Replace《リプレイス》 〜だったら復讐から始めましょう〜
涼月
第1話 裏切り
都内在住、在勤のどこにでもいるようなOL。
それでも、私の人生、けっこういい線いっていると思っていた。
あの日、ホテルへ吸い込まれて行く彼氏の背中を見つけるまでは。
私のよく知る後輩と身体を寄せ合って親しげに話す様子は、一夜の関係とは思えない。
きっと、何度も何度も……
私、裏切られていたんだわ!
考えるより先に身体が動いていた。
そうっと後を付けて、でもエレベーターは一緒に乗りづらいから降りた階数を確認して。急いで次のエレベーターで追いかけたけど、部屋番号が分からなくて。
バカみたい……
私は一人、廊下で呆然と佇む。
ドアを片っ端から叩いて特攻をかける?
フロントに掛け合って合鍵ゲットする?
それともこのまま二人が出てくるまで待ち続けるの?
結局、私はそのどれも選ばなかった。
ううん、違う。一瞬頭をよぎったつまらないプライドのせいで……選べなかったんだ。
折角手に入れた『イケメンの彼女』っていうステイタスを、自ら壊したくなかった。ひとまず黙って静観。あっちが別れるように仕向けられれば万事OK、元に戻れる。
そんなこと―――あるはずがないのに。
見てしまったら、見ない前には戻れない。
頭では冷静に損得勘定を弾いていても、心はぐちゃぐちゃだった。
夜の街を彷徨い歩く。
平衡感覚も、方向感覚も失って。きっと周りは酔っ払い女って思うんだろうな。心が求めるままに、雑踏を避けて暗い方へ。
普段なら危機察知能力が働いて近寄らないようなうらぶれた道。
こんなところへ迷い込んだのも、全て
突然、背中へ大きな衝撃を受けた。
反射的に体を捻れば、もつれるように伸し掛かる重量。
中途半端な姿勢のまま、私は後ろへ倒れ込んだ。
ガツン!
頭を地面に強打して目の中に火花が散った。ドロリと流れ出る生暖かい体液の感触。
血……
空から降ってきた生温い体に押し潰されて、ピクリとも動けなくなってしまった。
何が起こってるの?
私、死ぬの?
痛い。苦しい。息ができない。
死にたくないよ。
まだ、死ねない。
こんな惨めな気持ちのまま死にたくない。
あいつらに仕返しするまでは、絶対死なないんだから!
朦朧とする意識の中で絶叫する。
その後、ふっつりと意識が途絶えた。
どれくらい気を失っていたんだろう?
ピッ、ピッと言う電子音にゆっくりと覚醒していく。
ここは病院、かな。
と言うことは、私、助かったんだわ。良かった。
目を開けてみれば白い天井。靴音が近づいてきて、にゅっと女性が顔を出した。
「意識、戻ったみたいね。ドクター呼んできますね」
腫れた顔、指の感覚、足先の痺れ。身体中が痛いけど、動かせない程じゃ無い。
ああ、良かった。
はぁ~と大きく息を吐いた。
あのまま死んじゃうかと思ってゾッとしたけど……思ったより怪我が酷くなくてホッとしたわ。
ああーでも、ママとパパは大騒ぎするわね。泣いて怒って、抱きしめてくれるんだろうな。
またすーっと眠気が襲ってきて目を閉じた。
再び目を開けて見渡せば、どうやら病室へ移されたようだ。狭いけれど個室。ベッド横には疲れて居眠りしている女性。
誰だろう?
「あ……の……」
掠れた声を掛けると鬱陶しそうに顔を上げたアラフォー女は、私を睨みつけてきた。
「
「あんた何をしたか分かっているの? 飛び降りて下の人巻き添えにした挙げ句自分だけ生き残って。損害賠償なんて払えないからね。自分でなんとかしなさいよっ」
は!?
何いってんの、この人。
立て続けに襲いくる衝撃的展開に、ただでさえ痛みで朦朧としている思考が追いついていかない。
その時、看護師が入ってきた。注射器と薬剤の入った銀色のトレイを持って。
底の鏡面に、ほんの一瞬―――
私じゃない、私が映った。
この顔……誰?
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