と一緒にこのダンジョンで出たものっていうことで飾っておきます。それで次ですが、そのクオトアの持っていたという武器ですね」
「ああ、槍の方は見ればまあ分かるんだが、この棒の方だな」
「槍は普通のスピアですね。本当に普通。ギルドの予備武器とでもしておきましょうか。それからこちらは、ピンサー・スタッフ。エビやカニのハサミ、あるいはくぎ抜きのような形をした挟むもの、ですか。え、そんな説明が出るんですか?」
「やっぱり挟むことを目的にしたものなんだ。本当ならこれでクリストを捕まえたかったんだね」
「そういう使い方だったからな。まあ見た目のとおり、使い方どおりのものだったってことだ」
ピンサー・スタッフの鑑定結果によってクオトアの戦い方の一つが確定することになる。槍やこの武器をどのレベルの個体が持っているものなのかは、今後クオトアとの遭遇が増えれば分かっていくことだろう。
「このつぼはすごいですね。アルケミージャグというそうです」
「アルケミー? てーと錬金術関係か?」
「そこまでは何とも、ですが使い方は分かりました。魔石に魔力を込めることで本当に水で満たされるそうです。満たすのは真水か油かビールである。え、ビール?」
途中まではしっかりと読み進めていたモニカがビールと読みながら目を鑑定結果に近づけて再確認する。水や油にはそれほど興味はなかったがビールは違うということだろう。
「マジか、それはいいな」
「あ、でも制限が結構ありますね。1日1回限り、一度使うと次は夜明けまで待たなければならない。魔石の交換はできない。魔石の含有魔力を使い切ってしまったらこのつぼは割れるそうです」
「そうか‥‥いや、それでもかなりいいんじゃないか?」
「すごいね、少なくともこの魔石の数だけ使えるんでしょ? かなりいい物に思えるね」
制限があるとはいえ毎日一度は確実に水か油かビールが手に入るということだ。これは持っていて損のない道具だろう。
「薬瓶は、ああ、ヒーリング・ポーション、通常回復薬、となっています」
「来たな回復薬。赤いからそうだろうとは思ったが。これで1階でも2階でも薬瓶が出たのか。これは今後も出るだろうな」
あって困ることのまったくない回復薬だ。いくら出てもらっても構わない。
「最後に宝石ですが、これもいいですね。ブラッドストーン、アクアマリン、ひすい、トパーズ、こはく、真珠、黒めのう。大きさもそろっていますしセットで売ってもいいかもしれません。かなりの金額になるでしょう」
「やっぱり当たりだったわね。きれいだものね」
「そうですね、地下1階で1つ出たものは原石で、磨かなければ宝石としては使えないだろうというものでした。それがこれだけ完全な形で出るとなると、やはり素晴らしいですよ」
宝石はいいものだ。確実に需要があり、買い手もほぼ決まっていて、価格もほぼ決まっていて、すぐに売ることができる。ギルドとしてはこういうのでいいんだという気持ちも多少持ちたくなるような分かりやすい宝だった。
素晴らしい成果だといえるだろう。
これでまだ地下2階なのだ。しかも2階にはまだ3分の1程度は未踏破のエリアが残っていると予想されている。そこの探索が進めばもっと宝箱が見つかるだろう。
問題になるのは左側のエリアだが、それは基本的には封鎖ということにしてしまえば良かった。2階に立ち入るレベルの冒険者には進入禁止、それ以外の行けるだろうと判断した冒険者に許可を出せばいい。
ただ罠の数や種類に関しては少し気になった。下がってくる天井、威力が制限されていたとはいえ攻撃のための魔法、飛び出す槍にダーツ。直接ダメージを与えてくる罠が一気に出てきた印象を受ける。しかも通路上だけでなく宝箱にも罠が見つかっている。2階でこれであれば今後確実に扉にも罠が見つかるだろう。
まだまだダメージ自体はそこまでのものではないのだが、それでも脅威ではあった。特にこのダンジョンにまだ慣れていない冒険者も多いだろう階層でこれだと、回復手段を持っていなければならない事態が発生しやすくなる。注意喚起と事前準備が必要だと考えられた。
通常の場所での魔物の脅威度がそこまで高くないことは救いではあったが、シュリーカーとバットの組み合わせなど、気になる点は他にもある。いずれにせよ、これでまだ地下2階だった。分かっているだけでもこのダンジョンには地下10階まではあるのだ。これは十分に素晴らしい成果だと言えた。
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