間奏 Interlude
……物語は少し前にさかのぼる。
昼でも夜でもない、おぼろげな薄い闇の中で、一糸まとわぬ姿で一人の少女が横たわっている。ぴくりとも動かない。
マンティコアはそのすぐ横に立っていた。
「…………」
ゆっくりと優雅な動作で、倒れた少女の身体に身を屈めていく。
前髪を払いのけて、額にキスをする。
そして鼻、顎、首筋、胸元、腹、下腹部へと、舐め上げながら動いていく。その後には、うっすらと青い線が残っている。唾液がついたところが変色している。
やがて少女の身体を舐めつくすと、マンティコアはその唇を離した。
すると、少女の身体に異変が起き始めた。
その全身の皮膚表面に、びしり、びしりと細かい罅割れが生じ出したのだ。
「…………」
マンティコアは、それを静かに見守っている。
やがて少女の身体は、まるでカラカラに乾涸びた泥細工のように、ばふっ、と崩れ落ちた。
紫色をした塵煙が舞い上がった。
その煙が、マンティコアの口の中に吸い込まれていく。
煙はあとからあとから、どんどん湧き出てくるが、マンティコアは息継ぎもしないで、まるで栓を抜いた水槽のように、底なしに飲み続ける。白い喉がごくごくと嚥下のために蠢いている。
最後の一塵まで吸い尽くすと、マンティコアはそのルージュを引いたように美しい唇をぺろりと舌先で舐める。
唇の隅から一滴の液体が、つうっ、と流れ落ちた。塵が固まって液体になったそれは、まぎれもない血と肉の色をしていた。
塵に変えられた少女の身体は、もう跡形もなくなっている。
うふふ、
うふふ、
うふふふふ……。
薄い闇の中で、マンティコアは笑っている。
その名は古代ペルシャ語で〝人食い〟を意味する。
その嫣然とした笑いは、薄明かりの中で夜明けの薔薇のように輝いて、昂然とその邪悪を謳歌していた。
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