学校一可愛いシンデレラが俺にオタクだとバレてから急に態度を変えてきた件
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第1話
皆はシンデレラを知っているだろうか?
まあおそらく知らない者はほとんどいないだろうが、一応簡単に説明しておこう。
シンデレラとは知っての通り超有名なおとぎ話であり、哀れな扱いを受けていた主人公の少女がある一夜の奇跡から運命的な出会いを果たす、というなんともロマンチックな物語なのである。
唐突だが、そんなシンデレラがうちの学校にもいる。ただしおとぎ話のようなシンデレラではない。どこにでもいる一般的な女子高生なのだ。
それは彼女の特徴的な髪色と人並外れた美貌を除いて話だが。
母親が北欧出身の家系らしく、淡い灰色、それでいて少し青みがかった髪色をしている。まるで燃え残った灰のような髪色。
だからシンデレラ(灰かぶりの少女)。
そして忘れちゃいけないのが彼女が超美少女であるという点だ。きりっとした目元に水色の瞳、を筆頭にどこをとっても一級品の顔。正統派美少女というところなのだろう。
ただ、その秀麗な顔の中でひとつ気になることがある。
いつも何かを語りたそうにしている口元。
この学校のシンデレラ(灰かぶり少女)である彼女、白石怜奈は 学校一の人気者であり、いつもクラスメイトの輪の中にいる。 そんな状況でも彼女の口元はいつも寂しげだ。
これは彼女の秘密についての物語である。
*****
俺、大宮祐太は生粋の根暗オタクだ。
小学、中学と勉強、部活、なども特に熱心に取り組むことはなく、自分の趣味に時間を割いてきたことで自然と人との関わりが減っていた。
別に他者との関わりが苦手なのではない。趣味の範囲でなら全く問題なく交流できるのだ。
ただ、それ以外の場所では、まったくと言っていいほど会話ができない。典型的な奴だ。
俺は別にそれが辛いとは思っていない。いや、正確に言うと辛いと思うのをやめてしまったのだろう。
いつものようにそんなことを考えていると俺のもとに見慣れた顔がやってきた。
「おはよ、祐太」
「ああ、おはよう智哉」
こいつが俺の友達と言っていい唯一の存在、篠月智哉。
オタク気質は俺と似ているが、俺との違いといえば他人との交流を得意としているところだろう。いわゆる社交的オタクというやつだ。
「そういや智哉、お前明日から放送の『シンデレラ・リベンジ』観るか?」
「当然だろ、今季の覇権枠だぞ。原作もなかなかに良かったし。間違いなく映画化まで行くだろうな」
『シンデレラ・リベンジ』、今季のアニメで俺が最も注目している作品だ。
異世界転生してシンデレラになった主人公の元おっさんがガラスの靴を見つけられなかった王子様と結ばれるために貴族を目指し、最終的にいじめていたおばさんにざまぁする。
という一見とっ散らかった設定に思えるがこれが案外いい具合に各キャラが立っていて人気になり、幾度の重版を経て、ついにアニメ化を果たしたのだ。
「まあ祐太がそこまで言うんだし、俺も原作読んでないけど観てみるとしますかねー」
「観たら感想聞かせろよ」
「ああ、もちろんだ…っとそろそろホームルームが始まる時間だな。
…にしても白石さんの方はまだ席につけるような状況じゃないみたいだが」
「らしいな、こっちのシンデレラも大変だ」
ホームルームが始まる3分前だというのに白石さん、もといこの学校のシンデレラは大勢のクラスメイトに囲まれて席に戻れず、苦笑いを浮かべている。
「白石さんって趣味とかあるの?」
「確かにー、まだ聞いたことなかった。どうなの?白石さん」
「こんなに肌きれいで髪もサラサラなんだもん、美容とかだったりするんじゃない?」
マシンガンのように繰り出される質問に白石さんも若干押され気味だが天使のような笑顔は保ったままだ。
いやはや大したもんだな。
「ええと…特に趣味と言えるものはないんですよね、私」
「え!? そうなの? めちゃくちゃ意外なんだけど!」
囲いの面々はその答えに驚く。
だが俺はそこで違和感を覚えたのだ。
それはまるで彼女が何かを隠しているような……
「よーし!! みんな席につけー!!」
そんな思考を巡らせていると先生が勢いよく教室に入ってきた」
白石さんを囲んでいたクラスメイトたちは残念そうに席に戻っていく。
「じゃ、俺に席に戻るわ」
「ん、またあとでな」
そう言って智哉は先に窓側にある自分の席へと戻っていった。
白石さんはクラスメイトににこやかに手を振りつつ、先生の方に目をやっていたのだが、ふいにその延長線上にいた俺とも自然に目が合った。
さすが白石さん、俺みたいなやつにもすぐに表情を驚きから微笑みへと変えてくれる。
それでもその口元だけは普段友達と話している時と同じ、何かを打ち明けたそうにしているものだった。
*****
「ふぃー、やっと解放だあ……」
退屈な授業が終わり、ここからは夢の放課後の始まりだ…と幸福を感じていたところに智哉がやってきた。
「おつかれー智哉、放課後空いてんなら、夢の地へ行こうぜ。
っていってもどうせ空いてるから聞かなくてもいいか」
「うっせ、それより今日は部活じゃなかったか?」
そう、この男は部活に入っているのだ、それも野球部で練習はなかなかに厳しくオフの日はなかなかない。
「ああ、そうだったんだけどなんか昨日の夜の大雨でグラウンドが大変なことになってるっぽくてさー。それでオフになったわ」
「なるほどな、それじゃ行くとするか。夢の地へ……!」
というわけでやってきた我らが夢の地。
「ふむふむ、今月のスモーカー文庫もなかなかの豊作ですな~」
「おい祐太! それ見てないでこっちのやつ見てみろよ! 表紙の女の子の〇〇〇〇(自主規制)えぐいぞ!」
書店のラノベコーナーである。
となりの男、もといサルはそっち系の表紙を見て大興奮しているようだが、俺違う。たかが〇〇〇〇なんかでラノベの良さを評価したりなんかはしない。
大事なのはストーリーラインがしっかりしているかだ。まったく、この男はなんて愚かなんだろうな。
「確かに○○○○やばいな! ここのラインとか〇〇すぎだろ! 智哉、これは”買い”だぁ!」
わかってる、自分でもわかってるよ。しょうもないってことはね。
でも男に生まれた以上はこの本能に逆らうことなんてできないのだ。
そんなこんなで合計8冊ものラノベを手にしてレジに向かう俺たち。
我ながらなかなかの良作を選ぶことができたのだが。智哉が3冊で俺が5冊、どうやら今月はなかなか豊作なようでいつもよりも購入数が増えてしまった。
「5768円になります」
わかってはいたが高校生にはなかなか厳しい金額。
俺の今月の財政状況はかなり苦しいものになる見込みだ。
そういうわけでほしい品を購入したわけだが俺にはまだやることがある。
「祐太、あそこで撮ったらどうだ?」
「ああ、良さそうな場所だな」
智哉が指をさしたのが書店の窓際にある机付きの小さな休憩スペース。そこに智哉にも手伝ってもらいながら本をきれいにカメラに収まるように並べていく。
そうして今日購入した本を写真におさめたあと、俺はスマホを開き目的のアプリに画像とともに、
”今回新しく購入したラノベたちです!! レビューは今週末あたりに投稿します。それと”今度”紹介する本も別で買ってあります!!”
そんな言葉とともにネット上に公開する。
見ての通り、俺は実はネットでそこそこ名の知れたラノベレビュアーをやっているのだ。
ユーザー名は【ラノベ村】でフォロワー数は5000人。もちろんラノベの無断転載なんかはやっていない。
そんな俺は今週末小規模のラノベオフ会を開くことになっている。
「ただいまー」
あれから智哉とゲーセンやらコンビニやらに寄って帰ると、時刻はもうすでに7時を回っていた。
「おかえり! お兄ちゃん!」
走って出迎えてきたのは揺れるツインテール……ではなく我がかわいい妹、今年小学校に入学したばかりで、まだまだ生粋のお兄ちゃんっ子である。そしてその後ろから母さんが出てきた。
「お帰りなさい智哉、ご飯は外で食べてきたの?」
「いやまだ、これから食べるよ」
ほのかにカレーのにおいが漂ってくる。どうやら夜ごはんはもうできているようだったので急いで2階の自分の部屋に荷物を置いてくることにした。
夕食に風呂に歯磨き、と一通り終わり、現在俺は自室で今期のアニメの総復習中だ。
近頃はだいぶラノベ原作の作品も増えてきているのはいい傾向だ。
「そういえばさっきの投稿はどうなったかな……」
だいぶ時間もたったことだし投稿についた反応を見てみることにする。
”今月はマジで豊作っぽくて楽しみすぎる!!”
”週末のオフ会絶対行きます!!”
”ラノベ村さんのおすすめで外れ引いたことないから全部買っちゃおうか迷ってる……”
そのほかにもいろいろな反応が来ていたがまとめるとこんな感じだ。その中でも週末のオフ会に関するコメントが多かった。
「オフ会ゼロ人にならなくてよかったな」
実は今回のオフ会開催が初なのだがやはり最初は緊張するものだ。初開催が参加者ゼロなんて俺だったら気を失ってしばらくうなされるレベルだろう。
「まあいらない心配をしても仕方ないか」
週末への期待を込めてその日は眠ることにした。
*****
その週の金曜日の放課後。
「それじゃあ皆、今週もよく頑張ったな。来週に向けて土日はゆっくり休んで、部活があるものは精一杯練習するんだぞ。それじゃあこれで帰りのHRを終わりにする」
長い長い一週間から解放された生徒たちはみなその喜びから顔をほころばせている。もちろん俺もだ。
明日に迫ったオフ会のことを考えると居てもたってもいられない気分だ。それにしても布教するために持っていく精鋭たちを決めるのに実に迷う。
なんて迷いながら下駄箱まで行くとそこには白石さんの姿があった。肩に少しかかるくらいの髪をハーフアップにした彼女はちょうど靴を履き替えているところのようだった。
それにしても横顔だけでも見惚れてしまうその姿に思わず息を呑む。
「どうしようか、これは声をかけるべきなのだろうか……?」
彼女なら喜んで挨拶に応じてくれるだろうというのに、やはり憎き自分の性格が邪魔をしてひよってしまう。
「大宮君じゃないですか。今帰るところですか?」
逡巡している間に彼女から声をかけられてしまった。俺はなんて肝が弱いやつなんだろうか。だが我が学校のシンデレラに声をかけられた以上は男としてダサいところは見せられない。
そう誓って言葉を返すのだが。
「あ、うん。そう、今帰るところ」
この有様だ。
「そうなんですね。私もちょうど帰るところだったんです。少しお話しませんか?」
「え、ああ、もちろんいいよ」
「大宮君は週末する予定とかってありますか?」
一瞬彼女からのお誘いかと思ったがすぐにそんなわけないと切り離す。
「まあ、あるっちゃあるけどどうして?」
「大宮君のような方が普段週末なにをしているのかが気になって。ほら、大宮君はあまり他の人に自分のことを語りたがらないでしょう?」
まあ俺と彼女の間に接点がほぼないため俺がオタクだと知らないのも無理はない。
「できたら大宮君ともお話ができればいいなと思うので教えてもらえませんか?」
「週末はラノベとかアニメ見て時間つぶしてるかな。俺ってオタクだからさ」
その言葉を聞いた彼女の表情が少しだけ変わった。というよりは距離感が変わったという感じだろうか。
「そうなんですね、ラノベとアニメですか。少しだけ大宮君のことを知れてよかったです」
「そうえ言ってもらえると嬉しいけど。その辺ってあまり万人受けする趣味じゃないからさ」
「私はそうは思いませんよ。誰しも趣味はあるものです。それを否定することに意味はありません」
「そうかも、ありがとう。そういえば白石さんは趣味とかってあるの?」
クラスメイトがしていた質問をあえてもう一度投げかけてみる。
「……いえ、私に趣味はありません」
あの時よりも長い沈黙の後、同じ答えが返ってきた。
「そっか、まあいつか趣味はできると思うし……」
俺が話をまとめようとした時…
「ですが……趣味とは言えませんが好きなことはありますよ」
そう言ってどこか嬉しそうな顔で微笑んだ。
「今日はお話してくれてありがとうございます。とても楽しい時間でした」
そのあとは彼女のその顔が帰る途中ずっと頭の中に残って離れなかった。もちろんかわいいのは当然なのだが。
少しだけ彼女との心の壁が取り払われたような心地がしたのだ。
*****
「……いよいよこの日がやってきたな」
現在時刻は午後1時ごろ。意気込む俺がいるのは家から少し街中にあるファミレスの大型の個室の中。
今日のラノベオフ会の参加人数は約20人といったところ。2,3人の誤差は出るかもしれないが、事前に店には伝えてあるので問題ない。
一息先についた俺は参加者が来るのをソフトドリンクを飲みながらゆっくりと待つ。
募集方法はだれでも参加できるものだ。なので自然と今日参加する面々は、俺のネットでよく交流する人たちというわけではなく、純粋に初対面のラノベオタクたちになる。
「やっぱり直前になって緊張してきたな」
いくらオタク同士では饒舌になるとはいえ、初対面は当然緊張する。そうに決まってる。
なんて言い訳を考えていると個室の扉を叩く音が鳴った。
今オフ会で第一号の参加者に心を躍らせながらどうぞと言って迎え入れた俺は……
思わず飲んでいたソフトドリンクを噴き出してしまった。
「え……?」
「へ……?」
お互いに間の抜けた声が出る。もちろん驚きはしたのだが、それ以上に驚いていたのは相手の方だった。
当然だろう、現れたのは見慣れたハーフアップの灰色の髪の少女。
そう、我が校のシンデレラである白石さんだったからだ。
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