人前でなら
ミリアはとても戸惑って、悲し気に涙を流す。
それはそうだろう、大好きだと告げて、結婚を申し込んだ僕が、初夜に口づけ1つでそれから何もしない。
逆の立場だったら、僕は我慢できない。それなのに、君は待っていてくれる。
分からないんだ、どこまで君に説明してもいいのか、しばらく抱けない、とか、少し待ってとか、その一言ですら契約完了を遅らせてしまうのではないかと思って、何一つ安心させる言葉をかけられない。
僕はこの地獄をひたすら耐える。
ミリアに、僕が彼女を抱かない理由を説明できない。
この状態がいつまで続くのか分からない、終わりが見えない。ああ、いつまでなのかさえ分かれば、もっと楽になれるのに。
そして、僕を最も苦しめるもの。
「1回か2回なら大丈夫」
このパリーバルバルの言葉を聞いてしまったことだ。
1回でも抱いたら、ミリアが死ぬのなら、僕はきっと覚悟を決められる。
ああ、それなのに……
ミリアの柔らかな髪に指を絡ませて、口元に寄せてくらくらするいい香りを楽しむ時。
ツルツルした頬を人指しゆびで、くるくると輪をかいて触る時。
優しく抱きしめると、ミリアが僕の胸にすりすりと額を擦り付けてくる時。
そうしてあの、この世で一番可愛い唇にキスをする時……彼女はイチゴジャムのように甘い。
すぐに夢中になってしまう。もっと、もっとと求めてしまう。
大好きな黒い瞳が、僕をうっとりと見つめて……ディルクと名を呼んで……
もう言い尽くせないほどの愛しい瞬間に、僕は彼女の全てが欲しくなる。
耐えろ、耐えろ、今は駄目だ。
そう言って聞かせるのに、腹の下のほうからささやく僕がいる。
「1回だけならできる」
理性がいつか負けてしまう気がする。
結婚してもうすぐ2年……
ミリアは僕の名前を呼ばなくなった。どんなにお願いしても旦那様という。
不安でどうしようもなくなる。ミリアが僕から離れてしまう。
ミリアだけが好きなんだ。それなのに君を傷つけている。
どんなに悲しい思いをさせているだろう。
二人でいたら、僕はもうどうなってしまうか分からない。君の涙を見たら、理性が吹っ飛んで奪ってしまうかもしれない。怖くてたまらない。
人前でなら、僕はきっと理性を保てる。
だから許してミリア、どうしても君に触れたいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます