第18話 町の観光

 翌日、俺とルーナは朝食を食べてすぐに観光スポットへ来ていた。

 ちなみに今朝はルーナが先に起きていて、寝顔を見れなかった。

 なぜか顔が赤かったが。


 この町の近くにはいくつかの有名な場所があって人がかなり多いため、朝早くから最も近い場所を訪れていた。

 そこは町を出てすぐのところで、大きな滝が有名なスポットだ。

 有名なだけあって、ルーナはその景色に見入っている。


 「わあ、すごい迫力ですね。ルフト様も見てください」


 「そうだな」


 「? 私の顔に何かついてますか?」


 おっと、景色に微塵も興味が無くて、ルーナを眺めていたら変に思われてしまった。


 「いや、景色よりもルーナを見ていたいからね」


 「え. . . . . . い、いきなりは良くないです. . . . . .」


 頬を染めて俯くルーナ。

 フードを被っているからいいものの、もし他の奴が見てたら消すところだった。

 俺の心臓にも良くないな。


 「も、もっと近くに行ってみましょう!」


 俺の視線に耐えきれなくなったルーナが他へ意識を移す。


 「飛んでいこうか?」


 「それはダメです。他の人が多すぎです」


 確かに、この中でルーナが目立つのは良くないな。

 今は人混みに紛れているが、また前の町みたいに住みにくくなるかもしれない。


 「わかった。じゃあ、歩いて行こうか」


 はぐれないようにルーナと手を繋いで近くまで歩いて行く。

 どんどん人が多くなっていった。


 「魔物が出たぞ!」


 「早く逃げろ!」


 滝の近くに来てみると、多くの観光目当ての人々が逃げ回っていた。

 どうやら魔物が出たらしいが、魔物の森からはまだ距離があるのに、なぜ出てきたのか。

 人為的なものならば少し調べなければならない。


 「ルフト様。見に行ってみましょう」


 「わかった」


 ルーナは相変わらず優しい。

 心配そうな顔からして、きっと襲われてる人を助けてあげたいのだろう。

 すでに近くの全員にはバリアを張ったので、これ以上傷つく人は出ないだろうが。


 「おいっ、大丈夫か!」


 「あ、足を噛まれた。動けない」


 「くそ! なんでこんな所に魔物がいんだよ!」


 魔物の所に行ってみると、狼型の弱い魔物が剣を持った弱そうな男に襲い掛かっていた。

 その男の後ろには足から血を流した男が座っている。

 この程度の魔物など、夕凪の序列最下位でも余裕だろう。


 「ルフト様。助けてあげましょう」


 「そうだな」


 ルーナに頼まれたのなら助けるしかないな。

 風の刃で魔物を真っ二つにする。


――ザシュ


 死んだ魔物はその場に血だまりを作り出した。

 魔物を消したので、もう大丈夫だろう。


 「滝の所へ戻ろうか」


 「はい」


 ルーナも安心したようで、すぐに頷いて元の場所へ歩き出す。 


 「!? 何が起きたんだ?」


 「誰がやった?」


 その後ろでは、いきなり二つになった魔物を見て混乱している人々の姿があった。

 

 「今のって. . . . . .」


 「死神?」


 そんな人々の中にはフードの小さな子供を目で追いかける人々が混じっていた。



 ♢ ♢ ♢



 滝の場所である程度観光した後、人が多くなってきたのでもう少し町から離れて、魔物の森の近くまでやってきた。

 この辺は魔物がたまに出るため、命が惜しい人は近寄らないらしく、観光目的の人もだいぶ少なかった。


 「かなり人が少ないですね。けっこう視線を感じますし」


 「この辺りには魔物が出るらしい。戦えない人は近づかないんだろう」


 人が少ないということは、人混みに紛れることができない。

 つまり、俺とルーナはかなり目立っていた。

 子供だけで魔物の森の近くに来るなんて自殺行為だからだ。


 「あの、ルフト様。先ほどからつけられてるように思うのですが」


 「あぁ、そうだね。どうやら俺たちを守ろうとしてくれてるようだ」


 「そうなのですか? 優しい方ですね」


 「あぁ、子どもだけでこんな所にいたら襲ってきそうなものなんだが」


 町を紹介してくれた冒険者の気配ではない。

 そもそも、あの力を見せたのだから俺の心配はしないだろう。


 「おい、君たち。ダメだろう? こんな所に来ちゃ」


 2人組の冒険者らしき男たちが近づいてきた。


 「忠告ありがとう。だが心配ない」


 「いや、そういう訳にはいかないよ。子供が死ぬのを見過ごせない」


 「そうか。なら杞憂だから案ずるな」


 そう言って、森の方へ歩いて行こうとすると、ルーナの腕を捕まえようとしてきた。


――ゾワッ


 「ヒッ」


 いくら心配してくれてるとはいえ、ルーナに触れるなど許せない。


 「ルフト様。この方たちは私たちを心配して下さったのですから、乱暴はいけません」


 「. . . . . . わかった」


 ルーナがそう言うのなら仕方ない。

 今回は見逃すとするが、たとえ相手が善意だとしても、ルーナを不快にさせるものなら俺は容赦しない。


 「これで心配はいらないな?」


 「わ、わかった。悪かった」


 そう言ってその場を急いで離れて行った。

 去り際に“化け物”と呟きながら。

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