第3章21 『苦戦』
鞭による変幻自在な攻撃に、水樹は苦戦を強いられていた。
赤猿の使用していた棒のような長さが固定されているものであるならリーチは予測しやすい。しかし、鞭に関しては長さ以前にうねりくねりで読みづらいのだ。
また、ただ打ち付けるに留まらず、巻き付けて引くなどの搦め手も豊富であり、正しく蛇のような戦い方と言える。
「勢いが衰えているよ! さあさあ、ボクに君の――彼女が見たと言う輝きを見せてくれ!」
声高らかに、そして上機嫌に水蛇が叫ぶ。
チラリと水樹が朱華へと視線を向けると、其処には赤猿の姿があった。
(手助けする気は微塵も無いか)
はじめからそういう話になっていたので、今更驚く事でもない。しかし、やっぱり助けてほしかったと水樹は思ってしまう。
とは言え、これは水樹が選択した戦い。最後まで責任は負うべきだろう。
右手の波斬をギュッと握り締め、地を蹴り飛び出す。
鞭による攻撃は回避する。波斬でいなそうにも、そうしなければ絡め取られてしまい兼ねない。
ガラス釘は致命傷以外を、汞の刃は確実に、回避か斬り捨てる。
(3つの事を同時に……マルチタスクか)
所謂、マルチタスクを難無く実行している水蛇に敵ながらに水樹は舌を巻く。
しかし、怖気づいてしまうワケにはいかない。水樹は何とか水蛇へ接近を試みるが、鞭の範囲内へ踏み込む事ができずにいた。
「どうしたのかな? それではボクに傷1つ負わせる事もできないよ」
水蛇の挑発を聞き流しながら、水樹は攻撃を躱し凌ぐ。そして、一瞬の隙を見つけ出し、踏み込んだ。
「へえ、やるじゃないか!」
鞭による攻撃。
水樹は絡め捕られないように刀身で弾く。
斬れ味の良い刃ではあるが、同じ神力より顕現された神具故に斬れる事無く金属同士のぶつかり合ったような甲高い音が鳴り響く。
「君の仲間である赤猿は介入しないようだが、仲間割れかな?」
「アイツは元からそんな奴だよ。利害の一致で協力していただけだ。何よりもこの戦いは俺が始めたものだ」
「神でもない君がボクにどれだけ喰らいついて来れる?」
水蛇の余裕は崩れない。
事実、水樹の体力の消耗は激しく呼吸も徐々に乱れつつある。対して、水蛇は特に疲れた様子はない。そもそも神に疲労という概念があるのだろうか?
「さあ、疲労も溜まってきたかい? あとどれだけ動ける?」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる水蛇。
水樹としてもこのままではジリ貧である事はわかっていた。
(――此処は一気に仕掛ける)
意を決して水樹は突貫する。
鞭をいなし、弾き、波斬の間合いに入るまで一気に近づく。
「ほう?」
構えた状態であとは降り抜けば水蛇へ一撃を与えられる。
「取った!」
「残念ながら無駄だ」
刃が水蛇へ――しかし、刀身は薄い膜によって阻まれる。
「なっ――――⁉」
「神力の強弱によってこういった芸当もできる。君の神力はボクには及ばないのさ」
水蛇の鞭に足を絡め捕られる。
「しまっ――――」
「吹っ飛ぶといい」
そのまま水樹は大広間の壁に叩きつけられた。
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