俺俺俺詐欺

「俺だよ俺」そう電話がかかってきたのは

つい先日のことである。

真っ先に思ったことはこんな時間にだ。

深夜3時頃、起こされるように着信が来た。

「なんですか、人違いですよ」

人違い、というのは咄嗟に出たものである。

しかしながら向こうもまったく、

無神経である。

こんな時間に起きている者、

それで騙されるのも大概である。

「俺だよ、俺、俺なんだけど」

俺俺俺、五月蝿いな。全く、腹が立つ。

「俺さん、今何時だと思ってんの」

「いや、頼み事があるんだけど、俺」

人の話をまるで聞かずに俺はいう。

「俺がさ、まあ、俺の俺がそう

事故に遭っちゃって、」

怒涛の俺の連続に戸惑いを覚える。

「まあ、俺的には

良くないと思ったんだけど、俺が」

「もういい、切るぞ」

「待ってくれ、俺」

一呼吸開いたその隙間に彼はいう。

「明日家にいないでくれ」


そうして電話が切れた。

理解に時間を要したが、

それは案外すぐに分かる。

私の足繁く通うカフェで火災が起きた。

放火によるものだった。

多少の面倒臭さが勝ち、

カフェで作業をすることを

辞めた矢先のことである。

俺がなんのために俺に向かって

着信をかけたのか、

今なら少しわかった気がした。

俺による俺のための俺を守るために

必要な出来事であった。

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