episode 9-2 返事はイエスかはいか喜んでの三択だよ。どれがいい?

 十分ほどして、僕らの頼んだメニューを優羽が持ってきてくれた。テーブルにはふんわりと焼き色良く出来上がったパンケーキと、ケチャップライスの美味しそうな匂いがするオムライスが並ぶ。小鉢には、星型やハートの形に焼きあげられたクッキーも。


「美味しそう、これ、全部手作り?」

 運ばれた料理のいい香りに、表情が緩んだむっちゃんは優羽に話しかける。


「は、はい。料理部の人がクラスにいて、レシピを教えてくれて……。クッキーは昨日作ったので、焼きたてではないんですけど」

「優羽ちゃんは何か作ったりはしてるの?」


「クッキーは、少し手伝いましたけど、そ、それくらいです」

「そっか、ホールだもんね。クッキー、楽しみにさせてもらうね。あ、二時から体育館で私たちのクラス、演劇やるからさ。優羽ちゃんも良かったら見に来て見に来て」


「わ、わかりました。その時間はシフトも無いので、見に行きますね」

「すみませーん」

「あ、ごめんね引き止めちゃって。シフト、頑張ってね」

「は、はい。ありがとうございます」

 他のお客さんから呼ばれたことで、優羽は僕らのもとを離れ仕事に戻った。


 料理も美味しく頂いたところで、時間もいい頃合いになった。裏方の僕と白沢さんはともかくとして、主演のむっちゃんはそろそろ準備に入らないといけない。そんなときだった。


「……あれ、なみっちから電話、なんだろう、こんな時間に」

 むっちゃんのスマホから着信音が鳴り響く。不思議そうな顔をしつつ、むっちゃんは電話に出る。相手は継母役の作並らしい。


「もしもし、どうかした? え? それ、ほんと? って、どうするの? 本番まであと少しだよ? か、代わりを見つけるって言ったって、そんな都合いい人そうそう──あっ、ちょっ」

 初めこそ穏やかだったむっちゃんの口調だったけど、次第に焦りを含んだものに変わっていき、最後は途中で電話を切られたみたいだ。


「どうかした? むっちゃん」

「……え、えっと。王子様役の男子、緊張と食あたりでトイレから離れられなくなって、代打の代打が必要になったみたい」


「は、はい? まじで?」

「……まじで。どうしよう、このままだと最悪演劇が中止ってことも」

 むっちゃんから聞かされたのは、あまりにもタイミングが悪すぎる緊急事態。


「か、代わりをやってくれそうな人って、いるの?」

 白沢さんも状況を理解したみたいで、テーブルに身を乗り出してむっちゃんに尋ねる。


「……わからない。でも、もともと王子様役に手を挙げてる男子ってそんなにいなかったから、今日いきなり出てくれって頼んで頷いてくれる人がいるとも思えないし、そもそも台詞がそんなに多いわけではないけど台本も覚えないといけないし、衣装だってそもそも北山の背格好に合わせて準備してるから、近い身長じゃないと合わないだろうし」

「そ、そんな」


 狼狽える白沢さん。が、しかしむっちゃんの言うことは的を射ている。北山の立候補で事なきを得た配役だったんだ。そこからひとつアクシデントを挟んでそれでもなんとか本番当日を迎えて、さらにもうひとつアクシデントだなんて、さすがに運が無さすぎるとしか言えない。


 ……かと言って、代わりを見つけないといけないのは変わりないし。

 どうしたものか、と頭を悩ませていると、ふと。白沢さんが名案を思いついたと言わんばかりに手を叩いた。


「そうだっ」

「ど、どうしたの佳恋」


「高瀬君が王子様役やればいいんじゃない? 高瀬君と北山君、身長は近いし、体形も似てるし。それに、山形さんとも普段から仲良いし、ステージの上で何かあったとしてもアドリブ利きそうだし」

「それ、ナイスアイディアかもっ」

 刹那、むっちゃんと白沢さんの目が揃って僕に向けられる。


「……ほわっつ?」

「高瀬っ、男子誰しも一度は王子様になりたいと憧れるものだよね?」

「いや、そんなことは別に」


「高瀬君、今こそクラスのヒーローになるときだよっ」

「……い、いや、まじで僕王子様って柄じゃないし」

「大丈夫、高瀬、顔はそこそこ整っているから衣装さえ着れば王子様に見える。問題ないっ」


「それ、褒めているの? 貶しているの?」

「高瀬、返事はイエスかはいか喜んでの三択だよ。どれがいい?」

 じり、じりと顔が近づけられ、逃げ場が塞がれていく。


 僕が答えに窮していると、むっちゃんはすぐにスマホを手に取っては、

「もしもしなみっち。今から代打の代打で高瀬連れて行くから。高瀬の台本を用意しておいてっ」

 もはや返事すら待たずに作並に話をつけ、強引に僕の手を取る。


「ほらっ、行くよ高瀬っ!」

「ちょ、まっ、まだやるなんて僕はひとことも──」

「ああもう、まどろっこしい、こういうときバシッと決めてこそでしょっ? だからこの間の試合で一発退場食らったんだよっ」

「ひっ、人がまだ気にしていることを──」


 次の瞬間、僕の身体はむっちゃんに引っ張られ、自分のクラスへと連れて行かれていた。

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