三章 ゴーシャン王国での日々
16. 森での生活
玄関は森の中に、マルキおじさんがホームレスだった頃に住んでいた小屋を見つけた。
かなりの部分が壊れてはいたが、まだ屋根が残っていたのはラッキーだった。
ジャミルのハサミを使って枯葉を取りのぞき、掃除をしたら、住めるようになった。ものを編んだり、織ったりたりするのは得意なので、つたや葉っぱをつかって、戸や寝床を作った。
川が近くてあったので、身体も髪も洗えてすっきりした。
てんごく、てんごく。
森には食べられる木の実がたくさんなっていた。青いリンゴもあった。
森というところは平和だ。
玄関は楽しくて仕方がない。ずうっとここに住めそうだ。
花や草はかわいいし、動物も寄ってくる。
マルキおじさんが大好きだといった意味がわかった。
植物や動物を織ったことはあるが、あれは図面を見て想像しただけだった。こういう生の気持ちを活かして絨毯を織ったら、もっとよいものができただろうにと思った。
玄関は木の名前を知らないから、自分でつけた。
蔦がまつわりついているのは「サラフ木」、サラフはヒゲがもじゃもじゃしていたからだ。すっときれいに立っているのが「アーニャ木」、小さくてかわいいのが「セレザール」。
住む場所があり、食べ物があり、うさぎの友達もできて、玄関は幸せを感じていた。なんだか、昔に、白いうさぎが大好きだった友達がいたような気がした。
仕事が終わると、あの拾った青い表紙の本を読んだ。
最初は何が書いてあるのかはじめはわからなかったが、3度目くらいには少しわかるようになった。
恋物語のようなのだが、男のほうがよく泣くのだ。男って、そんなに泣くものなのか。おもしろい。
ある日、髪が伸びてきたので、仕事箱からハサミを取り出して切ろうとして、
「ちょっと待て」
と手が止まった。
マルキおじさんもあの第三王子も、自分を見て「男か」と訊いた。
男に化けても女っぽく見られていたということだ。
これまでは伸びたてきた髪を後ろでしばっていたけれど、髪をおろしたままにしておけば、女に見られるのではないか。ここで女子に戻れば、追われなくてすむのではないか。
そうだ、女子に戻ろう。この地では、女子のほうが安全だ。
服も明るく染めよう。
玄関は木の実を絞って、茶色の服を赤く染めた。
またアイデアが浮かんだ。
マルキおじさんが服の修理がうまいと褒めてくれたことを思い出して、仕事箱を背負って、市場に出かけた。
「ふくしゅうり」と地面に書いて、座っていると、注文がはいった。
玄関の仕事は早くて、きれいで、安いので、客が次から次へとやってきた。
玄関はその儲けで布を買って、布袋を作った。
布袋を市場にもっていったら、すぐに売れた。
それで大きな布を買って、服を作ったら、それも売れた。なんだか金儲けの才能があるような気がしてきた。
アーニャに裁縫を教えてもらったおかげで、何でも作れた。
「何でも作れるということは、最強かもしれん」
玄関は自分の手を見ながら思った。
知らないうちに、宝をもらっていた。
このまま稼ぎを貯めていったら、じきに西にむかって旅立てるだろう。
「ちょっと待て、待て」
玄関は、また思った。
最近はよく頭が回る。金が貯めるまでここにいなくても、行く先々で直しの仕事をしながら、旅を続ければよいのではないか。
最近、玄関はだんだんと冴えてきているような気がしている。
「裁縫、直し、織りと染めの仕事ができるのだから、わたしはどこでも生きていける。わたしは最強」
今まで、なぜそのことに、気がつかなかったのだろう。
そうとわかったら、玄関は明朝、旅立つことに決めた。
またジャミルを追っていけると思うとうれしくなって、洗濯ものを干しながら、歌い始めた。
どこで覚えたのかは知らないが、メロデーと歌詞が自然と口から出てくるのだった。昔、よく歌っていたような気がした。
「黄金の太陽の下、青い海原しずか
緑のオリーブが実る時、匂いは風に乗り……」
よい気分になりのりのりで歌っていたら、肩に何かを感じた。
うさぎかリスがふざけて乗ったのかと思って、手をあててみると、人間の手があった。
ぎゃっ。
振り向くと、あの厩舎でぶつかった第三王子がそこに立っていた。
ひえっ。
第三王子は床に置かれていた青い本を指さした。
「どこで盗んだ」
「盗んでいないだ」
あわてると、昔の言葉が出る。「落ちていたんです」
王子は厩舎で会ったことも覚えていないようだし、森に住んでいたことも責めてはいなかった。
問題はこの青い本にあるらしい。
「この娘をつれてこい」
と彼は手下に命令した。
「おお、娘と言っているから、女子だと思っている、成功だ」
玄関はしめしめとほくそ笑んだが、喜んでいる場合ではなさそうだ。
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