亡国の王子。見知らぬ土地で無双する。
code0628
序章
「我が国の危機をどうお考えですか!?王よ!」
謁見の間に響き渡る、華美な服装を身にまとった初老の男の怒号。
その顔には焦燥がにじみ出ていた。
「王にばかり問うのではなく、自身でも考えたらどうだ」
玉座の右後方で控えていた男が冷淡に言い放つ。
全身を覆う黒いパワードスーツが彼の姿をより一層威圧的に見せている。
「まあまあ、落ち着きましょう。我々もこの事態にどう対処するか、今まさに議論している最中です」
玉座の左後方に控えていたローブ姿の男が歩み出ながら口を開く。
彼は部屋の大きな窓へとゆっくり近づき、その外の景色に目をやった。
かつて賑やかだった城下町は、今やその面影を完全に失っていた。
黒い霧が地上を覆い尽くし形を持たぬ不気味な存在が通りを彷徨ってい、幽霊のような存在は、顔に目がなく、その代わり中央にぽっかりと開いた空虚な穴が不気味に輝いていた。
パワードスーツに身を包んだ兵士たちや魔術師が抵抗を試みているものの、状況は絶望的だった。
裂けた空からは次々と新たな敵が降り注いでいる。
「このままでは、守りが突破されるのも時間の問題ですね……」
ローブの男は静かに呟き、再び玉座の方に目を向ける。
燃えるような赤い髪を持つ男、王がそこに座っていた。
彼の青い瞳は冷静そのものであり、氷のように鋭く空の裂け目を見据えていた。
「国民を長距離転移で避難させよ。ここにいる者達の中にも避難したい者はそうするがよい」
王は静かに命じたが、その声には重厚な決意が込められていた。
部屋にいた貴族たちは動揺し、顔を見合わせる者、恐怖に身を震わせる者、すぐに逃げ出す者と、反応は様々だった。
「……どうやら、状況はさらに悪化するようだ」
王の視線が空の裂け目に再び注がれる。
皆がその言葉につられて窓の外を見た。
黒い鱗を持つ巨大な爬虫類の手が、裂け目を抉じ開けようとしていた。
そして、裂け目の向こう、暗闇の中からは恐ろしい真紅の目がこちらをじっと見つめていた。
それを目にした者の多くが絶望に打ちひしがれる。
中には逃げ出す者まで居た。
「ふん、貴族どもは自分のことしか考えておらん。やはり好きにはなれん」
黒いパワードスーツの男は不機嫌そうに呟き、扉に向かって歩き始めた。
「どちらに行かれるのですか?」
「全員が避難できる時間を稼ぐ」
男は振り返りもせずにそう言い放ち、謁見の場を後にした。
「行ってしまいましたね……それで、セリウス様、いかがなさいますか?」
ローブの男が問いかけると、王は少しの間考え込むように瞳を閉じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、王城の長い廊下を歩く三人の姿があった。
その中心にいるのは、長い白銀の髪を持つ若い男、アルティス。
左右には黒髪と紅い瞳の美しい魔族リリス、全身を灰色の毛で覆われた金色の瞳を持つ狼の獣人ガルド。
彼らの表情には焦りと決意が混ざり合っている。
「親父は今どこにいるんだ?」
「謁見の間にいるそうです、アル様」
従者リリスの言葉に、アルティスは眉をひそめた。
事態の深刻さは彼自身も十分に理解している。
だが、父親である王がどのようにこの状況に対処するのかを待つだけではいけない。
自分にも果たすべき責務があると悟っていた。
「親父がどう動くかは関係ない。俺たちもすぐに行動を起こす」
彼は立ち止まり、従者たちに強い決意を込めた視線を送った。
「避難の時間を稼ぐために、俺たちでできることを始めよう。全員が無事に逃げられるようにするんだ」
従者たちは頷き、その決意に応じた。
そして、彼は再び歩き出す。
自分の役割を果たすため、そして王国の未来を切り開くために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます