【おまいら】邪神★お兄ちゃん教【絶許】
その子四十路
第1話
「もし、そこのお嬢さん。あーた、
中洲川端の飲み屋街を歩いていたら、うさんくさい人物に呼び止められた。
年齢・性別はわからない。目の覚めるような紫色の衣装を頭からすっぽりとかぶっている不審者に。声は酒焼けしていて、煙草くさい。
易占いと書かれたポスターがテーブルに貼ってあるから、占い師なのだろう。
こういう占い師って、ちゃんと許可をとっているのだろうか。怖いひとたちに、みかじめ料を請求されたりしないのかしら。
紫色の占い師は、おいで、おいでと手招いた。
「ああ、お兄ちゃんですよ」
「なんだって?」
「死んだお兄ちゃんが、わたしに憑いているのです」
「そりゃあ、また……」
わたしが生まれるまえに亡くなった兄の
兄の命日とわたしの誕生日が近いせいか、妹に愛着を抱いているのか、ただなんとなくなのか、理由はわからないが、くっつかれている。
それよりも、この占い師、易占いに水晶占い、手相占い、四柱推命ができるんだって。ずいぶんと多彩なのねぇ。
おまけに霊感があるんでしょ。ハイパー節操なしじゃん。
「こちらに、おいで。除霊してあげる」
「いや、けっこうです」
「お金はいらないから。あーた、寿命が短くなるよ!」
「べつに、いい」
「いや、よくないでしょ! 得体の知れないナニカが、マフラーみたいに首に巻きついてるのよ!」
「お兄ちゃん、身体が柔らかいんだね」
毛皮のマフラーならぬ、お兄ちゃん(死霊)のマフラー。どんな体勢になっているの? ちょっと、見てみたい。
「あーた、死ぬわよ!」
「生きとし生けるものはみな、死にます」
「そりゃあそうだけど……生命を吸い取られているのよ! 怖くないの?」
「──お兄ちゃんはね、わたしのそばにいたいんでしょ。このままでいいの」
兄の環は、たった二歳で亡くなった。だから、わたしのそばにいたいのなら、好きにさせてやりたい。
怖いものか。死んでいたって、兄は兄だ。わたしのたったひとりの実兄なのだ。
「そう……」
占い師は納得していないようだが、口ごもった。
わたしは霊よりも、うさんくさいあなたのほうがよっぽど怖いよ。印鑑やら
「あら、でも……お兄さん(?)だけじゃなさそうね。なんか……小動物が混ざっているみたい」
「犬、飼っていたから。あと、地域猫とか、うさぎの霊じゃないかな」
「うさぎ?」
「わたし、うんと田舎で生まれ育ったんです。たまに、親と死別した子うさぎを、山で拾ってきたの。母方のおばあちゃんが」
怪我や病気を治療してやったり、えさをやったり。猫は貰い手を探して。野生動物は野に返す。
それでも、助けてあげられなかった生命は、看取った。いくつもの生命を。
「お兄さん(?)と、小動物の霊が複雑に融合して、
「へえ。混ざっちゃったんですね。お兄ちゃん、キメラなんだぁ」
「ええ。邪神のような、醜悪なビジュアルよ」
「ボスキャラみたいで強そう」
「他人事みたいに言って……本当に、除霊しなくていいの?」
「面白いから、そっとしておいてください」
「まったく……なんて子かしら」
兄も、その他大勢も、わたしのそばにいたいなら、みんなおいで。
「あ、でも、肩こりがひどいので、加減してくれないかって、頼んでくれませんか?」
「肩こりはお兄さん(?)、関係ないわよ」
「霊障じゃあないの? ジーザス……」
お兄ちゃん(死霊)のマフラーが無関係なら、わたしの肩はなぜ、がちがちにこっているのだ?
「じゃあ、コンビニのトイレの電気を急に消すのも、やめてほしいって伝えてください。びっくりするから」
「それも、関係ないわね」
「なんなの? お兄ちゃん、ぜんぜんだめじゃん。もうちょっと本気で、超常現象起こしてくれないと」
わたしに憑りついているくせに、肩こりも治らないし、コンビニのトイレの電気は消えるし。気合が足りないんじゃあないの。本気出していこうぜ! オー!
「お兄さん(?)に多くを求めちゃだめ。霊に力を貸してもらうのって、すごく危険なんだから」
「はーい。ありがとうございました。じゃあ、友人と待ち合わせしているので」
気づかわしげな占い師の視線をさえぎって、わたしは歩き出した。
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