#10 図書館 2

夜の帳が下りる中、霊異研究部のメンバーたちは図書館の入口前に立っていた。周囲にはかすかな街灯の光が、暗い夜空をかろうじて照らしているだけだった。


「本当に夜にここに来るの……?」神崎小雪は腕をぎゅっと抱きしめ、不安そうな表情を浮かべた。「昼間でもすごく不気味だったのに、夜はもっと危険じゃない?」


「夜は霊異現象が一番起こりやすい時間帯だからね。大丈夫だよ、小雪。」長谷川葵は彼女の肩を軽く叩いて、なんとか安心させようとした。「それに、私たちはみんな一緒だから。」


中村裕介は少し離れたところで、両手をポケットに突っ込み、冷静な表情で立っていたが、その声には一抹の疑念が込められていた。「でも安全には気をつけるべきだ。この状況は普段とは違う、慎重に行動したほうがいい。」


「確かに、三時間も消えたのに無傷で戻ってきたなんて、簡単なことじゃない。」清水海斗はカメラをセットし、角度を調整しながら、どんな細かな異変も逃さないように準備を整えていた。彼の動作はいつも通りだったが、今夜はどこか慎重さが増しているようだった。


有馬直清は黙ってその場に立ち、夜の寒さを感じていた。彼女の思考はあの日の記憶に引き戻される。あのぼんやりとした暗い森、かすかな囁き声、そして猫耳の少女の姿。眉をひそめながら、これは本当に霊異現象だったのかどうか、心の中で問い続けた。


「さあ、始めようか。」長谷川葵は頷いて、全員を図書館の裏口へと誘導した。


彼らが図書館に入ると、辺りは一瞬で静寂に包まれた。広々とした廊下に、足音だけが反響する。全員が自然と息を潜め、何とも言えない圧迫感が漂っていた。異変は何も起きていないが、不気味なほど静まり返った空間に緊張感が走る。


「こんなに……静かすぎるよ……」神崎小雪は小さな声でつぶやいた。その声は静寂に飲み込まれそうなほど小さかった。


「そうだな、静かすぎる。」中村は眉をしかめながら、図書館の暗がりを見渡し、何かおかしなものを探しているかのようだった。


突然、窓の外から風が葉を揺らすかすかな音が聞こえたかと思うと、図書館内の灯りがかすかに揺れた。その瞬間、全員が反射的に足を止めた。清水海斗はすぐにカメラを構え、どの角度にも気を配りながら撮影を続けた。


「君が言ってたあの森……この近くにあるのか?」長谷川は有馬にそっと聞き、緊張した空気を和らげようとしているようだった。


「うん……あの感覚は言葉にしづらいんだけど……本物の森じゃなくて、まるで……幻のような場所だった。暗くて、ぼんやりしてて……そして、あの少女がいた。」有馬は眉を寄せながら思い出すように答えた。


「今夜、もしかしたら彼女に会えるかもね。」清水の口調は冗談めいていたが、全員がその言葉に含まれた不安を感じ取っていた。


図書館の奥へと進むにつれ、有馬は突然、背中に冷たい視線を感じた。誰かが自分を見つめているような気がして、彼女は思わず振り返った。しかし、そこにはただ、静まり返った廊下と薄暗い灯りがあるだけだった。


「どうした?」中村が彼女の異変に気づいて尋ねた。


「な……何でもない。」有馬は鼓動が速くなるのを感じながらも、平静を装おうとした。「きっと、私が緊張しすぎてるだけ。」


そう言い終わった瞬間、清水海斗のカメラがかすかなノイズを発した。画面に奇妙な光の影が一瞬、映ったようだった。「待って、今……」彼は急に立ち止まり、画面を見つめた。「何か……あっちに光が走った気がする。」


全員の視線がその方向に集中した。長谷川は眉をひそめ、静かに合図して周囲の静けさを保つよう促した。周囲の空気が一層重くなり、風さえも止まったようだった。


「みんな……ここ……なんか変じゃない?」神崎小雪の声は震え、彼女の手は長谷川の袖をぎゅっと掴んでいた。


何とも言えない緊張感が彼らの間に漂い、どんな些細な音も際立って大きく響く。まるで、何かが突然現れるのを待っているかのように。しかしその時、再び辺りは息を呑むほどの静寂に包まれた……。

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