【完】異世界の旅路 ――転生者と謎少女の異世界道中――

小鮫鶲ハル

第一章【始まりの田舎道】

第1話 始まりの道

 気づくと、森の中にいた。人の気配はない。あー、誘拐? そもそも、ここはどこだ?

 俺は日本に住んでいて・・・・・・。ああ、だめだ。一体俺は何者なんだ? 自分に関する記憶が全く無い。


「とにかく、誰かに会わないと始まらないか」


 自然と、不安な気持ちは無かった。

 木々からこぼれる木漏れ日が心地良い。

 方向もわからないから、とにかく自分の直感を信じて歩く。


「・・・・・・あっ」


 木の根っこに引っかかって、転んでしまった。


「痛った・・・・・・」


 膝から血がにじむ。


「そういえばこれ。何が入ってるんだろうか」


 ここに居たときから、俺の腰にかかってる鞄。

 あまり確認せずにそのまま行動してたけど、何が入ってるんだろう?

 重量的に、拳銃とかは入ってなさそう。いや、入ってるわけ無いか。


「木でできた水筒と瓶に入った乾パン? あとガーゼか」


 傷口から病気になったら嫌だし、ガーゼを貼ろう。

 ちょうど近くに小川が流れていたので、そこで傷口を洗うついでに水を汲んだ。


「そういえば、誰かが川を下れば町に出るって言ってたよな」


 よし決めた。この川を下って人に出会おう。

 そうすれば、俺が一体誰なのかも分かるかもしれない。



 ――しばらく歩くと、道に出た。

 アスファルトで舗装されてないけど、軽トラック一台くらいなら通れそうな道幅だ。


「さあ、どっちへ行こう」


 道は川と垂直になっていて、左右に別れている。


「ま、右でいっか」


 ここでごちゃごちゃ考えても時間の無駄だと切り捨てて進む。


「・・・・・・馬車?」


 その時、道の先に馬車があった。

 ヨーロッパの貴族とかが乗ってるようなものじゃなくて、ファンタジー系のゲームとかラノベに出てきそうな庶民用の馬車。あと屋根がついてる。


 馬車に駆け寄る。馬はいない。

 馬車の中を覗く。


「・・・・・・誰ですかあなた」


 中には、十四歳ほどの見た目をした金髪の美少女が佇んでいた。

 でもこの娘、耳が尖っている。耳の付け根を見てみても、よく見る耳を付けたコスプレとは思えないし、ウィッグにも見えない。それぐらい、自然なのだ。しかも、瞳の色はエメラルドグリーンっぽいし。


「コスプレとかじゃ、無いよな?」


「・・・・・・それって何ですか?」


 ジト目で即答された。

 ・・・・・・一旦落ち着こう。まずコスプレという文化が無い。

 ということは、耳は本物。そして尖った耳といえばエルフ。

 嘘だろ? ってことはここって異世界なの? 剣と魔法の。

 死んでここに来たのか、そのまま来たのかわからないから、転生か転移かはわからないな。


「というか、あなたはいったい何者ですか?」


「あっ・・・・・・」


 よくよく考えたら、俺ってかなり怪しい人物だな。急に現れて、意味不明な単語を聞いてくる。ただの不審者じゃん。


「実は、なんで自分がここにいるかも分からなくて・・・・・・。自分の記憶が無いんだ。

 信じてもらえるかわからないけど、多分俺はこことは違う世界から来たんだと思う」


 迷ったけど、正直に話すことにした。

 もしここで変に嘘をついたら後々バレて大変なことになりそうだし。


「転生者、ですか」


「あ、ちゃんと転生者の概念はあるんだ」


「はい。たいていの転生者は記憶もはっきりしていて、後に伝説級の存在になってますけど・・・・・・」


 そう言って少女は俺を見る。


「俺はそんな存在になれなそうだと?」


「はい」


「正直だなおい」


 確かに俺の体格は平均的だし、これといった専門的な知識も無い。


「あ、あの・・・・・・」


 少女が口を開いた。


「記憶が無いってことは、名前もわからないってことですよね?」


「うん? まあ、そうだけど」


 少女が馬車から飛び降りる。


「そうですねぇ」


 そして空を見上げた。

 雲一つ無い晴天だ。


。これからのあなたの名前です。

 まあ、これから長い付き合いになるでしょうから、名前は必要ですよね」


 ソラ、か。いい名前だ。

 普通にある名前だし、特に気になることは無い。

 というか、


「なんでお前が勝手に俺の名前をつけてるの!?」


「だってあなた、この世界のことをなんにも知らないのでしょう?」


 ああ、確かに。ラノベとかアニメで、ある程度の知識はあるような気がするけど、ここがどんな世界かもわからない。


「だから私がが教えてあげるんです。一緒に旅をしながら、ね。だから名前は必要だと思うんです」


 そう言って、少女が微笑む。


「え、ちょっと待って。お前と旅をするってこと!?」


「そうですよ。まあこの世界のことを教える対価、ですね。

 それと、私のことをお前呼びするのやめてくれますか?

 私には、っていう名前がちゃんとあるので」


 そう言う少女、失礼。アオが胸を張る。

 といっても、胸を張れるほどの大きさは無いが。


「ねえ、アオさん」


「タメ口でいいですよ? 私、そういうの全然気にしないので」


「じゃあ単刀直入に聞くんだけど、アオってエルフとかなのか?」


 尖った耳は僕の知ってるエルフそのものだ。


「エルフのクォーター、ですね。

 まあクォーターくらいになると、ほとんどエルフの特性は受け継がれないので、寿命とかも人間と変わりませんが」


 クォーター? ってことは、ハーフエルフと人間の子どもってことか。


「・・・・・・じゃあさ、アオはどうしてこんな所で道草を食ってるんだ?」


「逃げられたんです。商人、いや盗賊に」


 アオが肩をすくめた。


「この馬車は私の物じゃないんです。

 馬車を持っている商人は大抵、荷台に空きがあったら私みたいな旅人を運賃さえ払えば乗せてくれるんですけど、今回私が乗せてもらった馬車の持ち主は商人のフリをした盗賊だったみたいで、まんまと騙されてほとんどの物が奪われてしまいました」


「それって結構ヤバいな」


「そう。まあ、どうしようもなかったから、この馬車の中にとどまっていたわけなんですけど、こうして人と出会えたってことは、それが最善だったってことですね」


 ん? ちょっと待てよ?


「ってことはアオ、この先どうやって生活するつもりで?」


「一度町に出れば、商人ギルドの貯金でなんとかします。

 これでも私、たくさんお金を持っているので」


 おお、ギルド。やっと異世界っぽい単語が出てきた。

 商人のギルドがあるってことは、冒険者ギルドもありそうだ。


「ただ問題は・・・・・・」


 ――ぐぅぅぅ・・・・・・


 アオの腹が鳴る。


「食料問題、です」


「持ってないのか?」


「食料は全部持っていかれたので」


 森の中で食べられそうな物といえば、野草とか動物だろうな。


 ・・・・・・あ、そういえば、乾パンが確かあったんだっけ。


「ほれ」


 乾パンと水筒をアオに差し出す。


「いいんですか?」


「まあ、この世界について教えてもらうことの先払いだと思って貰えればね」


「なるほどです」


 ――サクッ!!


 アオが乾パンを頬張る。

 ちなみにこの乾パンは、おやつとかで売りに出されているようなものではなく、長方形のごまが入っているものだ。


「ふぅ」


 そうして、あっという間に乾パンを五枚も食べきった。

 凄い食べっぷりだ。結構口の水分が吸われるはずなんだけど。


「ほれ、水も飲まないと喉を詰まらせるぞ?」


「あ、ありがとうございます」


 そうして水を飲むアオ。

 アオの身長が低いからなんだろうけど、こうしてると小動物に餌をやってるみたいな気持ちになる。

 どうせならと、俺も一枚だけ食べておいた。


「あ、あのっ、全部食べてもいいでしょうか?」


 アオが聞く。


「ああ、いいぞ」


 よっぽど腹が減っていたようで、すぐにすべての乾パンを食べきった。


「では、腹ごしらえも済ませたところですし、早速出発しましょうか。

 こんなところに留まっていても、なにもできませんからね」


 そう言ってアオは俺の来た道を逆走する。


「おいおい、道はわかるのか?」


「はい。目的地はこの田舎道の先にある、小さな町です」



 ――俺はこうして、右も左もわからないこの世界で、アオと共に旅をすることになった。

 これが、目的地の小さな町までの付き合いなのか、それとももっと長い付き合いになるのかは、わからない。


「どうしたんですか? ソラ。早く行きますよ?」


「ああ、わかってる」


 上を見上げると、この世界に来た俺を祝福するかのように太陽がサンサンと輝き、青空が広がっていた。


 まあ、ただ一つわかることがあるとするのなら、


「・・・・・・これから楽しくなりそうだな」




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