第12話 『魔酔い子』の目標
「はい、完了確認です! おつかれさまでしたぁ!」
ギルドホールに受付の女性の声が響きわたる。
ユーヒは、ふぅと大きく息を吐いた。
とりあえず目標の1500Gを溜めることが出来た。二人分の船賃と、道中の旅費だ。
この一週間、結構働きづくめだった。
国際魔法庁の部屋を貸してもらえるのは今晩までだ。一応、このあと夕食を取ったら、国際魔法庁に戻り、明日とうとうこの街を発つ。
まずは西へ向かって南北街道に出て、そこを北上、港湾都市ハーツへ向かう。そしてそこから、船でソード・ウェーブまで移動することにしている。
その道中の路銀として、船賃500Gと移動経費250Gがそれぞれ二人分で、1500Gだ。
「やったな、相棒! とりあえず、第一目標達成だ!」
ルイジェンがユーヒの背中をバンと叩く。
「おー! やったな、若いの!」
「ほほう、マジでやりやがったか!」
「なかなかに大したもんだ!」
などと、ギルドホールの人たちもわいわいと祝福してくれる。
実は、結局、「ユーヒは『
『魔酔い子』というのは、この世界の住人に対しごく稀に発症する、いわゆる『呪い』のことらしい。
その症状としては、一時的または半永久的な記憶障害だという。
発症する人の割合は、数千人に一人か数万人に一人といわれており、この原因は未だに解明されていない。
ただ、早期に発見された場合、魔法による解呪術により、症状は回復するという。しかし、発見から時間が経つにつれ、症状は深刻さを増し、酷い場合は完全な記憶喪失となるらしい。
処置が早かった場合でも、一部の記憶は戻らないままという事もあるという。
魔法庁のヘレナさんに診てもらったが、ユーヒは「魔酔い子」ではないという結論だった。
が、今のユーヒの状態は、「魔酔い子」の症状に酷似しているため、結局はそういう事にしておいて、一部の記憶障害が残っているとした方がいろいろと都合がいい。
そこで、ヘレナさんが、そういう事にしておきましょう、と提案してくれたってわけだ。
この一週間の間、ここの冒険者さん方には、
「魔酔い子だなんて、たいへんだろうけど、冒険者なら、大した障害にはならんさ!」
「ああ、記憶障害ってったって、ほとんどのことは覚えてるんだろ? 冒険者にとっては毎日が新しいこととの出会いだからな、すぐに記憶のことなんてちっぽけに感じるようになるさ!」
などといって励ましてくれた。
それどころか、初級モンスターの狩りに関する知識や、収集クエストの効率的な周り方、各種パラメータの効率的なアップ法など、それはそれは丁寧なアドバイスをたくさんもらった。
そのおかげで、ユーヒは4日目には昇格クエストを軽く突破し、現在は
冒険者のランクでは最下位に位置するが、この「銅のプレート」を持つもの以上が、いわゆる「認定冒険者」とされており、見習登録をしたギルド支部以外の世界中のギルドで依頼を受注できるようになるという仕組みだ。
ちなみに、クラスの順は下から、
『夕日の設定』ではここまで細分化されていなかったが、これも1000年のうちに変わったところなのだろうか。
(まだまだ知らないことが多すぎる――。魔物の種類も随分と増えているし、何よりまだ、小鬼や大鬼などにすら遭遇していない――)
『小鬼・大鬼』というのは、夕日の書いた物語で、主に『魔巣』の内部に現れる魔物だった。小鬼というのはいわゆるゴブリンだ。それに、大鬼はその上位種である、ホブゴブリンか、ゴブリンロードをイメージしていた。
どちらも、駆け出し冒険者たちを大いに苦しめた魔物だった。小鬼はすばしっこく攻撃速度が速い。得物とする短剣での刺突攻撃は人族の一般人なら避けることは難しいだろう。大鬼は、その得物である大斧が特徴だった。体は小鬼とは比べるべくもなく大きく強靭で、その圧倒的な筋力から繰り出される一撃は容易に受け止めきれるものではない。劇中では、アル(主人公)の父の腕を斬り飛ばしている。
(あのクラスの魔物が僕が今まで経験したクエストに登場していない――。もしかして、今はもう出現しないのかな?)
などと、疑問に思っていた。
しかし、この街、ケリアネイアを出て間もなく、ユーヒは現実と向き合うことを強要されることになる――。
それはさておき、ルイジェンは『第一目標』と言った。つまり、次の目標もすでに決めてあるということだ。
次の目標、それは、ソード・ウェーブのギルド本部にて、『上級冒険者養成特別訓練課程』、いわゆる『
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