さくら舞い散る

KPenguin5 (筆吟🐧)

第1話 BAR KING

「岸くん。今日は、デートなんじゃないの?」

ここは、Bar KING。神保町の雑居ビルの3階にある小さなBARだ。

店内にはカウンター席のみの細長い作りになっている。

ここのマスターをしているのが平井紫音。

今はカウンターの中でグラスを拭いている。

そして、カウンターで並んでビールを飲んでいるのが俺、境田迅と刑事の岸悠馬。

岸君は彼女がアメリカから一時帰国をしていて、昨日もその彼女とデートだったようだ。

「今日は堀田さんと親子水入らずで過ごしてもらおうと思って。なんだかんだ言っても堀田さん、由紀ちゃんがいなくてすごく寂かったんだよ。由紀ちゃんに誘ってもらったんだけど、二人で過ごしてってことわったんだ。」

堀田さんとは、岸くんの彼女由紀ちゃんの父親で、岸くんの直属の上司であり相棒でもある刑事だ。

「へぇ、岸くん優しいじゃん。」

紫音がニヤニヤしながら岸くんの顔を眺めている。

「なんだよ。俺の顔に何かついてるか?」

「いやぁ、岸くん幸せそうだなぁって。岸くん幸せだとこっちまで嬉しくなるなぁってさ。な、迅」

「そうだね。岸くんが嬉しそうだと、俺たちも何故か嬉しい。」

「なんだよ、それ。ちょっと気持ち悪いぞ。」

という岸くんはまんざら嫌でもなさそうな、はにかんだ顔で俺たちを見ている。


「そんな迅だって、それなりの恋愛話だってあるんだろ?

たまには聞かせてくれよ。」

岸くんがこちらに話を振ってきた。

「え?男同士で恋バナなんて気持ち悪くない?」

俺にもそりゃ、恋の一つや二つの話がないわけではない。

でも、改めて話をするのはさすがに恥ずかしい。

「俺さ、酔っぱらった迅に前にちょっとだけ聞いたことあったな。

なんかすごい美人ですごい歌姫と恋をしたって話。」

紫音が爆弾を投下してきた。

そう言えば、紫音には以前そんな話をしたかもしれない。

俺の大学時代のまだまだ青かった時代の恋愛話。

「なんだよそれ、自慢話?」

「自慢話じゃないよ。ただの思い出話。」

「聞かせろよ。いや、聞かせてください。今後の参考にさせてもらう。」

岸君が前のめりで話をせがみに来る。

まるで、高校生が友達の恋バナを楽しみにしているようなキラキラした目でこちらを見てくるので、ついつい話す気になってしまう。

「そんな、いい話じゃないよ。…でも、今日も三人しかこの店にはいないみたいだし、二人には話してもいいかな。」


「そう、俺が大学4年生の春だったな。うちの大学のキャンパスはサクラが多く植えられていて、春の時期は本当に綺麗だったんだよ…

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