episode 5

episode 5-1 せっかくこの間可愛い水着買ってたのに、見せなくていいの?

 海水浴場に到着し、女子組より先に着替えが終わった僕とにーたんは、砂浜の一角にビーチパラソルとビニールシートを設営して、ふたりの到着を待っていた。

 まあ、この手の着替えは男のほうが早く終わるのが定説だからね。


「いやー、でもこうして海に来れて俺はハッピーな限りだぜ。付き合ってくれてサンキュな、冬生」

「別に、夏休みだし。こういうのもいいんじゃないかな。来年は受験生でこんなことしている暇無いだろうし」

「……やめろ、俺に現実を見せるな。未来のことなんて考えたくない……」

 パラソルの下うわああと頭を抱えるにーたん。


「なーに頭抱えてんのにーたん?」

 するとひょこりと僕らの側に、むっちゃんと優羽が姿を現した。


「おわっちっ! び、びっくりした……って、むっちゃん? え、偉く気合の入った水着だな……」

 そりゃそうっちゃそうなんだけど、むっちゃんの水着は先日僕が最終的に選んだ空色のオフショルダービキニだった。胸元とショーツにフリルがついていて、それはそれは女の子らしいものになっており、普段のむっちゃんの印象とは真逆を行っている。


 だからこそ、にーたんも目を丸くさせているのだろう。

 綺麗に映える白い肌と細い手足、それでいて同じサッカーを嗜んでいることもあり、引き締まるところは締まっている。あまり女性らしい凹凸は無いけど、それでいても十分眩しい格好だった。


「へへへ、どーよにーたん。可愛い? 可愛い?」

「……か、可愛いんじゃない、すか?」

「よし、勝った」

 満面の笑みでガッツポーズを取るむっちゃんは、上機嫌そうな様子で荷物からビニールボールを持ちだす。


 逆にむっちゃんの後ろに隠れるようについてきていた優羽は、上にちょっと大きめのパーカーを羽織っていて、肌の露出は抑え目だ。

 大人しめな性格の優羽らしいっちゃ優羽らしい。


「優羽ちゃん、パーカー着て暑くないの? せっかく水着買ったのにー」

「……だ、大丈夫です」

「ほんとにー? せっかくこの間可愛い水着買ってたのに、見せなくていいの?」


「い、いいんです。わ、私の貧相な身体なんて見ても誰も嬉しくないでしょうし……」

「そんなことないと思うけどなあ。よし、じゃあ早速みんなで遊ぼうかっ」

 ボールを抱えたむっちゃんは、そう言うと今にも海に駆けだしそう。


「……あっ、私は泳げないんで、ここで荷物見てます。皆さんで楽しんできてください」

 そんなむっちゃんとは対照的に、優羽はパラソルの陰の中、ビニールシートの上にちょこんと膝を折りたたみ体育座りをしてどこからともなく用意していた文庫本をパサと開き始めた。


「えっ、優羽ちゃん海入らないの?」

「は、はい」

「……そっか、まあ、無理強いすることでもないよね。来たくなったらいつでも来ていいから。よーっしにーたん、高瀬、海行くぞー」

「お、おう」


 そんな優羽を尻目に海に繰り出すむっちゃんとにーたん。僕も後ろ髪を引かれながらも遅れてふたりの後に続く。

 海の空いている一角を陣取った僕たちは、むっちゃんが抱えてきたボールでバレーみたいにパスを回して遊び始めた。


 水中に足が入っているので自由に動くことはできず、上下左右に逸れるパスに僕らは悲鳴を上げる。


 ただ、本職じゃないスポーツでも運動能力の差っていうのは表れるもので、にーたん、むっちゃんのふたりは割と早い段階でコツを掴んだみたいですぐに乱れることなくパスを送れるようになり、なんだったら軽くスパイクをする余裕さえも見せ始めた。


 かく言う僕はまだパスを回すのでいっぱいいっぱい。それに、ちょいちょい砂浜に残した優羽の様子も気にしているので、あまり集中もできていない。


「高瀬―、ボールボールっ」

「あ、ご、ごめんっ」

「もー、しゃきっとしてよね―」

 ボーっとしていたせいで簡単なボールを後逸してしまったようだ。僕はすぐに飛んでいったボールを回収して、輪の中に戻す。


 そんな間も、頭のなかで思考はぐるぐると回る。

 ……やっぱり、優羽には避けられているような気がしてならない。これまでのこともそうだし、今日のことも。


 平日早朝から寄り道する場所って一体どこだ? ただ単に、僕と一緒に電車に乗るのを嫌がっただけじゃないのか?

 それだけ、実は僕は優羽に嫌われていたのだろうか。長いこと幼馴染として付き合ってきた。小さいときは一緒にお風呂に入ることだってあったし、家族ぐるみでキャンプやバーベキューをすることだってあった。


 少しずつ大人に近づいていくにつれ、そうしたイベントっていうのは数を減らしていったけど、高校も同じところに進学したし、運動得意じゃないはずなのにサッカー部のマネージャーもしてくれたから、嫌われているわけではないって、考えていたのだけど。

 ……僕の思い違いだったのかもしれない。


 一周目の彼女の候補は、優羽かむっちゃんの二択しか考えられない。そして、優羽の態度を鑑みると、もう消去法になるけどむっちゃんのほうに天秤は傾いている。

 現状、今ここで答えを出せともし葛岡さんに迫られたら、僕はむっちゃんと回答する。


 でも、百パーセントの自信があるかと言われたら、答えはノーだ。


 色々と違和感を覚えていることもあるし、僕の仮定が合っていたとして、むっちゃんは僕のどこを好きになったのだろうっていう疑問も湧いてくる。

 簡単に、答えを決めることはなかなかできない──


「おわっ、高瀬っ! ボールっ!」

 そんな、矢先だった。考えごとに夢中になっていた僕は、にたび自分に向かって飛んできたボールに気づかなかった。


「ぐへっ」

 さらに、今度はスパイクだったみたいで、ビニールボールとは言え強烈な勢いのそれが僕の鼻に綺麗に直撃。

 視界が水平線から青空を描き出し、そのまま僕はバシャンと音を立てながら背中から海面に倒れ込んだ。


「けほっ、けほっ」

「ちょっ、高瀬、大丈夫っ?」

 強打直撃の僕に駆け寄るむっちゃんとにーたん。僕はすぐに起き上がり、血が出ているだろう鼻を押さえながらのろのろと立ち上がる。

「へ、へーきへーき……。ちょっと砂浜戻って休んでくる。ふたりは気にせず遊んでて」


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