第15話:もーもー印
「優雅くんは今日何かお買い物をしますか?」
と尋ねられ、冷蔵庫の中身を思い出してみるが、正確に思い出せない。
「ん〜、どうしましょうか?
何を作るのか、全く考えていませんでした。松平先輩はどうされるんですか?」
「私は玉子を買いに行こうかと考えでました。昨日の優雅くんの写真を見て食べたくなりましたので。
でもスーパーに行ってみて、お得なものや他に候補が出来たら玉子は買うだけになるかもしれませんが」
顎に軽く開いた人差しと親指を添えて思案しながら答える先輩。
(そういう仕草も先輩がすると様になるというかホント似合うんだよな)
先輩の顔をじっと見てしまっていた。
「な、何か付いてますか?」
「あ、いえ。先輩がめちゃくちゃ可愛くてつい見とれてしまって」
「もう!また!優雅くんったら…」
麦わら帽子で隠れてしまったが、おそらく照れてしまったのだろう。
「すみませんでした。僕は一度家に戻って冷蔵庫を確認してから行こうかな?」
「じゃあ優雅くんのおうちの方のスーパーに行きましょう」
「え?先輩も?ですか?確認する時間お待たせしてしまいますけどよろしいですか?」
「もちろんです!」
などと話が弾んでいるうちに僕の家までたどりついた。
「先輩もあがられますか?結構歩きましたしお茶でもどうですか?」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
「マンションに入る前にほんの少しだけお待ちください」
郵便ポストを確認して、雑巾でパンタのタイヤをさっとひと拭きしてから、オートロックを解除して自動ドアを開ける!?。
「パンタさんもお部屋の中まで行くんですね?」
「そうです。盗難だけでなく傷をつけられるのも嫌ですし、強風などで倒れるかもしれませんし」
「パンタさんは優雅くんに愛されているんですね」
「親友ですから」
笑顔で返すとエレベーターが到着。
「松平先輩、申し訳ありませんが、お先に入っていただいて、パンタを入れるまでボタンを押していてもらってもいいですか」
先輩に続いてパンタを立てかけながらエレベーターの中に入る。
「ありがとうございました。お手数をおかけしましたか」
「これくらい手数ではありませんってば」
と微笑む先輩。
「えっと…?何階を押せば?」
「あ、失礼しました。7階をお願いします」
「優雅くんは7階なんですね〜🎶」
ボタンを押してどこか楽しそうな先輩。
チン
7階に到着。勘の良い先輩は、僕とパンタが出るまで開くボタンを押していてくれるので礼を言う。
「どういたしまして。優雅くんのお部屋は?」
「一番奥の角部屋です」
「鍵を貸して下さい。私が開けますから」
手のひらを広げて右手をのばす先輩。
パンタを持ったまま、右ポケットから鍵を取りだし先輩に渡す。
「ドアを開けてますので優雅くんとパンタさんは先に入っちゃってください」
先輩にドアを開けてもらい、靴を脱いでそのまま中の方まで入る。
「鍵は靴箱の上でいいですか〜?」
「小皿の上にでも置いてくださいー!」
と答えながら紙ウエスでハンドル、サドル、ペダルをさっと拭き、壁にパンタを掛ける。
優雅くん!手を洗わせてね!と脱衣場から声が聞こえるので、どうぞどうぞ!と大声で返し、僕は僕でキッチンの混合水栓のレバーを上げて手を洗う。それから冷蔵庫を開いて…
パタパタと足音がして、
「わ〜!これが優雅くんのお部屋なんだ〜。おうちでパンタさんは壁が居場所なんですね!」
開いた冷蔵庫の中身もたいして確認せず、お茶だけを出して、グラスを2つ並べて注ぐ。
「どこでもご自由にお座り下さい。といっても狭くてすみません」
ローテーブルの窓側の方にちょこんと座る先輩。
「あ、クッションも使ってください。お茶をどうぞ」
テーブルにグラスを置いて、ベッドを背もたれにして座る。
(凄いことになったな。まさかこんな綺麗な先輩が僕の部屋にいるなんて。夢みたいだ)
と、お茶を飲みながら考えていると
「通話の時もそこに座っていたんですね」
ふふふっと目尻を下げる先輩。
「よくわかりましたね!」
と驚く。
「画面に映っていた優雅くんを思い出して、この感じだったなあって。お茶いただきます」
グラスに手を伸ばした。
「あ、冷蔵庫の中、確認し忘れてました」
頭に手を当ててからはね上げ冷蔵庫に向かう。
同じように立ち上がり、間仕切り棚の方から覗き込もうととする先輩。
「もーもー印はまだ買わなくて良さそうですか?」
珍しくおちゃめな軽口を叩く。
「あはは。昨日買いましたからね。覚えてたんですね」
と、僕は軽口につられて笑ってしまう。
玉子はまだ大丈夫かな…?
野菜が少ないから安いものがあったら補充して…。
今日は魚でも焼こうかな?
と、ブツブツ呟く。
「あ、それいいですね。オムライスは今度にして私もお魚にします!」
柏手をうつ先輩。
「よし!決まり!では優雅くん、スーパーに行きましょう!」
「了解です。パンタ行ってくるね!」
と、立ち上がってパンタにも声をかけ玄関に向かう。
「パンタさん行ってきます!」
先輩も同じように声をかけ僕の後に続いた。
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