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視界左上に固定表示されている細い
横線──
敵の剣が再度の
「はっ…………」
無理やり大きく空気を
当然だ。
たとえ、俺が見ている
その意味では、この
──いや。
いま、あのトカゲ人間を動かすAIプログラムは、俺の戦い方を観察し、学習して、対応力を刻一刻向上させている。しかしその学習データは、いまの一個体が消滅した
だから、ある意味では、あのトカゲ男も生きている。世界に唯一無二の存在として。
「……だよな」
俺の
現実だ。この世界の全ては現実。仮想の
俺は、右手に握った片手用の
リザードマンも、左手の
「ぐるあっ!!」
しかし、俺はその攻撃を先読みしていた。
そうなるように、わざと間合いを広く取り続け、敵のAI学習を
「……せあっ」
掛け声とともに、右手の剣を真横に切り払う。水色のライトエフェクトをまとった刃が
しかし俺の剣はそこで止まらない。起こしたモーションに従って、システムが自動的に俺の動きをアシストし、通常では有り得ないほどの速度で次の一撃へと
これが、この世界における
左から右へと跳ね戻った剣が、再度トカゲ男の胸を切り裂く。俺はそのままぐるっと体を一回転させ、三撃目がいっそう深く敵の体を
「ウグルルアッ!!」
リザードマンは、大技を空振った後の硬直が解けるや
しかし、俺の連続技はまだ終わっていない。右に振り切られた剣が、バネに
計四回の連続攻撃によって、俺の周囲に正方形に描かれた水色の光のラインが、ぱっと眩く拡散する。水平四連撃ソードスキル、《ホリゾンタル・スクエア》。
鮮やかなライトエフェクトが、迷宮の壁を強く照らし、薄れた。同時に、リザードマンの頭上に表示されるHPバーもまた一ドット余さず消え去った。
長い
ガラス
これがこの世界における《死》だ。
視界中央に紫色のフォントで浮き上がる加算経験値とドロップアイテムリストを
詰めていた息を大きく
視界右下に小さく光る時刻表示は、すでに午後三時を回っていた。そろそろ迷宮を出ないと、暗くなる前に街まで戻れない。
「…………帰るか」
一日分の《攻略》の終わり。今日もどうにか死神の腕をすり抜けて生き残った。しかしねぐらに戻り、短い休息を取れば、すぐにまた明日の戦いが訪れる。いかに安全マージンを取っていると言っても、勝利率が百パーセントではない戦闘を無限回続ければ、いつかは運命の女神に裏切られる時が来るはずだ。
問題は、俺がスペードのエースを引き当てる前に、この
生還を最優先と考えるのなら、安全圏である街から一歩も出ず、ひたすら誰かがクリアしてくれる日を待つほうがずっと利口だ。しかしそうせず、毎日最前線に
かすかな
二年前。
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