魔力は神の愛の中に~白い螺旋階段、紫の回廊~

たみやん

第1話  魔力は神の愛の中に


「...」。


「...」。


魔法と神の信仰が交錯するポンズ王国。


その王国の都市に存在する大聖堂で一人の男性と一人の女性が、巨大な白い石彫刻で制作された神像の前に跪いていた。


両指を組んで神に祈りを捧げている男性は銀の鎧と白いマントを身に纏い、いかにも兵士という出で立ちであった。


もう一人の女性は黒い清楚なロングドレスと黒の頭巾を身に纏った修道女のような格好をしており、男性と同じく神に祈りを捧げていた。


祈り終えた二人は閉ざしていた両目を開けてゆっくりと立ち上がった。


「...」。


兵士らしき若い男性は目の辺りに手をかざし、礼拝堂の窓から差し込んでくる光を遮った。


光に反射されて輝く茶色いウェーブのかかった短髪を掻き上げ、彫りが深いその男性は凛々しい表情で共に祈りを捧げていた女性に澄んだ茶色い瞳を向けた。


長身で体格の良い男性に対し、小柄で愛らしい見た目の女性は琥珀色の瞳で男性を見つめ返し表情を綻ばせた。


「ミュージー、大聖堂での礼拝は久しぶりだったよね? 」。


女性がそう問いかけると、ミュージーと呼ばれている男性は苦笑いを浮かべて表情を崩した。


「僕は定期的に用事があるから、ちょくちょく礼拝堂で神様に祈りを捧げているよ。今日はどっかの誰かさんが寝坊したから、たまたま一緒だったのかもしれないけど...ね」。


ミュージーが悪戯っぽくそう言って含み笑いをすると、女性は不満げな様子でしかめ面をした。


「昨日、私は夜遅くまで演劇のお稽古をしてたんですぅ~! ただ夜更かししてたわけじゃないんですぅ~! 」。


「その告解こっかいは僕じゃなくてアングリー神官長にしたまえ、ブリッジ修道女」。


ミュージーが呆れ気味にそう答えると、ブリッジと呼ばれている女性は頬を膨らまして怒った様子を見せた。


「告解じゃないですよぉ~だっ! ただの言い訳ですよぉ~だっ! 」。


「開き直るなよ...」。


ミュージーが肩をすくめながら溜息をついていると、白い祭服を纏った坊主頭の男が二人の下に歩み寄ってきた。


「おはようございます、アングリー神官長」。


ミュージーはアングリー神官長に挨拶をしながら深々と一礼した。


「おはよう、ミュージー君とブリッジさん」。


アングリー神官長も笑みを浮かべながら挨拶を返した。


「お、おはようございます...。す、すいません...。度々、礼拝に遅刻してしまって...」。


ブリッジは罪悪感にさいなまれている様子でおずおずとアングリー神官長にそう挨拶をした。


アングリー神官長はそんなブリッジの様子を察すると苦笑いを浮かべた。


「ブリッジさん、昨日は夜遅くまでお疲れ様でした。最近は修道院内での従事と外部の御仕事で大変だと思いますが、御自愛くださいね。人間は身体が資本ですから」。


「は、はいっ! 」。


ブリッジはアングリー神官長から労いの言葉を受け取ると、安堵したように強張らせていた表情を多少和らげた。


「さて、今度は私も御一緒して神様に感謝の祈りを捧げましょう」。


アングリー神官長は二人にそう言うと、その場で自身の両指を組んで両目を閉じた。


「...」。


ミュージーとブリッジもアングリー神官長に続いて再び両目を閉じ、神に祈りを捧げる準備を整えた。


「主よ、ミュージー君は聖堂内の児童養護施設でたくましく育ち、王国軍の士官学校を主席で卒業されました。そして、少尉になった彼は王国配下の特殊治安部隊の一員として、この先王国のために尽くされます。ブリッジさんは激務の中で女優や歌手として舞台で活躍され、国民の皆様に笑顔と幸せを届けるために日々奮闘されております。どうか、品行方正で若い二人、そして民を御護りください。“魔力は神の愛の中に”」。


「“魔力は神の愛の中に”」。


アングリー神官長による神への祈りが終わり、ミュージーとブリッジはゆっくりと両目を開けた。


「それじゃあ二人共、皆さんのところに行きましょうかね」。


「はい」。


ミュージーはそう答え、ブリッジと共にアングリー神官長の後についていった。

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