#7 霊異研究部(後編)

有馬が霊異研究部の活動室に入った時、部屋の雰囲気は彼女の想像とは全く異なっていた。彼女は、部屋がもっと陰気で神秘的な空気に包まれていると想像していて、奇妙な装飾品があるのではないかと予想していた。しかし、目の前の光景は意外にも安心感を与えるものだった。部屋の装飾はシンプルで、壁には霊異関連の記事や写真が貼られていたが、彼女が想像していたような不気味さはなかった。


長谷川葵は、有馬が入ってきたのを見ると、すぐに明るく歓迎した。「有馬!来てくれてありがとう!どうぞ座って!」彼女は満面の笑みを浮かべており、有馬が思い描いていた霊異マニアのイメージとはかけ離れていた。


神崎小雪も立ち上がり、少し恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。「ようこそ、有馬さん。来てくれて嬉しいです。」


清水海斗はカメラの機材をチェックしていて、一瞬有馬に視線を向けて軽く頷くと、再び作業に戻った。


最後に、副部長の中村裕介が眼鏡を押し上げ、椅子から立ち上がって冷静に言った。「僕は副部長の中村裕介だ。僕たちの部は霊異現象の調査をしているんだけど、今回の事件は...真実に迫るための重要な手がかりになりそうだね。」


「こんにちは、有馬直清です。」有馬は軽く頭を下げた。こういう正式な自己紹介には慣れていなかったが、この雰囲気は思っていたよりも気楽なものだった。「皆さん、私が思っていたよりずっと普通で、なんだか安心しました。」


「はは、そうでしょう!」長谷川は笑いながら手を振った。「霊異研究って言っても、別に暗くて不気味なわけじゃないのよ。実際、冗談を言ったり楽しんだりするのが好きなんだ。霊異現象って、時々面白いものもあるのよ!」


「そうだね、僕たちは科学的な視点からもアプローチしているんだ。」中村が補足した。「だからといって霊異現象を否定するわけじゃない。ただ、理性的な方法で解明したいだけなんだ。」


「私たちは、有馬さんが来てくれて本当に嬉しいです。」と神崎は小さな声で付け加え、頬を少し赤くした。


有馬は軽く微笑み、目の前の彼らが想像以上に親しみやすいことに安心感を覚えた。そして、この部活に対する興味がますます膨らんでいった。彼女は、これからの生活に期待感を抱かずにはいられなかった。


有馬が霊異研究部に入部すると、長谷川は嬉しそうに彼女の肩を軽く叩いて言った。「さて、みんな自己紹介も済んだことだし、本題に入りましょう!今日は、有馬さんが遭遇した件について話し合いたいの。図書館での事件には、私たち全員がとても興味を持っているんだ。」


「そうそう!」神崎も身を乗り出し、少し不安げでありながらも興味津々な表情で言った。「その時、いったい何があったの?あの3時間、どこに行ってたの?何か覚えてることはある?」


有馬は彼らの視線を感じながら、心の中でその時の状況を整理した。この経験はまだ彼女にとって不安を感じさせるものだったが、既に部に入ると決めた以上、真実を知りたいという気持ちが強かった。「正直、何が起こったのか全然わからないの。」有馬は眉をひそめ、その日のことを思い出しながら語り始めた。「図書館で本を読んでたんだけど、突然…別の場所に連れて行かれたみたいだった。」


「どんな場所だったの?」清水海斗はカメラの設定を続けながら、顔を上げて質問した。


「暗闇の中で…森のような場所。でも、すごくぼんやりしてた。奇妙な音が聞こえたの、人や動物の低い囁き声みたいな…。」有馬は少し戸惑いながらも話を続けた。「それから、影のような人の形を見たの。まるで女の子みたいで…頭には猫耳がついてた…。」


「猫耳の女の子?」長谷川の目が輝き、すぐにノートを取り出して記録し始めた。「その手がかり、すごく面白いわ!もしかすると、これは霊異現象の一つ、都市伝説の猫耳女と関係があるかもしれない!」


「でも…」有馬はため息をついた。「これが本当に霊異事件なのかはわからない。その時の感じはすごく現実感がなくて、まるで夢を見ているようだった。そして、気がつくとまた図書館の座っていた場所に戻っていたの。周りは何も変わってなくて…。」


「そこが一番奇妙な点だね。」中村は真剣な顔で考え込んだ。「3時間の失踪時間は、単なる錯覚では説明できない。そして、監視カメラにも君が消えた映像が残っている。これは明らかに普通の現象じゃない。」


「図書館の環境をもう一度調べた方がいいかもね。」清水はスマホでその時のニュース映像を取り出しながら言った。「あの映像をもう一度見直して、見落としがないか確認しよう。それと、君が言ってた『森』って、学校の近くの林と関係があるかもしれないね。」


「うん、学校周辺の森も調査してみる価値があるかも。」と長谷川が興奮気味に提案した。「霊異現象は、特定の場所と深く関係していることが多いから。」


神崎は少し怖がっていたが、頷きながら同意した。「もしこれが本当に霊異現象だとしたら…私たちはもっと多くの手がかりを見つけられるかもしれないね。」


有馬は、熱意を持つ部員たちを見つめながら、心の中で決意を固めた。最初は単なる好奇心から始まった接触だったが、今では彼女もこの謎の真相を知りたいと思うようになっていた。「わかった。みんながこんなに真剣なら、私も一緒にこの謎を解き明かしたい。」そう言って、有馬は笑みを浮かべた。


長谷川は嬉しそうに手を叩き、「やった!それじゃあ、図書館から調査を始めよう!きっと何かを見つけ出せるはず!」と宣言した。


話し合いが進む中、霊異研究部のメンバーたちは調査の役割分担を始めた。有馬の心は、期待と興奮で次第に満たされていった。普通の大学生だった彼女が、今では解けない謎に引き寄せられ、未知の世界へと足を踏み入れようとしているのだった…。

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