第36話 突入!「試練の迷宮」


「――それでは、これから迷宮内に突入しますが、二人には、私の護衛任務という依頼をすでに課しておきました。パラメータ・ウインドウはいつでも閲覧可能の状態です」


 メルリアが「門」の前で二人へと説明を始めた。


 今回の「任務=試験」は、メルリアのパーティメンバーとして随伴し、メルリアと共に迷宮内探索を行うというものだ。目指すのは最下層の第16層。


 この試練の迷宮の造りだが、冒険者クラスごとに階層が分かれており、対応クラスは銅級カッパー青銅級ブロンズ鉄級アイアン鋼鉄級スチール銀級シルバー金級ゴールド白金級プラチナ金剛石級アダマンタイトのそれぞれ上級下級の2層ずつ、計16層である。


 各クラスの下級層にはいわゆる「雑魚モンスター」が徘徊する層になっており、各部屋ごとにモンスターが出現する仕組みとなっている。

 そのため、部屋に入らず通路を通り抜けるだけであれば、特に障害なく通過でき、上級層へ到達できるように設計されている。


 つまり、先に進むだけであれば、上級層だけ攻略してゆけばいいことになるのだが、上級層には各種トラップや階層主、中ボス、取り巻き、徘徊モンスターなど、本格的な「迷宮」よりもさらに過酷な設計となっており、各階層主を撃破しなければ、その先へと進めない仕様になっている。


「各クラスの下級層は通過するのみです。ですので、攻略する層は計8つ。あなたたちがどの程度までを見極めさせていただきます――」


 今のメルリアの言いようでは、メルリアが僕たちをサポートしてくれるのかどうかまでははっきりしないが、頼ってもいいというようには聞こえない。


 結局は全力で生き残り、メルリアにどこまでついていけるかということになるのだろう。


「では、行きましょう――」


 そう言うと、メルリアは門番と軽く挨拶を交わし、門をくぐってゆく。ユーヒとルイジェンもそれに続いて門をくぐった。



 「迷宮」内部は、意外と親切な設計になっているようで、明かりの類いの心配はない。迷宮全体が比較的明るく照らされていて、視界を確保する光源魔法などは必要なさそうだ。


 とは言え、上級層は部屋割りになっているため、部屋に侵入しなければモンスターに出会うことはないが、下級層は本格的な造りになっているため、物陰に潜む徘徊モンスターや、隠れたトラップなどが存在しているため、気は抜けない。


 3人は「銅級下級クラス」である第一層を通過し、第2層へと下る階段を下りてゆく。

 階段を降りた先に大扉がある。色は、焦げ茶色だ。この扉の色がクラスを表しているというわけだ。


「さあ、始めましょう。言っておきますが、私はあなた方に対し、治癒や回復系の魔法を使うことはありません。二人で生命管理をして、いけるところまで私についてくるのです。それが今回の『試験』とします」


 結局のところ、合格ラインが何層かということについては一言も触れなかった。

 つまりは、何層まで行けるかというよりもその内容が問われるということなのだろうと推察する。


 しかしながら、メルリアの判断基準が何によるものなのかがわからない以上、結局は全力を尽くすという他に方法は無いわけだ。


「とにかく、出来るだけ全力を尽くすさ。どんな結果になろうとも、受け入れる覚悟はもうできてるからね」


 ユーヒは強がりとも取れる宣言をしたのを合図に、最初の攻略層の扉が推し開かれた――。



――――――



 何という基礎能力の高さか――。


 メルリアはこれまでのユーヒの結果に目を見張った。


 結局なんだかんだとやってるうちに、とうとう第10層「銀級シルバー上級層」まで攻略してしまった。


 ルイジェンがここまで攻略できるのは階級上当然のことであるが、このユーヒという少年はまだ、「銅級冒険者」のはずなのだ。


 それが、怠け者とは言え百数十年間冒険者経験を積んでいるルイジェンに及ばずとも遠くない結果を残してしまっている。


 そもそも、ルイジェンは「銀級シルバー」とは言え実力はすでに「ゴールド」か「白金プラチナ」かというところであるから、この少年は少なくとも「シルバー」か「ゴールド」程度の実力を持つということになってしまう。


「はあはあはあ、さすがに少し、疲れてきたかもしれないけど――」

と、ユーヒが前置きをしてから、

「――でも、なんだか、自分がとても成長しているのが実感できている。初めのころに比べて明らかに、筋力も俊敏さも体力もとんでもなく向上しているのがわかるんだ」

と、言った。


「ユーヒ、お前、滅茶苦茶なパラメータ上昇が起きてねぇか? 明かに普通の冒険者の成長速度じゃねぇぞ?」


 ルイジェンがそう問う。


 メルリアも全くの同感だ。

 迷宮に突入してからまだ数時間しか経っていない。おそらく、4時間ほどだろうか。

 そのたった4時間の間に、こんなに成長するなんて、あまりにも異常な成長速度だ。


「パラメータ、か。そう言えば見てなかったな。なんだかここまで無我夢中だったから、完全に忘れていたよ――」


 そう言いながら、ウィンドウを開くような手つきをする。

 そして覗き込んだユーヒがいきなり大声を上げた。


「な! なんだこれ!! こんなに上がってるなんて、う、うそだろ――!?」


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