第14話
「いってらっしゃい! 若頭!」
「初めて
「いやぁ、幸せそうだなぁと思いまして」
「ああ、幸せだ。な、結愛」
急にふられて、私はドキマギとしながらもうなずいた。
「しあわせ…です」
そう。幸せなのだ。
あれから千都さんとの間にあった壁がなくなって、したいことも欲しいものも素直に甘えられるようになっていた。
もうこの家から出たいと思うこともなくなったのも大きく変わったことの一つ。
仕事に行きたいっていうのはまだ叶えてもらえそうにもないけど…。
それにこうして千都さんを見送ることも大きな変化の一つだった。
「迎えに行ったときはどうなるかと思ったけど、結愛ちゃんが幸せならよかった」
そう隣で笑んでくれるのは、私を卒業式の日に迎えに来てくれた一人で組の構成員のシグさん。
シグさんは私よりちょっと大きいくらいの低身長。だけど力持ちの男の人だ。
シグさんっていうのは愛称で、本名なのかはわからないけど名前は『
「
「それは残念でしたね」
「あ?」
シグさんは私の肩を抱き寄せてこつんっと頭をぶつける。
だけどその瞬間に千都さんが私たちを引き離した。
「ちょっと若頭、そんな乱暴にしなくてもいいじゃないですか!」
「俺の嫁に触るからだろ。それも俺の目の前で触りやがって」
「もう嫉妬深いんだから。でも、まぁ今から結愛ちゃんとお菓子作りですから、触るなっていうほうが無理な話ですけどねぇ」
「なんで菓子作りなんか…」
「ほら遅れますよ。いってらっしゃい、若頭」
「…いってらっしゃい、千都さん」
シグさんに合わせて手を振ると、千都さんは盛大にため息をつきながら背中を向けた。
「行ってくる。が、結愛に余計なこと吹き込むんじゃねぇぞ。時雨」
「はーいっ」
「本当にわかってんのかよ…」
そうぼやきながら千都さんはお仕事に向かった。
「さて、結愛ちゃん」
「うん。よろしくお願いします」
「うん! よろしくね!」
それから私たちはキッチンに向かった。
初めて挑戦するお菓子作りに胸が高鳴る。
千都さんへの初めてのプレゼントだから上手に作らなくちゃ…!
そう意気込んで私はシグさんとお菓子作りを始めた。
……
完成したクッキーを見てほっと息を吐く。
「できた…!」
「上手に焼けたね! ほら食べてみよう!」
「うん!」
焼きたてのお星さまの形をしたクッキーを口の中に運ぶ。
シグさんも丸いクッキーを口に運んだ。
「ん、おいしい」
「だね! 初めてとは思えないくらい上手だよ!」
「シグさんが教えてくれたから。ありがとうございます」
「いえいえ!」
千都さんは甘いものがあまり得意じゃないから、甘さ控えめで作った。
コーヒーにも合うと思うし、喜んでもらえるといいけど…。
「結愛ちゃんに誘ってもらえて光栄でした。ありがとね」
「こちらこそありがとうございました…!」
「うん! じゃあ冷めたらラッピングしようね」
「はい…!」
シグさんはてきぱきと後片付けを始めて、私は洗い物を始めた。
洗い物すら慣れてない私のスピードは遅い。
だけどシグさんは私が焦らないようにと話しかけてくれて、ゆっくりと丁寧に洗い物を終わらせた。
終わる頃にはお昼はとっくにすぎていて、私たちはお昼ご飯も一緒に食べた。
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