第9話 ジャイアントキリング

「念話」


 俺はスキルを発動した。


『あー、ドラゴン君。俺達を食うつもりなのか? やめた方がいいぞ。俺達は毒まみれだ』


 嘘をついた。


『毒なぞ効かん。食ってやる』

『待て。見逃してくれれば、何でも願いを叶える』

『じゃあ、大人しく食われろ』


 駄目だ。

 説得できる自信がない。

 もうあったまきた。


『この分からず屋!!!!!!』


「ふぅ、フルパワーで怒鳴ってやったぞ。魔力が空でなにも出来ないが、思い残すことはない。いいや、思い残すことはいっぱいある」


 あれっ、ドラゴンの様子がおかしいぞ。

 フラフラしてる。

 ああ、至近距離でフルパワー念話を食らうとこうなるのか。

 今のうちに何とかしたい。

 ファル達4人を引きずって逃げるのは無理だ。

 ドラゴンは追いかけてくるに違いない。


 そう言えばドラゴンには逆鱗という弱点があるんだったな。

 俺はマナポーションで魔力を補給すると、ドラゴンによじ登った。

 ドラゴンの首の付け根にある鱗の色が違う箇所に短剣を突き立てた。


「ギャゥゥゥゥゥン」


 俺は慌てて飛び降りた。

 ドラゴンが倒れる。

 俺は下敷きになった。

 だが苦しくない。

 這い出ることに成功。

 きっと、偶然、隙間に入ったんだな。


 今日はついている。

 人生で一番のラッキーデイだ。

 反動が来ないことを祈る。


 やったぞ。

 勝てた。

 喜びが湧いて来た。


 さて、どうしよう。

 俺が倒したと言って信じてくれるかな。

 きっと無理だな。

 ファルは信じてくれるだろうが、周りは違うと思う。

 周りが信じてくれたとしても、最後に美味しい所を持っていた奴だと言われそう。


 実に面倒な事態になりそうだ。

 詐欺師扱いされるのも嫌だし、報奨金をたかりにくる奴らを追い払う自信がない。


 金は惜しいが、命には代えられない。

 ファル達が助かっただけでもよしとしないと。


 逃げるが勝ちか。

 俺はファル達にポーションを飲ませその場を後にした。

 照明スキルがやっと切れた。

 照明が変装になってたら良いなと思う。


 そして街に戻って何食わぬ顔をした。

 下手にファル達が相打ちで倒したとか言わない。

 逃げたとも言わない。

 とにかく知らぬが仏。


 学園に戻ると、みんな疲れた顔をしてた。

 後方にいたとはいえ一歩間違ったら、死んでいたんだからな。


「くそっ、くそっ!」


 サカズムがイラついている。

 念話を使わなくても分かる。

 惨めに逃げ出した自分にイラついているのだろう。


 俺は逃げなかったぞ。

 サカズムに初めて勝てた気がした。

 いいや初めて勝ったんだ。


 自分が誇らしい。

 先生が生存確認をしている。


「ラウド、お前、生きていたのか?」

「しんがりは務めた。文句ないだろう」

「悪運の強い奴め」


 さて、これで今日は解散だな。


 冒険者ギルドに行くと大騒ぎだった。

 声より念話の方が良く聞こえる。

 念話発動。


『ドラゴンを倒したのは聖剣の担い手か。さすがSランクパーティ』

『どうやら、あとひとりいるらしい』


 俺の存在がばれている。

 ちょっと冷や汗。


『明日はパレードだって』

『くそっ、俺は何で逃げたかな。英雄になれたのに』

『あれは仕方ない』

『羨ましいが、今の俺にはドラゴンは無理だ。鍛えるしかない』

『酒が飲みたい気分だ。生き残ったことに乾杯したい』


 俺も飲みたい。

 成人は過ぎているから飲んでも問題ない。

 冒険者ギルドの酒場の椅子に腰かけた。


「エールと、肉串」

「はいよ!」


 俺、やったな。

 誰にも言うつもりはないけど。

 英雄だのなんだの言う前に、今まで親切にしてくれた人達を守れたのが嬉しい。

 今までにどれだけマナポーションを貰ったか分からない。

 きっと何万本にもなるんだろうな。


 その後押しがあって今の俺がある。

 俺ひとりの力で勝てたんじゃない。

 みんなの力で勝てたんだ。

 みんなありがとう。


 寮に帰る。

 もう安宿に泊まるのはお終いだ。

 俺はサカズムに負けない。

 何からも逃げない。


「おい、サカズムさんが、修練場でお待ちだ」


 取り巻きにそう言われた。

 どうせ、俺をボコボコにして憂さを晴らしたいのだろう。


 防具を身に着け行くと、木剣を持ったサカズムがイライラしていた。


「遅い。今日は10本だ」

「ああ、やってやる」


 模擬試合が始まった。

 だが打たれても痛くない。

 きっとアルコールで麻痺しているんだろうな。


「何で倒れない?」

「酔っているから?」

「くそっ、興ざめだ。もう良い。俺も飲む」


 サカズムが行ってしまった。

 念の為、開発中ポーションを飲む。

 いつもの激マズの味だ。

 ヨークさんも工夫しているがなかなか結果が出ないな。


 やめたらなんて言わない。

 鍛錬すればするだけのことはあるからだ。


 きっと、何年かすれば味が良くなるさ。

 寮の部屋でベッドに横になる。

 今までのことを考える。

 色々とあったな。

 誰も起こしに来なかった。

 きっとサカズムが酔いつぶれたのだろう。


 だが、もう脅しを恐れたりしない。

 俺は変わったんだ。

 どこがどうとは言えないけど、芋虫から蝶になった。

 俺は盛大に殻を破った。

 そんな気がする。


 ドラゴンに勝てて、模擬試合で一度も膝を着かなかったからかな。

 自信が付いたとでも言おうか。

 叫びたい気分だ。

 今日は良い夢を見れそうだ。


 いつの間にか寝てた。

 3人の女性といちゃいちゃしてる夢を見た。

 エッチで気持ちいいことをした。


 うわっ。

 飛び起きた。

 やっちまった。


 朝からブルーだ。

 調子に乗ってたから罰かな。

 パンツ洗わないと。

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