第五話 ハートブレイカー Heartbreaker 3 ③

 マンティコアが凪の姿になって、私がその横で奴隷のように並んでいるのを……たとえば、私が門番をやっていて、凪がその横にいて、私が「次の食料はアレがいいですよ」なんて教えているところを……そしてそこに、この前私が失恋した先輩が可愛い彼女と一緒に来たとしても、私はもう何とも思わないで、機械的にしか挨拶をしないのだ……。

 しかもそれだけではない。マンティコアの恐るべき言葉は、その後ろの彼女たちの目的を表していた。

 彼女と早乙女正美は、ただ自身の保身のためだけに私たちを殺すのではないのだ。これは彼女たちの、世界を人間から乗っ取る計画の一部なのだ……。

 こんなのが……こんな奴らが学校から卒業して外に出たら、世界はいったいどうなってしまうのだ!?

 彼女は近づいてきた。


「…………!」


 私は、エコーズの身体をぎゅっ、と抱きしめた。

 そのときである。

 傷ついた彼の腕が、ゆっくりと差し上げられた。

 ぶるぶる震えている。指は握るでも開くでもなく、中途半端に力無くだらりとしていた。

 その手で、彼はマンティコアを指した。


「なんだ? なんのつもり? まだ、なんかしようって言うの?」


 マンティコアは嘲笑った。


「…………」


 エコーズは、しかし彼女を見ていなかった。

 彼女の向こうにひろがる星空を見ているようだった。

 そして彼は、誰かを相手にするでもなく、ただ空だけに向かって、急にはっきりとした言葉で喋った。



「──我が身を〝情報〟に変えて、今、御許に〝報告〟を送る!」



 次の瞬間、私の目の前は真っ白な閃光に塗りつぶされた。

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