第68話 森の中にいる

 いま、ちょっと……

 いや、ホンネ言うならバチクソへこんでます。

 ボコッって感じにへこんだ漢字あるでしょ、あれぐらい凹んでます。

 凹むってよくできた文字だよなぁって思うですよ。

 ハンマー勇次郎に殴られた地面ってあんな感じで凹むんでしょうね。

 ふ……

 今の俺のメンタルもハンマーさんちの勇次郎くんにぶん殴られたんじゃ無いかってくらいに凹んでます。


 何で凹んでるって?

 何てか……また、アルフレッドを傷付けてしまった。

 や、ちゃうよ!

 暴言吐いてないし、暴力だって振るってないよ!

 そんな数多のあたおかみたいな理不尽系ヒロインみたいなことやって無いから。

 そもそも男がヒロインとかおかしいけどさ。

 むぅ……

 アルフレッドアイツめっちゃ美人だけどどこか腹黒そうなのに、何で俺と話してるとあんな申し訳なさそうな顔すんだろ?

 しかもさ、俺が謝ったあと部屋から去り際に、


『君に謝って欲しくないしその資格もない……』


 とか泣きそうな声で言うとか。

 くそっ!

 俺のエルフイヤー舐めんなッ!

 ビックリするぐらい聞き取れるんだぞ!

 難聴系なんて無理無理の無理ゲーなんだからな!!


 あー、めっちゃくさくさする!!

 喉元までなんか出そうなのに何も出てこないこの感じ、ニララーメン食ったあとに奥歯にニラが挟まって延々と取れなかったとき以上に苛つく!!

 ………………


「ふんがっ!!」


 ゴンッ!!


「お、おぉぉおぉぉぉぉ……くらくらすゆ……」


 勢い任せにベッドサイドにぶちかました頭突き。


「あ、おぁあう゛ぁ……あぶべびゃにゃ……」


 う、呻き声しか出にゃい……

 両親、おもに父さんにさえも禁止された自虐行為。

 そう、あの・・父さんにすら止められた禁断の自虐業。

 ズキズキすゆ……

 いだだ……や、アホちゃいますよ?

 ただねぇ、自分の心根が許せなかったとですよ。

 謝って許されなかったから苛つくとか、どんだけ傲慢なんだと思ったとです。

 アルフレッドアイツを傷付けたのも、泣き出しそうな顔をさせたのも俺が悪いのよなぁ……


「ああ、もう! なんでこんなに悩んでんだよ!? 俺だぞ! 脳みその処理能力ファ〇コンレベルとか、ビックリするほどのレゲェ機で喩えられた男だぞ!! そんな俺がこんなことで立ち止まってるとか、思春期か! や、十五歳だから思春期だ!!」


 ……

 …………

 ………………

 

 何一人でボケ突っ込みしてるん、おれ?

 ふと、なけなしの理性が込み上げ冷静さを取り戻す。

 俺式賢者モードとでも名付けるか。

 

「はぁ……とりゃっ!」


 ボフンとベッドにダイブしだらしなく伸びをする。

 ん~……

 ダメだまた煙噴きそう。

 こんなに悩んだの、母さんが突然『ママ、ゆーちゅーう゛ぁーってのになるっ!! キリッ』ってYouTuberの意味も分からないくせに言い出した時以来だな。

 あん時はどうやって解決したんだっけ?

 ん~……あ、思い出した。

 何時もなら俺以上に悪ノリして引っかき回すくせに異様に冷静だった父さんが止めたんだった。

 ……今思えば異様に冷静な父さんって、テレ東がアニメ流すのやめて緊急速報出すレベルの異常事態だよな。

 でも、はっ……あれはただ自分の嫁を世間に晒すのが嫌だったんだろうなぁ。

 母さんラブの人だし。

 とにもアレか、ようは冷静なのが一人居ると糸がグシャグシャに絡まって見えるような状況でも意外と簡単に打開できることってあるかもだよな。

 冷静ねぇ……


 俺×

 うん、だって俺だよ?

 自慢じゃ無いが冷静という属性とすこぶる相性が悪い自信しか無い。


 アルフレッド×

 ×だよなぁ、アイツは……

 たぶん、なんか知らんけどアイツは普段は冷酷レベルで冷静な気がするんだよなぁ。

 あくまで多分だけどさ。

 なのに何故か知らんが今は救いようないくらいにクソぽんこつときている。

 そんなクソぽんこつに冷静さを求めるとか、地雷原を笑顔でスキップして駆け抜けろって言うぐらい無理ゲーだ。


 となれば必然的にカーズさん一択だよな、うん。


「よし、決めた。すいません、カーズさん、カーズさんいますかぁ! あ、いますかじゃなかった。いらっしゃいますか!」


 そして、気が付いたら俺は……

 森の中にいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る