いつも教室の隅に居る地味なあの子が気になって仕方ない【SS集】

ナカジマ

SS集01 中学時代の真君

 中学3年の春、俺は放課後に体育館裏に居た。隣のクラスの女子に呼び出されたからだ。とっくに慣れはしたけど、この時間がどうにも好きにはなれない。

 好意を寄せてくれる事には感謝しているけど、俺の答えは常に1つだからただただ申し訳ないだけだ。


「中1の時から、ずっと葉山君の事が好きでした! 付き合って下さい!」


「……荒川あらかわさんみたいな女の子に告白されるのは嬉しいよ、ただごめん。今はサッカーに集中したいから」


 結局はこう答えるしかない。隣のクラスに居る荒川さんは、確かテニス部だった筈だ。1年の時に同じクラスで、同じ体育会系同士何度か会話した記憶がある。

 ショートカットでボーイッシュな明るい女の子だ。結構男子に人気があって、女子からも人気のある容姿の整った子だ。

 可愛いと言うのは分かるけれど、恋愛対象として見れるかと言うと違う。俺としては付き合いたいとまでは思わない。友達やクラスメイトとしてなら全然大歓迎なんだけどな。


「な、なんか、ゴメンね。そうだよね」


「いや、俺の方こそゴメン」


「じゃ、じゃあまたね!」


 今は違ったけど、きっと彼女も後で人知れず涙を流すのだろう。だから俺はこの告白と言うイベントが好きになれない。女の子に泣かれてしまうからだ。

 昔からずっとそうだし、もっと小さい頃なんて幼馴染の小春こはるを巻き込んだ問題になったりもした。

 中学に入ってから仲良くなった、友香ともかも何度か嫌味を言われた事がある。周りにもそんな迷惑が掛かるから、どうにも俺は恋愛に積極的になれない。

 男の俺が思うよりも、女子が持つ恋愛に対するエネルギーは凄い。凄いのだけど、出来たら俺に向け無いで欲しい。

 贅沢な悩みなのは理解しているが、それでもやっぱり辛いものがある。そんな事を考えながら教室に戻ると、小春達が待ってくれていた。


「あ〜まあこうなるわよねマコなら」


「葉山だからね、まあそうだよ」


「ホンマ女泣かせの罪な男やで」


 小春は兎も角、翔太しょうたや友香まで好き放題言ってくれる。俺だって好きで告白を断っているのではない。

 その気になれない相手と、とりあえず付き合うなんて不誠実な事をしたくないだけなんだ。

 だけど真っ向からストレートに、君を好きなれるか分からないとは言えない。昔一度だけ言ってしまった事があり、それはもう滅茶苦茶泣かれた。

 そして小春にもかなり怒られた。女子にその回答は駄目だと。それ以降はサッカーに集中したいと答える様にしている。

 そんなに悪い事なのか? 半端な気持ちでは付き合わないと言う方針は。相手に悪いとか、皆は考えないのだろうか。


「なあ葉山って、もしかして男がエエんか?」


「ばっ!? そうじゃねぇよ!!」


「ほな何で毎回断るねん」


「だって……好きになれなかったら相手に悪いだろ」


 俺にはどうしても、そうなるビジョンが見えないんだ。相手が誰であろうとも。そりゃあ昔は従姉のさやねぇに、俺が結婚してやるよなんて4歳の時に言った事はあるけどさ。

 あれだって恋と言うよりも、ガキだった俺の憧れによるものだ。良く遊んで貰っていたからとか、そんな理由でしかない。

 だが恋愛となると、そんな簡単な話ではない。付き合うとかそもそも良く分かっていないけど。

 ここに居る俺以外の3人は恋愛経験があるけど、俺だけは一切無かった。どうしてそうポンと付き合えてしまうんだろう。遠距離恋愛の友香は、ちょっと関係が特殊ではあるけど。


「ん〜マコって昔からそうよね」


「嫌って事は無いけどさ、何て言うのかな」


「タイプじゃないとか、そう言う話かい?」


 タイプじゃない、と言うのも違う様な近い様な。ピンと来ないと言えば良いのだろうか。理由としては本当にそれぐらいしか思い浮かばない。

 大体、女子を好きになると言うのが先ず分からない。もちろん俺にだって、可愛いかどうかぐらいは分かる。

 例えば小春や友香はこの学校でもトップクラスに容姿が整っている。ずっとこうして一緒に居るけど、でもだからと言って好きになるのかと言えばノーだ。何て言えば良いんだろう、言葉にするのが難しい。


「何て言うかさ、何か違うんだよな」


「何やそれ? ハッキリせぇへんな」


「そう言う感覚の話も有るっちゃ有るけどさぁ。アンタのは分かんない」


「何かって言われても、僕らには分からないね」


 そんな事を言われても、実際そうとしか言えない。どんなに美人な女性でも、どんなに可愛い女子であろうとも何かが違う。

 俺の心の何処かで、違うと訴えて来るんだ。ハッキリとした理由は自分でも分からないけど、違うと言う感覚だけは分かるんだ。

 根拠を説明しろと言われても出来ない。本当にこう、本能的な何かだ。この子じゃないと言う気持ちが、必ず何処かから湧いて来る。それがタイプかどうかって事なのだろうか。


「ほなどんな子がエエねんな?」


「……………………笑った顔が可愛い、とか?」


「ウチに聞くなや! ほんでそんなん結局顔やん!」


 何となく出てきた答えがそれだったんだけどな。顔の良し悪しで選んでるつもりは無いんだが。荒川さんだって容姿は整っている訳だし。

 そう言う事じゃ無いんだけど、説明のしようがない。結局その日も、明確な答えは出ないまま終わった。

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